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『あっ!ごめん。えーと…学校っていうのは、沢山の人が集まる所だよ。高校生たちが集まって勉強してる所…なんだけど。あっ高校生っていうのは、えーと…っ…』
上手く説明出来ずにあたふたしていると。
『ふーん?よく分かんないけど…。朝、おんなじ服着た奴らが一杯入って行く場所なら知ってるぞ。広い場所にはボールが沢山転がってたりすることもあって楽しそうなんだけど、前にウッカリ入ったら追い掛けられて大変だったんだよなー』
その時のことを思い出してるのか、猫が遠い目をして言った。
『うんっ!多分それだよっ』
実琴は目をキラキラさせた。
『ふーん、そっか。そこなら俺んちの裏の塀からずっと塀の上を渡って行って、突き当りの道まで出れば向こう側に見えるぞ』
『ありがとう!でも、そうか…ここはあなたの家だったんだね』
『そ。俺のご主人さまの家さ。でも、お前…チビのくせにムズカシイこと沢山知ってんだなー?それに妙にキモ据わってるし。お前って、ちょっと変わってるよな?』
再び興味津々に覗き込んでくるその猫に、実琴は苦笑を浮かべるしかなかった。
それでも、どこか面倒見の良いその猫に案内して貰うと、その家の裏の塀へとよじ上った。
少しだけ、その高さにくらり…ときたが、慣れてしまえば大丈夫そうだ。
薄い塀の上も、この小さな身体なら特別問題なく歩けそうだった。
『でも、そっか…。塀の上を歩いて行けば犬に追い掛けられることもないんだね』
確かに考えてみれば、猫というものはよく塀の上を歩いているものだ。
今更それに気付いて納得していると。
『バッカ!あったり前だろうっ?お前、そんなことも知らなかったのかっ?ムズカシイこと知ってるくせに、お前おかしいんじゃないかっ?基本中の基本だろっ!キ・ホ・ンッ!』
『そ…そっか…』
凄い剣幕で言われて、実琴はちょっぴり凹んだ。
その時。
家の中から微かに人の声が聞こえて来る。
『あ、ご主人さまが呼んでる。ゴハンの時間だ!じゃあな、チビ助!』
その猫は途端に身を翻すと、先程いた庭の方へとさっさと走って行ってしまった。
『うん…バイバイ…』
既に誰もいなくなってしまったその場所で、実琴は独り小さく呟いた。
(折角知り合いになれたのに、あっけないな…)
猫友達が出来たと思ったのに。
まさか、普通に会話が出来るなんて思ってもみなかったけれど。
(でも…これこそが、まさに気まぐれ猫ちゃんの本質なのかも)
実琴は小さく息を吐くと、気を取り直すように教えてもらった方向へと塀の上を歩き始めるのだった。
『おっと、そうだ!』
主人に呼ばれて駆けてきた猫は、庭先まで来た所で思わず足を止めた。
(そういえば…あの場所は今、カラスの溜まり場で危ねーんだったっけ)
ふと重要なことを思い出し、一瞬戻ってあのチビ猫に伝えようかと少し悩む。
…が。
『ま、いっか…。自分で何とかするだろ。あいつ結構、はしっこかったしな』
結局、空腹には勝てないのであった。
あの飼い猫と別れた後…。
教えて貰った通りに行くと、まもなく無事に学校を発見。
…したのは良いものの。
『何でこんなことになってんのよーっ!?』
実琴は空を飛んでいた。
それも、しっかりガッチリ!カラスに捕まれて。
迂闊だった。
学校を見つけたのは良いが、普段使っている正門とは反対側に出たので、下手に大回りをして道路を行くより学校の敷地内を横切る方が早いと思ってしまったのが間違いだった。
柵を越えて敷地内を歩くこと数十秒。
あっという間にカラスに捕獲されてしまったのである。
「カアカア」という鳴き声が周囲に響き渡る。
実琴を捕らえたカラスは得意気に。他のカラスたちは、それを奪おうと追いかけてくる。
『離してよっ!どうするつもりっ?』
わたわたと暴れてもカラスの足爪がガッチリと掴んでいて、痛いだけで全然離れない。
実際、今離されても地に落下することは避けられないのだが。
(どうしようっ。もしかして食べられちゃうのかなっ?)
流石に、それだけは勘弁して欲しい。




