5.問いかけ
「―――なぜだ」
結局その日は決着はつかず、戦局は拮抗したままであった。
皆の前では―両親の前でさえも、冷静に振舞っていたジョゼだったが、自室の扉を閉めた途端に、押しつけられていた全てのものが彼女の平静の殻をうち破った。
なぜだ――なぜだ。
終わることのない問いかけと、見つかることのない答え。
いてもたってもいられなくなったジョゼは、気づけば部屋を飛び出していた。
月のない夜というのは、もっと暗いものなのかと思っていた。
―それはまさに、今のジョゼ自身のように。
クロッカス海岸の波打ち際。
「あの日」、ふたりが約束したところ。
それでも、「あの日」とは、まるで違う―
「あの日」の夜空が希望の表れであるなら、今夜はただ絶望であった。
苦しい。哀しい。怖い。酷い。
そして、堪らなく愛おしい。
ごちゃ混ぜになった全ての感情が、内からジョゼ自身を蝕んでゆく。
「こんなことなら、出会わなきゃよかった」
いずれ訪れるのだ。
愛する人を、自らの手で屠らなければならない時が。
こんなことなら。
こんなことになるのなら。
それでも―――それでも、彼を愛さずにはいられないのだ。
三年ぶりに見た、セドの顔。
三年ぶりに聞いた、セドの声。
再会は、あまりにも最悪で。
それでも、その姿を見られることに、生きていると分かったことに、なによりも安堵している自分がいる。
見上げればそこには、満天の星空。
肌を撫でる潮風も、穏やかにせせらぐ波の音も。
それらの全ては、「あの日」となにも変わらなくて。
「セド――――」
なにか言おうとして、だがしかしジョゼはそこで言葉を紡ぐのをやめた。
なぜ。どうして。
その問いかけの全てが、陳腐なものに思えた。
問いかけ、それは、セドを裏切ったも同じだと―「必ず帰る」、と言ったセドを。
とめどなく頬を伝う涙を、ジョゼは堪えることをしなかった。
ただ、ただ真っすぐに水平線を見つめ―――
ジョゼは、愛する人の名を叫び続けた。