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カワイイ子猫のつくり方  作者: 龍野ゆうき
子猫の大冒険?
14/73

4-1

チリチリン…。


控えめに首元の鈴が鳴る。



実琴は住宅街の中を歩いていた。


朝霧が自由に外に出られるように、ベランダの窓を少しだけ開けておいてくれたのだ。


ベランダへと出ると、すぐ横にある植木に飛び移れば何とか地上へと降りることが出来た。


自分が助けた子猫が困っていたように、この小さな身体では木から降りるのも一苦労ではあったが。



『此処を出た以上は自らの力で生きていく覚悟を決めろ』



そう言っていた朝霧。


(こうして出て来てしまった以上は、もうあの家には戻れないってことだよね…)


本音を言うと、かなり居心地は良かったのだけれど。


それでも、あのまま朝霧の家にいて猫として大人しく過ごしている訳にはいかないから。


(まずは『私』がどうなったか調べないとね)



あの後、救急車に運ばれてどうなったのか。


病院にいるのか、家に戻っているのか。


意識は…。


(戻っていたら、怖いな…)


それは、もう私じゃない…ということになる。


当たり前だけど。



正直、不安で一杯だった。


(でも、このまま迷っていても何も状況は変わらないよね。…こんな時は行動あるのみ!だ)


覚悟を決めた。



だが、自分の家へ帰ろうにも、この朝霧の家がどの辺りに位置しているのかがイマイチ判らないのだった。


(でも…徒歩通学ってことは、そんなに学校からは遠くないってことだもんね)


そう考えて、まずは登校する朝霧の後をついて行き、学校に一旦戻ってから移動することに決めた。


支度を済ませて朝霧が部屋を出たのと同時に、置いていかれないように慌てて外へと飛び出した。


木を降りるのにかなりの時間をロスしたものの、何とか朝霧の姿を見失わずに済み、現在に至る…という訳だ。



先を歩く朝霧に気付かれないように物陰に入っては、またこそこそと追い掛ける。


だが、少しでも急ぐと首元の鈴が鳴ってしまうので、ゆっくりと歩くことしか出来ず、朝霧との距離は次第に開いていくのだった。


(背の高い朝霧の一歩と子猫の一歩とじゃ、進む幅が違いすぎるよーっ。それじゃなくてもイマイチ歩き辛いのにっ!)


自分がしっかり猫になってしまっているとはいえ、四足歩行はどうしても不思議な感じがする。



だが、そんなことを心の中でぼやいている内に朝霧は広い通りへと出ると、何とバス停の前で足を止めた。


数人並んでいる列の後ろへ着くと、腕時計で時刻を確認する素振りを見せている。



(えっ?うそ、何でっ??徒歩通学じゃなかったのっ!?)



実琴は慌てて僅かに足を早めるが、その向こうからバスが近付いて来るのが見えた。


バスが到着すると同時に人々は早々に乗り込んでゆき、朝霧もまた同様に車内へと入って行く。


『待って!』



(今こんな所で置いていかれたら迷子になっちゃう!)



慌てて必死に駆け出すが、誰かがそんな実琴に気付く筈もなく。


たとえ気付いたとしても、バスが子猫を待ってくれる筈もなく。


バスは乗客を乗せると、すぐに発車してしまった。



(あああーっ!待ってよーっ!!)



実琴が何とか通りまで走り出て来る頃には、バスは既に遠い向こうの交差点を曲がって行く所だった。


『はぁ…。行っちゃった…』


バスの曲がって行った方向を呆然と見つめる。




実琴が通りの端でぽつんと立ち尽くしていると、通りすがりの女学生二人が「わ!カワイイ!」などと足を止めて、手を伸ばしてきた。


戸惑ってる内に半ば強引に頭を撫でられ思わず首をすくめたが、でも何だか悪い気はしない。


(知らない子たちに何だか慰めて貰っちゃった感じ…。まぁ、クヨクヨしてても仕方ないよね)


手を振って離れていくその二人を見送って、ふとその先に見えたバスの停留所に視線を止めた。


(そうだ。バス停の路線図を見れば、ここがどの辺か分かるかも…)


例え子猫の姿になろうとも文字を読むことは出来るのだから。



実琴は気を取り直すと、バス停の看板へと近付いて行った。


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