2-2 作りたいもの作れるもの
今では彼女も判る。彼はこの場所で、建築家としての名が欲しいのだ。
依頼者が「絶対に」必要なこの分野においては、名を売ることは非常に大きな意味がある。
全く自分の好き勝手に建築物は作ることはできないだろうが、名が売れていれば、自由度は上がるのだ。
そのために、自分の性分に合わないところでも彼はじっと我慢しているのだ、と彼女は知っていた。
実際、その「入室試験」に彼は通ったことは通ったのだが、決してディフィールド教授とそりが合う訳ではなかった。
教授はそれこそ、この地で育ち、この大学で学んでそのまま教鞭をとることになった、言わば純粋培養のエリートである。たたき上げのキュアと合うはずがないのだ。
彼は大丈夫、とエラに向かっては言うが、彼女はそれを決して100パーセント信頼できる訳ではない。今現在、彼がたびたび「森」へ脱走しているのがよく物語っているではないか。
彼女自身は、幸福な選択をした方である。
入った研究室は、案外人気がなく、それだけに、波長の合う彼女に、エフウッド教授は、自分の知ることを惜しげなく伝授していった。
遠くの惑星へと取材に行く時の心構えなども、自分の失敗談などを加え、面白おかしく話してくれることも多かった。それでいて、ちゃんとポイントを押さえているから、彼女は教授をまた尊敬せずには居られない。
この教授は、キュアに対しても珍しく好意的な態度をとってくれていた。彼女にディフィールド教授が時々漏らす、彼に対する辛辣な評があることを教えてくれたのもこの教授である。
「気を付けたほうがいいよ」
とエフウッド教授はそのたびに言う。
「僕はもう、そういう集団そのものが大嫌いだから、こんな外側から衛星のように彼らの熱気を観察することしかできないし、したくないけど、彼はあの中でこの先もやっていかなくてはならないのだしね…」
彼女は自分の選んだことが「こんなこと」呼ばわりされているにも関わらず、その時には神妙にその助言を受け入れた。そういう会話を教授とするようになった頃には、彼女は既に、キュアと友達から一歩進んだ関係になっていたのだ。
そんな心配もあったが、とりあえず彼女は、自分の心配をしなくてはならなかった。
日々の過ぎるのは速く、出発まであと二週間。下調べをなるべく深くやっておかなくてはならない。その作業が上手く出来ている程、持っていく荷物は少なくて済む。
そんな忙しい日、急に呼び出したエフウッド教授は、研究室の扉を閉じ、声を潜めて言った。
「もしかしたら、キュアの卒業製作は危ないかもしれない」
彼女は息を呑んだ。




