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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その他

曼珠沙華

作者: 如月瑠宮

陰鬱な話です。閲覧にご注意下さい。

 私の誕生は母の死と引き換えだった。

 私が生まれる代わりに母は死んで、私に母との記憶は無い。

 もしかしたら、体は知っているのかもしれないが、それは私が母の胎内で育ったからに過ぎないのだ。


 母の死は、私が出逢った最初の「死」である。




 生まれて直ぐに母を喪った私は母方の祖父母の元で暮らす事になった。

 しかし、それは半年で崩れてしまう。


 祖父が亡くなったのだ。

 死因は老衰。

 だが、娘の後を追うように亡くなってしまったのだ。

 生後半年だった私の記憶の中に祖父は居ない。

 朧げな記憶の中にさえ。


 私は一歳になるよりも早く二つの「死」に出逢った。




 母方の祖父母の家では猫を飼っていた。

 私が覚えているのは大人しい三毛だったという事。

 私は三歳になっていた。

 祖母は優しく私を育ててくれていた。

 そして、私と祖母の傍らにはその三毛猫(名前はみぃこである)が居た。

 みぃこは私の姉のような存在だ。


 だが、そんな「みぃこ」も死んだ。

 三歳の夏の事だった。

 庭で冷たくなったみぃこ。

 彼女は祖母の手で葬られた。




 そんな祖母が亡くなったのは五歳の冬。


 珍しく父方の祖父母と会っていた日の出来事。

 私の帰りをご飯を作りながら待っていたのだろう。

 祖母は台所で亡くなっていた。

 作りかけのハンバーグは私の好物である。


 四度目の「死」で母の家族であった存在を全て連れ去ってしまった。




 母方の祖父母が死んでしまった為、私は父方の祖父母、そして、父と暮らす事になった。

 実は父と暮らすのが初めてだった私は父に怯え、祖父母の影に隠れた。

 父の残念そうな顔は記憶に焼き付いている。


 そして、私は小学生になった。

 その頃には、父にも慣れて仲の良い父娘になっていたと思う。

 担任の先生は先生達の中ではまだまだ若い女の人だった。

 それでも、四十歳は過ぎていたけども。

 だけど、死ぬには早過ぎる。

 私の出逢う「死」の五つ目は担任の先生だった。




 六度目の「死」は二年生の夏休み。

 一年の時から仲の良かった女の子が池に落ちて死んでしまった。

 何人かは覚えていないが、そんなに大人数では無かったと思う友達と遊んでいた時の事だ。

 その現場を私は見ていない。

 だが、他の子の甲高い叫び声は覚えている。


 女の子の体が見つかったのはその翌日の事。

 私は「死」という物が誰にでも訪れる事を知った。

 子供にさえ。




 次に亡くなったのは祖母だった。

 もう、私に「おばあちゃん」という存在は居なくなってしまったのだ。


 その日は、五年生になった記念に祖母に料理を教わっていた。

 もう何度目になるかは分からないが、上手になってきた頃の料理教室。

 上手に焼けるようになった卵焼き。

 祖母は「美味しい」と言って食べてくれた。

 その夜に祖母は冷たくなってしまったのだ。


 そして、祖母の死から一か月後に父の妹に当たる叔母が家に住むようになる。

 叔母には一人の息子と一人の娘がいた。

 夫と離婚したそうだ。

 私は新たな家族と暮らし始める。




 八つ目と九つ目は同時にやって来た。


 小学校を卒業した記念に出かけたのだ。

 父と祖父に従兄妹達。

 既に中学生の従兄とまだ小学四年生の従妹の二人と一緒に。

 父の運転する車で。

 父の隣には祖父が座り、叔母は私達の帰りを待っていた。

 だが、私達は皆で帰る事が出来なかった。


 真正面から迫ってくるトラック。

 それは、父と祖父の命を奪ったのである。


 その後、私は叔母に引き取られる事になった。

 病院で私達三人を抱きしめながら泣いている叔母の姿が目に焼き付いて離れない。




 中学三年になった頃、叔母に好いひとが出来た。

 私達に「新しいお父さん」になってくれるかもしれない人と紹介してくれた。

 私は従兄妹達と喜んだ。

 幸せだった。


 中学生ももうすぐ終わる頃までは。


 私はとうとう十度目の「死」に出逢うのだ。




 ある日、従妹の様子が可笑しくなった。

 そして、従妹は自殺した。

 原因は分からなかった。


 しかし、私は知っていたのだ。


 従妹の自殺の原因は「新しいお父さん」になってくれた人。

 彼は暴力的な人だった。

 そう、従妹に対しては。

 一番か弱い従妹に暴行を加えているのを私は見たのだ。

 そして、従妹に叔母に言うように言った。

 それに対して従妹は首を横に振った。

 従妹は叔母に何も言わないまま、首を吊ったのである。


 「新しいお父さん」の次のターゲットは私だった。




 私は彼の暴力をすぐに叔母に伝えた。

 でも、伝えた事を後悔する事になる。


 「死」は直ぐそこに迫っていたのだ。




 ある日、私は暴力を受けていた。

 何時もの光景になってしまったものである。

 ただ、この日は何時もとは違っていたのだ。


 私は、何時も以上の抵抗をした。

 高校生になった私には好きな人が出来ていたのである。

 痣なんて作りたくなかったのだ。


 そして、その日の違いはもう一つあったのだ。

 ドアの開く音は私達の耳に入らない。

 争っている私達の耳にはその小さな音は掻き消される。

 暴力は唐突に終わった。


 私は倒れる彼の向こうに叔母の姿を見た。




 叔母は殺人を犯した。

 愛したひとを殺したのだ。

 それは、私を守る為だった。


 叔母は彼を殺した後、精神に異常をきたした。

 当たり前の事だが、従妹を亡くし、男の暴力で疲労していた私には耐え難い事である。

 私は自分本位な人間だったのだと、後に振り返れば思うだろう。

 私は叔母のケアを怠った。

 勿論、従兄は怠らなかったが、それだけでは不充分だった筈である。

 全てを従兄に任せた私は後悔する事になるとも知らず、遊び呆けた。


 好きだった人に告白した。

 その人は私の彼氏になった。

 ただただ純粋に嬉しかった。

 その時は。




 「死」はもう十二度目になる。

 そして、その頃には「死」は身近過ぎるものになっていた。

 その事に気付くのはもっと後である。


 叔母の状態は最悪を毎日深めていくみたいだった。

 どうしようもない状況。


 事態は最悪な方に向かおうとしていた。

 この時、私が少しでも顧みていたら何かが変わっていたのだろう。

 しかし、私は顧みる事は無かった。

 ただ、自分が楽しい時間を堪能していたのだ。

 最悪な事態、従兄が叔母を殺すのに長い時間は要らなかった。











「どうして?」

 私は呟く。

 目の前の従兄は笑っている。

 その手には、真っ赤に染まった包丁。

 包丁を染める赤は叔母の血だ。

「早く・・・救急車・・・」

「駄目だよ・・・俺を犯罪者にしたいの?」

 電話を手に取ろうとするのを従兄に止められる。

 この人は誰だろう?

 従兄の姿をした別人のような表情だった。

「耐えられないんだよ、もう」

 ああ・・・私は、この人達を壊してしまったのか。

 従兄は自分の喉に包丁を当てる。


「ごめんね。さよなら」


 私は二人の血に塗れた包丁を手に取った。




 えんど?

これから彼女が何をするかは皆様の想像にお任せします。

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