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第1話 夢想歌
「さっちゃんは、ほんまにおひいさんみたいやねぇ。」
穏やかな午後の日差しの中、人里離れた屋敷の一角、南向きの縁側から差し込む光を浴びながら鏡に向かう少女と老婆。
その老婆が幼い少女の長い赤毛を梳きながら、満足そうにそう言う。
「おばあちゃん、おひいさんてなぁに?」
少女はわかっていた。わかってはいてもあえて聞き返す。
(だって聞き返すとおばあちゃんが嬉しそうだから。)
ただ。それだけだった。
「おひいさんはね。さっちゃん。お姫様のことよ。」
「おひめさま?」
「そう。お姫様。さっちゃんはお母さんに似て、綺麗な髪の毛をしてるからねぇ。」
そう言って、目を閉じ、老婆は少女の母へ思いを馳せる。
少女はその姿も、この時間も嫌いじゃなかった。
だからこそ、毎回同じやり取りだとしても繰り返して聞き返すのだ。
けれども…
そんな大切で愛おしい時間は長くは続かなかった。