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カワイイ子猫のつくり方  作者: 龍野ゆうき
不思議な同居生活
7/73

2-1

普段の生活からは想像もつかない、不可思議な出来事。


(…こんなことって、あるんだ…)


未だに、この現実が信じられない。



それに、こうしている間の自分自身の身体はどうなっているんだろう?とか。


どうやったら戻れるんだろうか?とか。


本当に解らないことばかりで。


今は、ただただ頭が憔悴しきっていて何も考えられなかった。



雨に濡れてすっかり冷えてしまった身体に、不覚にも朝霧の手のぬくもりが安心感をもたらしてくれて、何だか不思議な気分だったけれど。


その温かな手の中で揺られているうちに、思わず眠気が襲ってきて実琴はゆっくりと瞼を閉じた。





少しウトウトしただろうか。


ずっと絶えず聞こえていた傘を打つ雨音が不意に途切れたことで、実琴はふと目を開いた。


どうやら朝霧の家に着いたようだった。


朝霧は子猫の実琴を片手に乗せたまま器用に傘を閉じると、慣れた様子で制服のズボンのポケットから鍵を取り出した。


(朝霧って徒歩通学なんだ。知らなかった…)


ここへ着くまでに少しまどろんではいたが、特に乗り物などを利用することがなかったことだけは、ちゃんと分かっている。


(ここって、学校の近くだったりするのかな?)


朝霧が歩いていたのは知っているが、どの位の時間を掛けていたかまでは曖昧だった。 


何となく周囲の景色を見渡してみたところで、次の瞬間。実琴は固まっていた。



(なに…?ここ…)



恐らく朝霧の家なのだろうということは分かる。


今いるのは玄関先で、目の前には庭が広がっていて。その右奥の方に、自分は寝ていて覚えてはいないが、きっと今くぐって来たのであろう門が見える。


こう言えば、わりと普通なのだが…。



(広さ、ハンパない…)



両親には申し訳ないが、建て売りである自分の家の庭など、てんで比べ物にもならないと思った。


広さは勿論のこと、綺麗に手入れされた庭は、まるでどこかの公園のようである。


(これって洋風庭園ってやつだよね。スゴイ綺麗…。もしかして、朝霧の家ってお金持ち?だったりするのかな??)


思わず恐縮している実琴を余所に、朝霧は自然な動作でドアを開けると、その家の中に足を踏み入れた。


途端に奥から声が掛かる。



「伊織坊っちゃま、お帰りなさいませ」 


「…ただいま」



(ぼっ…ぼっちゃまッ?!)


実琴は目を丸くした。


奥から出てきたのは背筋のピンと伸びた、品の良い年配の女性だった。


だが、その呼び名と服装等から家族…というのとは少し違ったものだということが何となく判る。


(朝霧のおばあさん…というよりは、お手伝いさんって感じなのかな?それにしても、朝霧が家で『伊織坊っちゃま』なんて呼ばれてるとは!)


何となく朝霧の弱味を握ってしまったような気がして、実琴はコッソリほくそ笑んだ。


すると、次の瞬間。不意にその女性と実琴の目が合った。


途端にその女性は「まぁ!」と声を上げると、目を丸くして近付いて来る。


「まぁ!まぁっ!まぁっっ!!」


手の中の子猫を覗き込んでくる女性に、朝霧は少しだけ嫌そうな表情を浮かべた。


(あー…こんな綺麗なお屋敷だし、やっぱり『捨てて来なさい』って追い出されるパターン…かな?)


実琴は耳を垂れて小さく縮こまった。



ありがちな話だとは思う。


(でも『捨てて来なさい』って怒られてしまう朝霧っていうのも、普段の様子から想像つかなくて面白かったりするけど…)



だが、実際の女性の反応は実琴の予想とは違ったものだった。


「まぁ、なんて可愛いらしい子猫ちゃんなんでしょう!」


その年配女性は、しわしわの瞼の下から覗く瞳をキラキラさせて、嬉しそうに自らの両手を合わせると言った。


「伊織坊ちゃまが動物を拾って来るなんて、もう何年振りのことでしょうかねっ。以前はよく捨て猫や捨て犬なんかを拾ってきていましたのに、最近は全然そんなこともなくなってしまって…。ばあやは寂しささえ感じておりましたのですよ?」


子猫に喜ぶというよりは、子猫を連れ帰って来た朝霧に喜んでいるようなその女性に。


朝霧は小さく溜息をついた。



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