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剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!  作者: 書き手さん
剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!
9/30

多人数を1人で相手するなんて無茶すぎる!

 あたしの状況が分かったの? と言おうとして、イコールさんは、自分の口に人指し指をあてる。


「あのダンジョンで、突然表れたモンスターの名前。今回、お前が討伐対象になっているミッションの名前と、それが出されたタイミング。そして、王都の魔導書の情報が現れて、消えた時間。それに加えて、お前の存在を知っていれば、誰だってここにたどり着ける」


 と、そこでイコールさんは大きく息を吐いて、あたしの目をみた。


「お前の方の事情を聞かせろ。一体なにがあってこうなったのかは、全く分かってないんだ」


 一刻を争う事態なんだと言わんばかりの、真剣な眼差しに、あたしはこくこくと頷くしかなかった。


 イコールさんと別れた後に、トラップを踏んで「状態異常:モンスター化」にかかってしまったこと。その状態異常がどんな効果なのか、今まであたしがなにをしていたのかを、彼に聞かれるまま話す。


 話すたび険しくなっていくイコールさんの顔が怖い。あたしに対して、じゃなさそうだけど。


「アバター消失って、さすがに冗談じゃ済まないだろ。運営はなに考えてんだ……?」


「狂ってる」と、頭を振るイコールさん。


「しかも、煽ってるとしか思えない解答メール。これネットに晒されたら、会社が1つ潰れるぜ?」


 憤るイコールさんを、あたしは止めようとする。


「えーと、あたしはここに潰れて欲しくないから、晒したりとかはしないかな」


「……お前、マジで言ってんの?」


 毒気を抜かれた、と言うより、呆れた様子のイコールさんは、大きくため息をつく。


「本を読みたいってだけで、ここまでこのゲームに執着出来るのか……? 俺には全く理解できない」


「出来なきゃそんなこと言いませんよ?」


「そりゃそうだけども。俺だったら、あんなメールが返ってきた時点で、ゲームをアンインストールしてるぜ?」


「……………………」


 ちょっと考えてみよう。もしあたしが健常者で、普通にリアルで本を読めたとしたら……うん、あの返信でアンインストールどころか、魔法使いを続けてない。


 もしかしたら、このゲームをはじめてすらいないかもしれない。


 自分の異常さを再確認した上で、あたしはしらを切り、話を変える。


「で、あたしはこれからどうすればいいかな?」


 イコールさんは苦笑いして肩をすくめたが、突っ込んではこない。

 かわりに指を動かして、メニュー操作をしている。


「よっと」


『equalからプレゼントが届きました。受けとりますか?』


 唐突に目の前の彼からプレゼントが届いた。


「なにこれ?」


「とりあえず受けとれよ」


 言われるがままに『はい』を押すと、木の実やら薬草やら、回復系アイテムの合成素材がアイテムボックスに入る。


 使えないものの合成素材を渡されてもなぁ。これでなにをしろっていうの?


「合成前のこいつらも、回復アイテムとして使えるんだぜ? 回復量は少ないけどな」


 あたしの上に浮かぶ疑問符に気付いたのか、イコールさんは説明してくれた。


 薬草で回復するしかなかった、ゲーム開始直後のことを思い出す。確かにこれらはリストに載っていなかった。


 あたしはメニューを開いて、手持ちアイテムを確認する。全部使えば、HPは全快まで、回復素材の少ないMPも重力魔法10発分ぐらいは回復出来そうだ。


 あたしは、アイテムを使いながら目だけイコールさんに向ける。


「回復しても、このまま見つかれば、さっきと同じことの繰り返しになっちゃうよね」


 当たり前だけど、イコールさんがプレイヤーと戦うことは、出来ないのだ。


「そうだな。このまま雑談してれば、プレイヤーとして見られる可能性もあるけどな」


「ターゲット表示があるのに?」


「……うん、無理だな。なぁソウさん。魔法が、もっとも効果的に使えるシチュエーションって、どんな時なんだ?」


 これは即答できる。


「1対1での戦い。1人ずつなら回復されてても倒せる……と思う」


「パーティー組んでる人達を、タイマンに持ってくのは難しいな……」


 イコールさんは思案顔で唸ってしまう。


「このまま誤魔化しきれないかな?」


 彼はゆっくり首を振る。


「NPCならいけるかもしれないが、プレイヤーをいつまでも騙せるとは思えない」


 うーん、いいアイデアが思い付かない。こうしている間にも、見つかってしまう可能性があるのに。


「イコールさんがプレイヤーに攻撃できれば、まだやりようがありそうなのに。あたしにしか攻撃できな────」


「それだ!」


 声が大きいって! あたしは慌ててしー、のポーズをする。


 イコールさんは顔を上げ、ゆっくり左を見て、右を見て、それから振り返った後、再び茂みに顔を入れる。


「いける。しかもちょうどいい感じの森の中だし、相手の盲点をつけるぜ。少なくとも、小一時間ぐらいの耐久なら楽勝だ」


 まくしたてるイコールさんに、あたしはついていけない。


「えーと、それはどんな方法なの?」


 内容を聞いて、あたしは「冗談でしょ?」と聞き返したのだけど、イコールさんは真顔で「マジで言ってる」と首を振るだけだった。



 た、高い。落ちたら、一体どれくらいの落下ダメージをくらうのだろうか?

 揺れる枝の上で、そんなことを考える。


 あたしは今、木の上にいる。

 ほとんどの木は、プレイヤーの手の届く範囲に枝がないから、木登りが実質的には出来ない。だけど、今回はイコールさんが、あたしに対して打ち上げ系の剣技を使うことで、なんとか1番下の枝に引っ掛かることが出来たのだ。


 正直、1発で成功したのは奇跡に近いと思う。


 そういうわけで、今ここにイコールさんはいない。一応あたしの魔法で、木の枝に上げようと思えば上げられたのだけど、これ以上役にたてないから、と拒否されてしまったのだ。


 あたしは木を半ばぐらいまで登って、他より少し太い枝に、腰をおろしている。


 前のトリガーの忠告を真に受けて、スカーフに迷彩柄の半袖半ズボンという、絶対に魔法使いに見えない、シーフっぽい格好をしていて良かった。ローブとか着てたら、木登りなんて不可能だったと思う。


 でも、この格好で魔法撃ってたら、さすがにプレイヤーだって分かるよね? あたし、一体どんな風に見えてるんだろう……?


 まぁそんなの掲示板とかを見れば、すぐに分かるか。どうせ画像が上がってるだろうし。あたしは意識を木の下に向ける。


 イコールさんの言ってたとおり、ここはかなりの盲点だと思う。でも、もしかしたら気分転換で上を向いた人に見つかるかもしれないし、他の木に登るモンスターに出会っていて、上に気をかける人がいるかもしれない。


 と、そこにプレイヤーがやってきた。息を潜めて過ぎ去るのを待つ。プレイヤーはキョロキョロと周りを見渡し、上には目もくれずに歩いていった。


 息をつく暇もなく、次のプレイヤーが下に。多分暗殺者だ。イコールさんがいなくなって、この辺りを調べていないことに気付いた人が出てきたみたい。


 暗殺者の頭が、首を傾げるように揺れ、そして天を仰ぐように顔を上げつつある。


 見られる、と思ったときには呪文を唱えていた。


重力誘導(グラウアグレシ)!》


 縄を手繰り寄せるように、腕を振り上げる。すると、見えない力がプレイヤーにかかり、空中に浮遊した。


 葉や枝にぶつかりながら、引き上げられる暗殺者。あたしはそこに追撃する。


雷力解放(フルメインクル)


雷力解放(フルメインクル)


 大きな爆発音がする火の魔法は、さすがに使えない。雷が敵を打つ音にびくびくしながら、更に追撃。


重力解放(グラウアグレ)


 落ち始めた暗殺者に対して、真下へと力をかける。敵は凄まじい速さで地面に衝突し、光の粒子となって消えた。


 これで終わりじゃない。どうせみんなここに集まってくるだろうから、枝を伝って逃げないと。


 太い枝に足をかけ、隣の木の枝に手をかけて、ため息をつく。


 あたし、一体なにやってるんだろう。



 さっきのようなことを5,6回。時間はそろそろ11時55分をまわるから、今日はこれで逃げ切れるはず。

 それでも下に注意を払い、12時になるのを待つ。


 そこに、白銀の鎧の守護者がやってきた。彼は、迷いなく上を向く。


 嘘でしょ? もうバレたの!?


 あたしが動揺している間に、守護者は叫ぶ。


全てを我が身に(ミナシーアクティオ)!》


 でもこれ、正直意味ないよね。どっちにしろここまで来るのは難し────


「暗殺者、俺の鎧を踏み台にしてなんとか枝にしがみつけ! 弓を使えるやつは援護しろ!」


 まさかの方法! いや、でもやらせないし!


重力解放(グラウアグレ)!》


 けれど、魔法は発動しない。また重力耐性? とも思ったけど違う。


 あたしはメニューを開き、ステータスを見る。


 HP 15084/1018

 MP 13/496


 あぁーもうやっぱりだ! このMPで発動するわけがない!


 時間は後3分。麻痺をもらって落とされるくらいなら!


 あたしは登り途中の暗殺者を巻き込みながら、下に落ちる。落下ダメージを押さえるため、プレイヤーの1人を踏み潰し、そのままスキルを発動させた。


最後の全魔法コンティノイタティス・マギカ!》


無の創造(ブランクレアティオ)!》


炎力解放(フランアグレ)!》


炎力爆発(フランアグレシ)!》


雷力解放(フルメインクル)!》


 その場のプレイヤーが吹き飛んだ後に、一緒に落とした暗殺者2人を爆炎が、そして踏みつけた聖職者を雷撃が襲い、光の粒子に変化させる。


 始めて驚いた顔を見せた守護者に、あたしは次なる魔法を叩きつけた。

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