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教会からの使者があの二人なんて案の定すぎる!

大変遅くなりました。すみません以外の言葉がありません

 ダンジョンが解禁されてからそろそろ一週間。他のプレイヤーたちにも数日前に開放されたのもあって図書館は大盛況だよ。


 あたし個人的にはこんな理由で人が多くなっても全く意味がないと思うんだけど、キュラ様はとにかく人にきてもらいたいんだって。本が簡単に手に入ることが伝われば、いわゆるガチな人たちを中心に魔法使いは増えるかもしれないけどさ。やっぱり魔法使いは本を読むのが好きじゃないと辛い職業だと思う。メイン回復職の聖職者ですら決して多くはないのがそれを物語ってるよ。


 まぁいくら人が来ても、魔法使いが増えなくてもあたしたちのやることは変わらない。トリガーミッション完遂まではこのダンジョンを進んで、それから本を読むだけ。


 ちなみに今日は本を読む日。つまりあたしがルンルンでイコールさんがどんよりな日。ログインしたあたしは昨日のうちに借りておいた本を持って、閲覧室へ。


 盛況の割には人がまばらな部屋の中に退屈そうにページをめくるイコールさんを見つけたので、その対面に座って本を開く。


 今日の本の内容は……王都や他の都市で起こったフィクションのような本当の話をまとめたものだね。笑っちゃうほど痛快な話も感動的な愛の物語も背筋が凍るような怪談も全部まとめたごった煮。こういうのは胃もたれせずにサクッと読めるからいいよね。


「本当に楽しそうに読むよな、お前」


「…………」


 それにしても、濫読するタイプだし、なるべく読む分野が狭くならないようにしたいあたしにこのゲームの仕様はピッタリだね。


「聞いてるか、ソウ?」


「あたしに言ってたんですか!?」


「お前以外誰に言うんだよ」


 独り言かと思ってたよ。目の前に意識を向けると、本は閉じられた状態で脇に追いやられ、イコールさんは頬杖ついてこっちを見ていた。


「何やってるんですかイコールさん。あたしの顔を見てもページは進みませんよ?」


「ほら、あれだ。飯をもりもり食べてる姿を目の前で見せられると、こっちまで腹一杯になった気がするだろ? それと同じような感覚を味わってる」


「そんながっつくように読んでいましたか?」


「いや、めっちゃ幸せそうな顔をして読んでる」


 確かに目の前の人物が幸せそうにご飯を食べていたら、見てるだけで満足できるかもしれませんね。でも、それ以外の顔をして読むことなんてできるはずがないのです。


 そして何より、本を読まない理由を誰かのせいにすべきではありません。


「理屈は分かりました。でも食べなきゃ栄養は取れませんし、読まなきゃ内容は入ってきませんよ?」


「分かってはいるんだけどなぁ。最近リアルで読み込まなきゃいけねぇものが増えすぎて脳が活字を拒否してるんだ」


「だからこそ気分転換に他の文章を読むんですよ!」


 あたしの力説にイコールさんは白い目を向ける。


「お前、数学の勉強して疲れたから化学の勉強に「無理です」」


 つまりそういうことらしいです。勉強と読書は違うのになぁ。イコールさんにとっても違うかはわからないけど。


「とにかく俺には気分転換が必要だぜ。一回外歩いてくるわ」


 イコールさんが行くならあたしもついてこうかなと逡巡していた時、図書室と閲覧室をつなぐ扉が開く。入ってきた二人組にあたしは見覚えがあった。


「あら、二人ともお久しぶりね」


「どうにかなったみたいで何よりです」


 アスミさんとシリウスさん、1ヶ月振りぐらいかな? アスミさんには倒されかけはしましたが、助けて貰ったのも事実です。いつかお礼を言いたいと思っていましたが。


「おかげさまで、ですけど、ここに来て大丈夫なのですか?」


 2人は『教会』に所属していて、毎日嘘か本当かを見抜く装置の前で報告をさせられるみたいなことを言ってたよね?


「ソウはもう『魔女』ではないし、『教会』の奴等はこの結果があなた達と関係してるとは露とも思ってない。だから私達は知り合いと話しているだけ」


「それに『教会』からのミッションでここに来てますから。気にすることはないですよ」


「ミッション、ねぇ。館長のところまで案内が必要か?」


 テーブルに腰を預けたイコールさんが問うと、二人は顔を見合わせて首を横に振った。


「そんなものは後回しでいいわ。それよりも」


 アスミさんはあたしの前に座って目を輝かせる。


「あなたたちの話が気になるのよ! 何がどうしたらこんな風になるのか想像つかなくって、絶対聞こうって思ってたんだから!」


 身を乗り出してそう伝えてくるアスミさんを、その隣の席についたシリウスさんが「抑えて抑えて」と言いながら座り直させる。


「でも、僕も気になるのは同じです。こっちの人達が魔女にどれだけ強い術を使ったかを語ってましたし」


「確かに強いってレベルではなかったですね……」


 今思い返してみると、割となんで勝てたか分からないくらいのデタラメさがあるボスでした。


 いやまぁ、勝ててはいないんですけど。どうにかなっただけで。


「ここで話を聞いて言質を取った、指名手配。とかにはならねぇな?」


「前も言った気がするけど、私達は『教会』の奴らは好きじゃないのよ。あなたと似たこともされているし」


「ソウさんを陥れた実行犯は僕達自身だから色々言えないけどね」


「さらっと爆弾発言しないでください」


 こっちを見てそう言うってことは、つまり魔物にされたかキャラ消滅の危機に陥ったか、かな?


 それこそあたしが言えたことじゃないけど、この人達はなんでこのゲームをやってるんだろう?


「その話はまた今度。先に私達が聞きたいって言ったんだから、先に話してもらわないと」


 アスミさんの言葉を受けてイコールさんを見る。どうしようもねぇなと言いたげに肩をすくめるのを確認して、あたしは二人組に向き直った。


「えーと、お二人と別れた後からの話せばいいですよね? あの村、確かオルタ・サン・グリオって言う名前の村なんですけど、そこに踏み入った途端ーーーー」



 ここまでにあったことを伝えるのには思ったより時間がかかった。一週間足踏みがあったとは言えアスミさんたちと別れてからそこそこの期間が空いていたし、イコールさんが茶々と補足を入れてきたからしかたない。


「お前さ、自分に都合が悪いこと省こうとしすぎだぜ?」


「そんなことないですよ」


「禁書を安全地帯で開いてヒドい事になったのを言わずに話を進めようとした口からどうしたらそんな言葉が出るんだ」


 ……茶々の量に関しては、あたしの責任もあるかもしれません。


「まぁ、俺らに関してはこんなところだ。付け加えるなら今はダンジョンと閲覧室を往復しているって事くらいだな」


「教えてくれてありがとう。トリガーを引いた人の話はできるだけ聞いておきたくってね」


「あたし達以外にもトリガークエストを引いた人がいるんですか?」


 気になる言葉に口が勝手に開く。当然初めて聞いたよ。


「僕らが知ってるだけでも何人かはいるかな。グリフォンでの移動中にイコールさんには話したんだけどね」


 そんな事聞いていませんよ!? 抗議の目でイコールさんを見上げる。イコールさんは不思議そうな顔をする。


「別に俺らにとって重要な話じゃねぇだろ?」


「確かにそうですけども! すっごく興味深い話じゃないですか」


「んな事言われてもなぁ。そもそもアスミから聞いてねぇってのも初めて聞いたし」


 あたしとイコールさんの視線がアスミさんに向く。


「話してる時間、男二人に比べて短かったからどうしようもないわ」


 そう言えば、あの時あたし以外は長い飛んでたんだっけ? じゃあ仕方ないか。


「どんなトリガーがあったのですか?」


「商人絡みのトリガーと、『帝国』じゃない別の国との戦争に巻き込まれたってトリガーを聞いてるね。前者の方は僕達もよく知らないけれど」


「後者ってもしかして……十字軍?」


「よく知ってるわね。聖地奪還のための遠征。現実でもあったそれがもとになった……のだと思うわ、多分」


 アスミさんは随分と自信なさげだ。


「なるほど、まぁそうなるか」


 どうやらイコールさんは態度に合点が着いたらしい。


「記憶の底から引っ張り出して来たが、魔女狩りと十字軍って年代合わねぇよな? しかもこのゲーム内の『帝国』が本来なら重要な役割を持つはずだ」


 ……そっか、そうだよね。中世ヨーロッパの国で『教会』と悪い関係の国なんてそうないよね。


「その考えは改めた方がいいぞ。何しろ十字軍に関わる『帝国』の人間で一番有名な奴は破門された皇帝だからな」


「とはいえ国単位で『教会』へ明確に反旗を翻す意味はなかった。魔法がありませんから。実際ゲーム内のような状況にはなっていないですし」


 ええと、イコールさんが頭の中を覗いてきたせいで話がどこかに行きそうだけどつまり?


「とにかく、史実なんて当てになんないわけ。しかも私達に詳しい状況は伝わって来ないから、それっぽいことが起こってるくらいしか分からないわ」


「だから歴史の授業は後にしなさい」と男達を睨むアスミさん。条件反射のようにビクッと体を震わせるシリウスさんを見てイコールさんも口をつぐむ。


「え、えーと、それでお二人はなんでトリガーのお話を聞いて回ってるんですか?」


 ピリピリした空気を変えるために新たな疑問を投げかけると、二人ともそれぞれ思案するような表情になる。


「趣味と実益のためってところかしら」


「いやほら、トリガーのストーリーってこのゲームの本筋みたいだからさ。できるだけ追っておきたいと思ってね」


「「……………………」」


 見事にバラバラな返答が返ってきました。イコールさんも言葉が出ないみたい。


「いやいやいやアスミさん、なんだよその中身のない返答は?」


「言いたくないって意図が伝わればいいのよこういうのは! シリウスこそその取ってつけたような理由は何?」


「もっともらしいことを言っとくのに限るだろこういう時は!」


 仲良く喧嘩をし始めるシリウスさんとアスミさん。どっちもどっちだと思うけど、そんなこと言ったら矛先がこっちにきそうだから口をつぐむしかない。


「お前らが理由を言いたくないってことだけはよく分かった。詮索はしないから安心しろ」


 そんなあたしの態度を見てどうにもならないと思ったのか、イコールさんが「はぁ」とため息をついて割って入った。


「それで、俺らへの用は済んだか? お前らはお使いミッションでここにきてんだろ?」


 落ち着いたらしいシリウスさんがけろっとした顔で頷く。


「失礼しました。そうですね、できれば管理の魔女のところまで連れていっていただけると助かるんですが」


「オーケーオーケー。でも気をつけろよ、あいつのこと呼び捨てするとあんたのパートナーの剣よりキレる奴がいるからな」


「ああさっきの話の出てきたーー」


 男二人は話しながら立ち上がって歩いて行こうとする。案内はイコールさんに任せてあたしは本読んでようかな。


「あっ、ちょっとまだ話はあるのに。せっかちなんだから」


 そう言ってアスミさんは「あなたも追いかけるわよ」と目配せしてくる。


「……あたしも必要ですか? 案内ならイコールさんが」


「あの魔女が恨む「教会」の使者が来たのよ? 何も起こらないわけがないでしょう?」


 あたしは何も起こらないで欲しいんですけど!


「面白いことが起きるかもしれないチャンスを見逃すなんてもってのほか! ほらほら早く行くわよ」


 あたしにとって一番面白いことは本を読むことなんです!


 どうやらあたしの脳内の叫びは届かないみたい。不思議そうな顔でこっちを見続けるアスミさんに観念して、あたしも愛しい閲覧室の椅子から立ち上がった。

大学生になって以降忙しさに拍車がかかりました

こんなはずじゃなかったのに


私のバラ色のキャンパスライフはどこ……?

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