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戦闘禁止エリアなのに一触即発すぎる!

「やっと来たな。迷子かと思ったぞ」


「あたしは図書館の中では絶対に迷いませんよ」


 この図書館の管理者に用事があるらしいアスミさんとシリウスさんを連れて(あたしは連れられて)館長室までやって来た。気の進まないあたしと道を知らないのにぐんぐん進んでいこうとするアスミさんはどうやら男二人を待たせてしまったらしい。


 あたし達、というかアスミさんが来たのを見て、イコールさんが扉を叩いて呼び掛ける。


「キュラ様、あんたの客が来たぞ」


「客? そんな予定はなかったはずなんじゃが」


「教会からの使者だ」


 ぞくり。イコールさんが『教会』という言葉を発した瞬間、私の使える氷属性魔法なんて目じゃないレベルの猛烈な寒気を感じた。なんとか声色変えずに言いきったイコールさんも冷や汗をかいている。


 キュラ様なのかブレンネさんなのかはたまた二人ともなのか知らないけど、殺気を出すレベルで怒ってるよ……。


「こうでなくちゃ!」


 後ろから嬉しそうな声とカチャっという音が聞こえる。振り返るととっても満面の笑みを浮かべたアスミさんが腰に提げた剣の柄を握っている。


 戦闘禁止エリアのはずなのに図書館が火の海になるような気がするよ!?


「前に話した人たちです! あたしたちをあの村まで連れて行ってくれた人たちなんです!」


 慌てて扉の前にかけよって叫ぶと、殺気が少し弱まる。ちらっと使者の二人を確認すると「早まらないで。お願いだから冷静になって」とシリウスさんは懇願していて、戦闘にならなそうなのを察したらしいアスミさんは不満気な顔をしていた。はぁ、なんとか最悪の事態からは逃れられたかな?


「前にも後ろにもやばい奴がいるんだが。帰っていいか?」


 ひきつった顔のイコールさんが小声で言う。


「良いわけないじゃないですか! あたし一人じゃ絶対止められないです!」


「俺がいても焼け石に水でしかねぇと思うがな……」


 それはあたしも変わりません。でも、図書館とともに大量の本がなくなってしまうのだけは避けなければならないのです! この場所の存亡がかかっている場面で,逃げさせるわけにはいきません。


「……入れ。ソウとイコールもだ」


 扉の向こうからの呼び声にあたしたちは顔を見合わせた。瞬時に居住まいを正したアスミさんを見て、シリウスさんがため息と深呼吸が混じった深い息をつく。


 もうなるようにしかならないね。あたしが視線を向けると、イコールさんは頷いて扉を開ける。


「失礼します……」


 小声で言って中に入る。大きなデスクの向こうにはいつもより小さく見えないキュラ様。その後ろに立つブレンネさんの表情も厳し目です。


 使者である二人はデスクの前まで歩くと、待ち構えていた魔女様に対して(意外なことにアスミさんも)頭を下げた。


「突然の来訪お許しください。僕はシリウス。枢機卿団の末席を汚しています。この度は『教会』の使者としてやって参りました」


「シリウス……猊下の専属騎士、アスミ……と申します」


 どうやらアスミさんはシリウスさんにも目の前の二人にも謙るのは嫌みたいですね。すごく分かりやすい。


「顔を上げるといい。今更その程度の無礼で頭を下げられても困るのじゃ」


 シリウスさんが「ありがとうございます」と言って二人は前を見た。キュラ様は視線を右に左に動かした後、シリウスさんの方を見て話し出す。


「まずはお主ら(・・・)に礼を言おう。そこの二人がブレンネのおった村に辿り着けなければ、儂は今もこの図書館に縛られた傀儡のままだったろう」


 少し柔らかい顔で二人に感謝を述べたキュラ様だったけれど、下げた頭が戻ったときには元の表情に戻っていた。


「そんなお主らに免じて『教会』の使者としての用件を聞こう。簡潔に話すが良い」


 そんな言葉を聞いたからかな、ホッとしたように少し肩の力が抜けたシリウスさんはアイテムの中から一通の書簡を取り出す。それを手に持ったまま少しの間動作止めて、それから書簡をデスクの上に置いた。


「正確な文面はその書簡を読んでいただくとして、僕から余計なものを省いて内容をお伝えしましょう。読むに堪えない文章だと思いますが、ご一読ください」


 キュラ様は驚いたようにシリウスさんを見て、それから「面白い奴だ」と言わんばかりに口角を上げた。そうだよね、きっと現実と同じように『教会』の上の上に立つ枢機卿から、この二人を使いっ走りにできる誰かがしたためた文章に対してそんな言葉が出るなんて思わないよね。シリウスさんは本当に『教会』が気に食わないみたい。


 キュラ様は手を伸ばして書簡を受け取ると、そのままブレンネさんに渡す。ブレンネさんが開いて読み始めるのを見て前に向き直ったキュラ様は「話すがよい」とシリウスさんを促した。


「僕がここにやってきたのは、この図書館の蔵書の中に『教会』が指定する禁書ーーいえ全ての魔導書がそうというわけではありませんーーが含まれているからです」


「『教会』は魔導書を禁書にしてないの?」


 思わず疑問が口から出てしまった。シリウスさんはキュラ様が何も言わないのを確認してあたしに苦笑いを見せる。


「そもそも魔導書を魔導書として認めてないからね。あの人達からしたらここにある本は全部神学書なんだよ。まぁ神聖術を覚えられる異邦人から魔導書を遠ざけようとしてここに集めていたのも事実なんだけどね」


 そういえばこの世界から神聖術は失われていたんだっけ。異邦人、つまりあたし達プレイヤーが来るまでは魔導書が神学書として読まれていたってことになるのかな。


「魔導書って認めてしまったらあいつら全員禁忌の術を使ってることになってしまうもの。魔導書を禁書扱いなんて出来ないのよ」


 無言を貫いていたアスミさんが楽しそうに話す。シリウスさんはキュラ様の方に向き直り咳払いをして「つまりはですね」と話を戻す。


「『教会』はあなたと全面的に争うつもりではないのです」


「それをよくもまぁこんな恩着せがましく書けるものだな」


 苦虫を噛んだような顔で書簡を読んでいたブレンネさんがぼやく。読むに堪えないってそういう方面かぁ。


「なんの反論も出来ませんね、申し訳ありません。とにかく僕は『教会』の指定する禁書の扱いについて話し合いにきました」


「なるほど。具体的なそちらの提案を聞かせてくれんか?」


「基本的には現在そちらが指定している禁書と同じ扱いをしていただければで良いのですが、特に重要な一部の本については教会の手元に置いておきたいと」


 それはまたキュラ様の神経を逆撫でそうな提案ですね……。思った通りキュラ様は舐めやがってと言わんばかりに頬をひくつかせている。


「勝手に儂をここの管理者に仕立て上げておいて、いざ解放されたら引き渡せと。身勝手極まれりと言うほかあるまい」


「交渉のテーブルにも、乗っていただけませんか?」


 シリウスさんの声が一段低くなった気がする。「教会」(ふたり)「帝国」(ふたり)の睨み合いにあたしとイコールさんは息を飲むことしかできないんですけど。本当に胃に悪いゲームです。


 と、そこでふっとキュラ様が笑って、それと同時に瞬間に一つのポップアップが現れる。


『トリガーミッション〈生産する者、清算する者〉発生』


「「「「え?」」」」


 異邦人4人の声が被りました。ここにいる全員にトリガーミッション? ということはもしかしてあたし達は?


 いやいやまだ決めつけるには早すぎる。


「どの本を、というのは後でゆっくり話し合うとして『手元に置く』のは了承しようではないか」


「え? あ、いえ了承していただけるなら嬉しい限りですが」


「ただし、所有権は渡さん。これは図書館のものじゃからな」


 図書館のってところでなんとなく察しがついた。


「それらの本はお前達が『教会』の名義で借りるが良い。特別に無期限の間貸し出してやろうではないか」


「なるほど……」


 この図書館の全ての本はキュラ様の管理下にある。どんなに遠くにあっても強制返却ぐらいは出来そうだよね。つまり、ずっと手元に持っておきたいのなら妙な真似をするなって『教会』に言ってるようなものなのかな。


「分かりました。こちらはそれで問題ありません」


 短くない時間押し黙っていたシリウスさんがはっきりとそう言った。


「ほう、ここで即決か」


「この場で決めるために枢機卿(ぼく)が出向くことになったものでして」


 立ち上がったキュラ様とシリウスさんが握手する。なんとかまとまったみたいだけど、じゃあなんでミッションが発生したんだろう?


「それで、お前達が望む禁書の一覧はないのか?」


 シリウスさんが取り出した分厚い紙を受け取ったキュラ様はざっとそれを眺めて、何かを指折り数えている。


「ふむ、そうかそうか。まぁ実際に貸し出す本についてはおいおい相談するとして、だ。お主はこの図書館の貸し出しルールを知っておるか?」


「詳しくは知りませんが……」


 詳しく知っているあたしはすごく嫌な予感がしてきた。


「制限図書の貸し出しには図書館内にあるダンジョンクリア時にもらえるチケットが必要なのじゃ。そもそも貸し出していない本にも同じルールを適用するとお主らは少なくとも100枚のチケットが必要じゃ」


 そーっと抜け出そうとしたあたしの肩をいつの間にかこちら側にきていたブレンネさんががっちり掴む。


「ダンジョンで100枚集めるのは少々骨が折れるだろう。だから代わりに一つこちらのお使いを頼まれてくれんかのう? ブレンネとそこの二人もつけよう」


 逃げられない……おかしい今日は本を読む日なのに!


 シリウスさんが手元に現れたおそらく説明が書かれたウィンドウを読んで、そして答える。


「分かりました。お受けします」


「よく言った!」そう笑ってキュラ様は呪文を唱え始める。


《管理コード:No.58 略式》


 あたし達の下に大きな魔法陣が現れる。とっさに出ようとする使者の二人はブレンネさんに引き止められる。

 

 え、もしかしてそのお使い先まで直接送られちゃうの?


《アドレス:No.3 全ての物を転送せよ》


 詠唱完了とともにいつか味わった視界が歪む感覚を味わって……


 気がつくと、あたし達は小さな村の入り口に立っていました。

幕間は6話くらいで終わるはずだったのですが、ここでやっと折り返し地点です

次も今回と前回くらいの間隔で出せるといいのですが……

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