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カワイイ子猫のつくり方  作者: 龍野ゆうき
不思議な同居生活
10/73

2-4

『~~~~っ!?』


自分でもよく分からない奇声を発すると、慌てて傍にあったベッドの下へと滑り込む。


「………?」


その声に朝霧が振り返るが、既に子猫の姿はそこらには見当たらないのだった。




(やだやだっ!超ビックリしたっ!!)


実琴はベッド下の奥の方で、小さくうずくまっていた。


驚きで未だに心臓がばくばくいっているのが自分でも分かる。


(ううぅ…まさか、着替えてるなんて思わなかったんだもんっ。わざとじゃないよっ。うんっ見てないよ、見てない…)


実琴は自らを否定するように、小さく頭をぷるぷると横に振った。



そう、朝霧は着替えていたのだ。


クローゼットの前で脱いだ制服をハンガーに掛けていたのだが、その上半身は何も身に着けていない状態で。


思わず見てしまった朝霧の、その細くも鍛えられた背中が、衝撃で逆に頭に焼き付いていて離れない。


覗き見してしまったような罪悪感と、これは事故であり仕方なかったと弁明する自分と、それなりにある乙女の羞恥心とが相まって、実琴は暫くそこで呻きながら己の中で葛藤していた。





暫くすると、姿の見えない子猫を探して朝霧がベッド下を覗いてきた。


「こんな所にいたのか」


(…朝霧…)


伸びてきた長い手にそっと掴まれ、その狭く薄暗い空間から強制的に出される。



当前だが、朝霧はもう既に服を着用していて。


ラフなTシャツ姿が何だか新鮮だった。


(学校で見る朝霧とは全然雰囲気が違う。服装が変わるだけで、随分とイメージも変わるもんなんだなぁ…)


実琴は目を丸くした。


今日は、そんなのばっかりだ。



朝霧は手の中の実琴をそっと優しく撫でると、何かを考えるような素振りを見せた。


そうして、何かを思いついたのか実琴を机の上まで運び乗せると「少し大人しくしていろ」と自らも椅子に座り、机の引き出しを開けたりして何かを探し始めた。



『………?』



言われるままに大人しくそこに腰を下ろし、そんな朝霧の様子を眺めていた実琴だったが。


(実際、普通のネコちゃんなら「大人しくしていろ」なんて言われたところで、言うことなんか聞くはずないよね…?)


なんて思っていた。


それでも朝霧が何をしたいのか気になったので、大人しく見ていたけれど。




その数分後。


実琴の首には、細い小さな首輪が付けられていた。


とは言っても既製品などではなく、細い紐に小さな鈴を通しただけの朝霧お手製のものだ。



(なにこれ、カワイイ…)



小さな鈴は、実琴が動くたびにチリチリと鳴った。


不本意ながらにも猫になってしまっている身としては、鈴の音が何だかいかにも猫らしくて可愛くて、ちょっぴり嬉しい気がした。


実際に本物の猫ならば、こんな窮屈な物をぶら下げたくはないのだろうけど。


(朝霧って、こんなこともするんだ?昔猫を飼ってた時にも付けてあげたりしたのかな?)


千代さんが「昔はよく捨て猫や捨て犬を拾ってきた」って話していたし。



もう自由にしていて良い…と言うように床へと下ろされた実琴は、チリチリと小さな音を鳴らしながら、ちょっぴりご機嫌で室内を見て回っていた。


普段は人に冷たい毒舌男でも、動物などを愛でる気持ちが少しでもあるのなら、それはそれでまだ好感が持てるというものだ。


(こうして私のことも連れてきてくれたんだもんね。意外に優しい所もあるのかも…)


もしもあのまま、あの場に一人残されていたら今頃どうなっていたか。


雨に濡れて冷えたこの小さな身体は、危険な状態に陥っていたかも知れないし、朝霧の言う通り、カラスや野犬に襲われていた可能性だってあるのだ。


そう思うと、朝霧への印象も僅かながら変わっていく気がした。


(今日のことに関しては、素直に感謝の気持ちしかないよね…)


それでも、もしこの気持ちを今アイツに言葉で伝えられたとしても、いつものように冷たい言葉で一蹴りされてしまうのだろうけれど。



そんなことを考えながらなんとなく朝霧を振り返ると、朝霧の視線もこちらに向けられていて。


まるでこちらの気持ちを見透かすような、真っ直ぐな視線にドキリ…として。


思わず、その瞳から目が離せずにいた。


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