6 紫銀色 その一
わたくしがここに運び込まれてから、ずっと付きっきりでいてくれたという侍女、マーシェルと話をして色々と分かった。
先ずわたくしが倒れてから、既に六日経っていること。
此処は皇宮の医務室の一つだということ。
皇子殿下を襲おうとした賊はその場で騎士に殺され、その騎士もまた何故か毒を飲んで自殺したこと。
賊を差し向けた者は未だに不明なこと。
皇子殿下が何度も此処に訪れていたこと。
なんだか聞いてもいいのかしらってこともあったけど、皇帝陛下から許可が出ていたみたい。わたくしも当事者だから。
でも皇子殿下方が無事で良かったわ。咄嗟だったからあんなことをしてしまったけれど、普通なら不敬よね。
それに何度もお見舞いに来て頂いたようなので、後できちんとお礼を言わなければ。
もう大分体調も良いから家に帰った方がいいと思って、医師様に言ってみたけれど後一日だけ様子を見ると言われたので、今は横になりマーシェルと他愛ない話をしている。
彼女はわたくしの母がアンシェシア家に嫁ぐまで支えていたそうで、皇宮の侍女達の中でも高位の人だった。
なんとなく、本当になんとなく母の昔話を聞こうと思ったけれど、明らかに話したくなさそうだったので聞かなかった。
まぁ、今の母を見る限り相当辛い目にあったのかもしれない。
無神経でしたわね……………。
マーシェルに付き添われながら昼食を食べた後に、皇帝陛下の側近である、イレイラ様という方が部屋に訪れた。
なんでも明日、わたくしの家族を交えて今回のことについて話をするので、わたくしも列席してほしいとか。
わたくしは当事者ですもの、参加すべきよね?
イレイラ様に了承の意思を伝えて、明日の為にしっかり休むことにしました。途中で倒れたりしたら、笑い話にもなりませんもの。
翌日すっきりとした気分で目が覚めた。
マーシェルが運んできてくれた朝食を取ってから、用意されたドレスに着替えて髪を整えられる。薄く化粧を施された自分自身を鏡で見て、変わっていないはずなのに別人のような印象を受けた。
眉間の皺がとれたせいかしら?
眉間に手を当ててくすり、と小さく笑ったら、マーシェルに怪訝な顔をされてしまった。
支度を終えて、呼ばれるまでソファでゆったりしていた。
然程時間が経たずに、昨日と同じイレイラ様が見えられ、彼女の先導のもと皇帝陛下が居られる謁見の間へと向かった。
謁見の間の扉が開かれ中に歩を進める。
そこには既に皇帝陛下を初め、皇妃陛下、三人の皇子殿下方、厳格そうな方と鎧に身を包んだ方、そして恐らく陛下の側近の方々という、錚々(そうそう)たる人物達がいた。
けれどアンシェシア家の者達はいなかった。
え?なんで?お父様達が皇宮に着いたから、わたくしも呼ばれたのではないの?
わたくしは混乱する頭と、全員の視線を感じて逃げたしたくなる身体をなんとか抑え、皇帝陛下の前まで歩き、そして膝を折り右手を握って胸に当てる、臣下の礼をとる。
その時小さな声が幾つか聞こえた。
「そなたに逢うのは初めてだったな。名はなんという?」
「わたくしはラティーニア・ウェールディ・アンシェシアと申します。皇帝陛下」
「うむ、今日そなたを呼んだのは事件について話をする為だ。だがその前に私は父として礼が言いたい。息子達を守ってくれて感謝している」
玉座に座ったままだが、頭を下げた皇帝陛下と皇妃陛下にわたくしは慌ててしまった。
「勿体のうお言葉に御座います……」
それだけ言うのが精一杯だった。
読んで頂いてありがとうございました。