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カワイイ子猫のつくり方  作者: 龍野ゆうき
波乱の目覚め
41/73

9-1

(やっと着いたか…)



朝霧は病院の駐輪場へと自転車を止めると、腕時計を確認した。


既に家を出てから45分が経過している。


それでも元々は車で30分掛かる所だ。かなりのハイスピードで到着したと言ってもいいだろう。


車通りの多い道を避け、裏道を選んで飛ばしてきたのが功を奏したのかも知れない。



朝霧は自転車に鍵を掛けると、慣れたように病院のエントランスへと向かった。


何度も足を運んだことがあるので院内はほぼ把握している。


ロビーへと入ると、周囲はそれなりの混雑を見せていた。


土曜日は患者は勿論、見舞い客も多いのが特徴だ。



朝霧は何気なく周囲を見渡しながら考えた。


(親父がここに着いてから既に1時間半近く経つ。裏の通用口の方で見失ったと言っても普通に考えたら、もうこの辺りにはいないと考えるのが無難だよな…)


通用口から、このロビーまでは割とすぐだ。


あいつが目的を持ってここへやって来たのなら、いつまでもこんな場所に留まるようなことはしないだろう。


既に次の行動に移している筈だ。


そこまで考えたところで、朝霧は心の内で小さく笑った。


(既に猫に対しての発想じゃなくなってるな)



だが、既に見つかって外へ出されたという可能性も無くはない。


現在騒ぎにはなっていないようだが、もし目撃情報などがあれば人々の話題に上がることもあるかも知れない。


朝霧は目と耳を働かせながら、ゆっくりと移動を始めた。





周囲に聞き耳を立てながら歩いていても、特に猫についての話題などは入って来なかった。


一応、無事に潜入したと考えて良いのかも知れない。



朝霧は奥まった場所にある階段へと差し掛かると足を止めた。


人の多いロビーから離れたそこは、シン…と静まり返っている。


上へ向かうのならば、間違いなくここを通るに違いない。



(『上へ向かうとすれば』…だがな。さて、どうするか)



朝霧は一旦後方を振り返ると周囲に目を配った。


目線は当然のことながら人々の足元や椅子の下などに集中してしまう。


だが、こうして見渡していても、それらしい姿は確認出来なかった。



自分的には、ミコは辻原を意識して行動しているものと思っている。


何故なのか理由は分からない。冷静に考えれば有り得ないとも思うのだが、どうしてもそこだけは譲れないのだ。


父親の荷物に紛れてここへ来たのも偶然なんかではなく、昨夜辻原が入院している話を聞いたからだと、変な確信さえ持っている程だ。



だが…。



入院している部屋を目指したとして、普通辿り着けるものだろうか。


そもそも、それなりに広いこの病院で子猫が迷わずに病棟のある上階へ向かうなど考えられないのではないのか。


(…とか考えていても、他に当てがある訳ではないしな)


結局は疑いつつも探さずにはいられないのだ。


(我ながら思考と行動が矛盾しているな…)


朝霧は一人苦笑を浮かべた。






その頃。


同建物の4階屋上では、朝霧父の守護霊であるという女性と実琴が未だ会話中であった。



『そうねぇ…とりあえず猫ちゃんを眠りから覚まして。まずは、それからかなぁ』


『そう…ですよね』



どうしたら元に戻れるのか。少しでも知恵を借りておきたかった。


(でも、どうやったら目を覚ましてくれるんだろう?)


今、自分は折角近くまで来ているのだ。自分に何か出来ることはないのだろうか?


実琴はあれこれと、頭の中で模索していた。



『それで、本当なら手っ取り早いやり方は、同じことをしてみるのが一番だと思うのよ』


『同じこと?』


『そう。あなた達の場合は、木から一緒に落ちるってことよね。その衝撃で入れ替わってしまったんだもの。もう一度試す価値はあるんじゃないかしら。でも、まぁそんな単純な話ではないかも知れないけれどね』


『なるほど…』


確かに試す価値はあるかも知れない。


実琴は大きく頷いた。



だが、その場合いくら目を覚ましてくれたとしても今の状況的にはキツイのではないだろうか。


(流石に、すぐに退院…って訳にもいかないだろうし。何より…)


目覚めた時の状態はどうなっているのか?それが何より不安だった。


人としての言葉を話すのか?


(「にゃーにゃー」とかだったら、はたから見たら私…きっと可哀想な人だよね…)


特に弟の武瑠辺りには、哀れな眼で見られること間違いなし、だ。


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