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 歩いた距離は遅々として進まず、時間だけが過ぎていく。

 何度目かの休憩のために立ち止まったとき、昭子あきこは決意した。


「このままじゃ日暮れ前に森を抜けることが出来ないわ。私が助けを呼んでくるから、心細いかもしれないけれど、小春こはる様はここで待っていてください」

「わかりました」


こんな時でも穏やかな笑みを浮かべてくる小春を、昭子はしばし見つめる。


「……何か?」

「私に殺されるって噂が流れていたのに、戻ってこないとか不安じゃないのかしらと思っただけよ」

「昭子様と同じです。私は、昭子様を見て、そういうことをするお方だとは思わないから信じているだけです」

「そう」


 この子はこうやって相手の喜ぶことをいい、いろんな人を味方につけてきたのだろう。

 けれど、この子はうっかりボロを出して慌てふためいてしまうような子だ。

 だから、きっとその言葉は表面的なものではない。

 そう信じられた。


 身をひるがえすと昭子は駆けだした。

 足元の石が邪魔をし、気持ちばかりが先へ進む。

 そんな焦る昭子をあざ笑うかのように日は傾いていった。

 あたりは暗くなり、遠くまで見渡すことが出来ない。


道明みちあき実幸さねゆき様ー」


 声を張り上げるが、川の水のごうごうという音ばかりが耳に届く。

 足元を確かめながら、何度も呼び続ける。

 遠くで動物が吠える声がする。

 心がすくみ、声が止まる。

 深呼吸をして気持ちを落ち着け、声を張り上げる。


「道明ー実幸様ーきゃっ」


 足元の石に躓き、地に手をつく。


「もぅ。どこにいるのよ」


 悪態をつきながら痛みをやり過ごし、裾の土埃を払って立ち上がる。

 疲れか焦りか、何も考えられない。

 ただひたすら兄と夫の名を呼び続ける。


 不意に、揺らいだ視界を光がかすめた。


「……え?」


 光は急速に近づいてくる。


「昭子!」


 馬上の人物は馬を下り昭子に駆け寄ると、その身を抱きしめた。


「……実幸様?」


 足の力が抜け、昭子はへなへなとその場に座り込む。


「無事でよかった」

「それより、向こうに小春様が」

「実幸様、私が」


 遅れてやってきた道明に実幸が「頼む」と告げると、道明が幾人かの使用人を引き連れてかけていく。

 

 遠くにかけていく明かりが歪む。


 こぼれた涙を周りに知られぬよう、昭子は実幸の胸に顔をうずめた。


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