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その守護霊さんが、わざわざ自分を探しに来てくれたこと。色々教えてくれたことなどを伝えると、朝霧は「ふうん。…相変わらずなんだな」と、溜息交じりに呟いた。
その言葉に首を傾げていると、朝霧が再び口を開く。
「俺は最近は見掛けていないんだが…。あの人は生前はあんな感じじゃなかったんだ。いつも寡黙で…」
(えっ?そうなんだ…?)
自分が出会った守護霊さんとは随分と印象が違う気がする。
昔を思い出しているのか遠い目をしながら朝霧は続けた。
「祖父が厳しい人だったから色々我慢も多かったんだろう。そんな生活から解放されたことで、変にハジケてあんな…好奇心旺盛な霊になってしまったんだな」
後半は、どこかげんなりした様子で語る朝霧に、何となくイヤな予感がした。
『もしかして…何かあったりしたの?』
「ああ。あの人が親父に憑いた当初、何度か良いように身体を乗っ取られた」
『…っ?!』
そこで頭の中に、まだ記憶に新しい彼女の姿が甦ってきた。
『幽霊になって初めの頃ちょっとした出来心で、ね。あ、でも乗っ取ろうとしたワケじゃないのよ。本当よっ』
出来心で誰かの中に入ったことがある…と認めた彼女は、取り繕うように乾いた笑みを浮かべていた。
(それって、朝霧に入ったってことだったのっ?孫に何やってんのっおばあさんっ!!)
…っていうか『好奇心旺盛』じゃ済まされないレベルだ。
思わずブルブルと毛を逆立てていると。
「お前は大丈夫だったのか?」
朝霧が聞いて来た。
『…え?』
こちらを気遣うようなその言葉に、思わず目を丸くしていると。
「あの人には既に常識が通用しないからな。変にいじられたりされなかったのなら別に良い」
溜息交じりにそう言われて、実琴は慌てて頷いて見せた。
『大丈夫だよ。それに、久し振りに人と話せて嬉しかったんだ。猫になってから誰とも話せなかったし…。守護霊さんには、すごく気持ち救われたんだよ』
ゆっくりと前足で文字を指し示し、言葉を伝えていく。
朝霧がちゃんと目で追ってくれているのを確認して、実琴は再び続けた。
『私…。朝霧にもずっと話をしたかった。でも、伝える術がなくて。結果的に騙すような形になっちゃって…本当にごめんなさい』
やっと、ずっと伝えたかった言葉を伝えることが出来た。
『ずっと…謝りたかったんだ…』
そっと見上げると、少し驚いたような顔をした朝霧と目が合った。
『ごめんね』言葉だけでそう言うと、実琴はペコリと頭を下げる。
(実際は「にゃー」としか言えてなかったけれど。)
朝霧は暫く、そんな実琴を無言で見下ろしていたが、小さく息を吐くと「別に…」と口を開いた。
「お前が謝る必要はないだろう。俺が勝手に連れ帰っただけだしな」
『…あさぎり…』
「最初から『変わった面白い奴』だという認識でいたからな。逆に真相を聞いて妙に納得しているぐらいだ」
そう言って、フッ…と口元に笑みを浮かべる朝霧に。
(何か遠まわしに私が『変わった奴』だって言われているみたいな…?)
言い回しに若干含みがあるような気もしないでもないけれど。それでも朝霧が笑顔を見せてくれたことが何より嬉しかった。
『私、朝霧にもっと…怒られるかと思ってた』
想像していたよりも朝霧の怒りを買っていないことに安堵しつつも、正直なところを伝えてみる。
「…何故?」
『だって…ワザとではないけど、朝霧の生活を覗いてしまったみたいで、それが…何だか申し訳なくて…』
すると、朝霧は予想外の言葉だったのか驚きの表情を見せた。
そんな朝霧の反応に、実琴は何だか恥ずかしさが込み上げて来て、たまらず慌てて下を向いた。
すると、頭上からクッ…と小さな笑いが聞こえてくる。
『?』
「…確かにな。学校では見せていない俺のプライベートを、お前は色々と覗き見てしまった訳だ。この責任は相当なものだよな?」
『…えっ?ええええぇーーーっ!?』
(もしかして私、余計なこと言っちゃったっ!?)
これは明らかな墓穴堀りだ。
(せ…せきにん…って…、なに?)
緊張して固まってしまっている実琴を前に、朝霧は再び小さく笑った。
「お前って、ホント分かりやすいな」




