1.少女の宿命
-いっそ、出会わなければよかったのだ。
出会わなければ。共に過ごさなければ。
そして、恋なんてしなければ。
こんなに苦しむことはなかった。
自らの運命を、憂えることもなかった。
それでも思い出すのは、あの日のこと。
笑った顔も。怒った顔も。
たまに見せる泣き顔も。
全てが愛おしい、そんな人。
どうか、どうか一つだけ、
私の願いが叶うなら。
もう一度だけ、貴方に会いたい。
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『-あなたは男として生きるのよ。』
夏空色の天井。
目を覚ますと広がる、それはそれは見慣れた景色。
「…またか。」
ここのところ3日も続けて同じ夢を見ている。
つい5年前に知った、己の真実。
ジョゼフィーヌ・ド・ルモア-周囲の人からはジョゼ、と呼ばれている-は、ティオレア王国の第一王女としてこの世に生を受けた。
だがしかし、ティオレア国王夫妻には男児がいなかった。
ティオレアは一夫一妻制の国のため、このまま男児が生まれなければ跡継ぎがいなくなるというわけだ。
そこで夫妻は苦渋の決断を下した。
生まれたばかりの赤ん坊を、男児として育てる、と。
ジョゼが真実を知ったのは10歳の時だった。
第二次性徴が始まり、少女が現実との矛盾に苛まれることを危惧したためであろう。
これはティオレア国家最大の機密である。
この真実を知るのは、ティオレア国王、王妃、ジョゼ自身。そして、もう一人-
「ジョゼ。起きていたのか。」
彼女の乳兄弟にして近衛兵士の青年、
セドリック・メレディア。
彼はジョゼより三つ年上の18歳だ。
「王子」としての英才教育を受けてきたジョゼにとって、数少ない-いや、ただ一人の友人と言える。
そして二人には、また一つ、誰にも知られてはならない秘密があった。
「ジョゼ…またうなされていたようだな。
これで三日目だ…本当に大丈夫なのか?」
「…ああ。もう慣れたよ…」
そう言ってジョゼは小さく溜息をついた。
その瞬間-
唇に伝わる、温もり。
「大丈夫じゃないだろ。
俺にくらい本当のことを言ってくれよ。」
「ごめん、セド……ありがとう。」
そう。
二人は恋人同士である。
許されない恋、そうとは分かっていても、
二人は互いを愛することを辞めはしない。
ジョゼフィーヌ15歳、セドリック18歳。
まだうら若き二人を翻弄する運命の歯車は、この時もう回り始めていた。