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カワイイ子猫のつくり方  作者: 龍野ゆうき
朝霧くんの観察日記2
32/73

7-2

「…何を言ってるのか、さっぱり分からないんだが?」



それでも、こちらの言葉は伝わっているらしく彼女は首を傾げたりしながらも、ぱくぱくと口を開けて何かを言っているのだが、やはり何も聞こえてこない。


まるで彼女の音声だけが切り取られてしまっているかのように。



だが実際、本人はあまり気にしていないようだった。


最初は、わたわたと身振り手振りで何かをしていたが、考え込んでも答えが出ないことが分かると、気持ちを切り替えたのか笑ってその先の道へと、すたすた歩き出した。



(今のは絶対「ま、いっか」って言ったよな)


こういうのを『プラス思考』と言うのか『適当』というのかは知らないが。


何にしてもコイツの場合、言葉なんか聞こえなくても見ていれば分かりやすい程にそれが表情に表れているので、こちらとしても特に問題はなさそうだ。


とりあえず、ここに留まっていても仕方ないので、そのまま辻原と共に歩いて行くことにする。




今までは薄暗い一本道だけだった周囲は、気が付けば明るい日差しが降り注ぐ緑に囲まれた遊歩道のようなものへと変化していた。


隣を歩く辻原は、こちらに声が届いていないことを知りながらも、飛び立つ鳥や周囲に咲く草花などを指さしては何だかんだと構わず話し掛けてくる。


(だから…お前が何を言ってるのか俺には分からないんだがな…)


半ば呆れつつも。


思いのほか穏やかな気持ちでいられることに、居心地の良さを感じていた。




「お前って面白い奴だよな」



うっかり口をついてしまった言葉に、辻原がこちらを見た。


初めは驚いたような、こちらの真意を窺うような表情だったのが、馬鹿にされていると思ったのか次第にふくれっ面に変わっていく。


「…そういうとこな」



くるくると変わる表情は勿論のこと、俺みたいな仏頂面を前にしても他の奴らと違って構えないところとか。


『面白い』というか、やはり『変わっている』。


ただの懲りないヤツなのか。


はたまた学習しない、ただのお馬鹿か。


それだけなのかも知れないが。



見ていて飽きない奴。


そう、思ったところで。



(…この感覚どこかで…?)



何かを思い出し掛けた、その時だった。


突然、つむじ風が吹き荒れる。



ザアアーーーーーッという、強い風に煽られて木々と木の葉が揺れてこすれる音が周囲を包んだ。


その、思わずよろめくような風の勢いに咄嗟に目を瞑ったものの、朝霧は隣を歩く実琴のことが気になり、自分の腕を盾にして僅かに目を開いて見てみたのだが、今までいたそこに彼女の姿がない。


「おい辻原っ?!いったい何処に…っ?」


そんな朝霧の、珍しく張り上げた声さえも風は掻き消していく。



やっと風が治まり静寂が戻ってくると、朝霧は慌てて周囲を振り返り実琴の姿を探した。


(まさか、風に煽られて何処かに飛ばされたなんてことは…)


流石に有り得ないとは思いながらも思わず視線を上へと向けた、その時だった。



「おい…」



朝霧は我が目を疑った。


それは大きな樹の枝の上。


地上からは、かなり高い位置にあるその場所に実琴がいつの間にか上っていたのだ。



(何をしてる?危ないぞっ…)


そう、思った瞬間だった。


ぐらり…と、突如バランスを崩した実琴が木の枝から滑り落ちていく。



「辻原っ!」



咄嗟に駆け出していた。


その木の下まで素早く走り寄ると、受け止めるべく手を広げる。


だが。


落ちてきたのは…




「みゃあっ」




何故か腕の中にスッポリと埋もれてしまう程の、小さな猫だった。






「お前、ミコ…?」






そこでふと、朝霧は目を覚ました。


(もう、朝…か…?)


目を細め、窓際へと視線を移すと外は僅かに明るく、既に日が昇っているのが分かる。


だが、まだ早い時刻のようだ。


「………」


朝霧はおもむろに枕元に置いておいたスマホを取り出すと時計を確認する。


時刻は、朝の6時を過ぎたところだった。


今日は土曜日で学校は休みなので特に目覚ましは掛けていなかったのだが、随分思っていたよりも早く目覚めてしまったようだ。


ベッドに横になったまま、ぼんやりと天井を見つめる。



(何か…随分と変な夢だったな)


夢の内容は、ほぼ覚えている。


(…辻原が夢に出てくるなんて、な…)


恐らく昨日父親から彼女の話を聞いたから、それが夢の中にも影響したのだろう。


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