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こんなの普通のネトゲすぎる!

「で、どう話をまとめたんだ?」


 私たちが押し込められた長いこと使われて無さそうな一軒家。イコールさんは部屋の窓をちらりとうかがって、抑えた声で切り出した。


「勘のいいあなたの言ったとおり。MPポーションの原料になる蓮が群生する池には『教会』連中が放流した化け物がいるらしいわ」


「その池に漕ぎだした者は皆泥の中に引きずりこまれ、帰ったものはいない。彼らから聞くことができた化け物の情報はそれだけです。ですが『教会』に属する僕らとしては聞くに堪えない話ですし、そもそもあの図書館の主がここに導いた理由はこれ以外ないでしょう。僕はその化け物を倒し、あの池で採れる蓮の実が再びこの村に利益をもたらすことを彼らに約束した。といったところです」


 水の中に引きずりこむ化け物……やっぱりクラーケンのような巨大な頭足類? 多分淡水だけど。


 イコールさんはとっても渋い顔でため息をついて、半目でシリウスさんを見る。


「……ツッコミたいところは結構あるんだが、とりあえず置いておく。お前ら、その池の化け物に心当たりはあるのか?」


 首を振ったのはアスミさんだった。


「それが全くないのよ。教会(うち)関連のモンスター……もとい偶像や罪人達はおおむね人型だから」


「あいつらそういう設定だったんですか……確かに湖の中に引きずりこむ化け物に人型のイメージはないですけど」


「なので、もともと池にいた何かを操っているのではと僕は考えています」


「あの魔女……様みたいにってことか、なるほどな」


 何かを察して敬称を付けたイコールさんの言葉を聞いてドアの方を向くと、ちょうどブレンネさんが入ってくるところだった。


「もう少し歓迎してもらうつもりだったのだがね、まったく」


 ブレンネさんの皮肉にシリウスさんが恨めしげにアスミさんを見たけれど、アスミさんは既に顔を背けて口笛を吹くかのように口を尖らせている。


「……申し訳ありません。一応確認しておきたいのですが、僕たちにやらせるつもりだったことは湖にいる何かを排除することで合っていますか?」


 そっぽを向いたままのアスミさんの隣でシリウスさんが頭を下げる。特に注意するわけでもないことを考えると……シリウスさんはもう慣れっこなんだろうね。


「あっているよ。私は何がいるのかは知らないがね」


「私はって……魔女様は知ってるんですか?」


「それも分からない。だがしかし魔女様は公平なお方であることは確かだ」


「分かりやすく言ってくれないかしら?」


「……『教会』(あなたたち)の要求と釣り合う依頼ということだ」


 無茶な要求には無謀な依頼をってこと? 過去のつけを払わされるアスミさんたちは堪ったものじゃないだろうなぁ。そしてあたしたちもそのとばっちりを受けるわけだけれど。


「そう、何にせよわかりやすい依頼になってありがたいわ」


「対峙するモンスターをもって無理だと言われるのは困るのですが……皆さんがついてきているなら大丈夫ですかね?」


 思ったより反応が薄い。修羅場慣れしてるなぁ。

 

「んなことはどうせ今すぐ聞く手段がないんだからどうでもいいだろ。前もっての情報はないものとして考えようぜ」


「そうでしたね。そもそも普通なら初見でも問題はありません」


 このゲームは基本的に覚えゲーのボス戦にはならない。瞬間瞬間の判断でなんとかできるのがこのゲームの売りだから。


「でももし、魔女様みたいなパターンだったら……」


「見に行ったら引きずり込まれるわけだろ? 偵察ってのは厳しそうだな」


「厳しそうだからこそ、考えなくていいと思うけれどね。まぁ死に戻ったほうが楽な可能性はあるけど」


「あ、そっか。別に死んでもやり直せましたね……」


 すっかり忘れていましたね。


「とはいえ時間は有限ですから、初見クリアを目指して行くべきでしょう」


 と、話していあたしたちを遮るようにブレンネさんは手を叩く。


異邦人(お前たち)の話している内容はよくわからんが、なぜか時間に余裕がなくなっているは確かだ。今日は早くに寝て、出発に備えろ。私は村の入口で待っている」


 あ、ずるい。一人だけ別の場所で寝泊まりする気だ。とか思っている間に、ブレンネさんは外に出ていってしまった。


「現実でもいい時間ですし、そろそろ解散としましょうか。何時に集合します?」


「明日は週末だし、俺は昼間からでも問題ない。ソウ、お前は大丈夫か?」


 なんかすっごくネトゲっぽい会話。意識を現実に戻してゲームの障害()の動向を思い出す。

 

「多分昼間でも大丈夫だけど……その場合は夕ご飯ぐらいまでの時間にカタをつけたいかも」


「じゃあ12時半に集合しましょう。それじゃあ」


「ではまた明日」


 そういうと二人の体は足の方からすっと消えた。つまりログアウトした。

 

「なんか……新鮮ですね」


「確かにこういうことはしたことなかったな」


 そういってイコールさんは考え込むように顎に手をやって、戻すと同時にこっちを向いた。


「俺も落ちるか。また明日、よろしく頼む」


「お疲れさまです、イコールさん」


 手を振り見送って、あたしもログアウトボタンを押す。まぁ、いつもぎりぎりまでゲームをやっている必要もないよね。

 

 今日は久しぶりにゲーム外で本を読もうかな。そう考えている間に、あたしの視界は暗転した。

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