みんなの本が関わった時のあたしの印象が悪すぎる!
続きました
禁書図書館の開放から1週間。なんだかんだあってほとんど本を読めなかったあたしだけど、ここに来てようやくツキがまわってきたみたい。
「なんだって俺が本を読まなきゃなんねぇんだ……」
それは同時にイコールさんの不運を意味するみたいだけど。
「ぼやいてないで本を読んでくださいね。ブレンネさんに言われたとおりに」
「うぐぐぐぐ」
そう、イコールさんは、まぁあたしもだけど、本を読まなければいけない状態になっている。あたし達を鍛える一環らしい。あたしはともかくイコールさんにそれを強いるのは、確かにあれだよね。まぁなんとなく意図は分かるのだけれど。
NPCのお願いなんか断っちゃえばいいじゃんって思う? 普通ならそうしてるんだろうけど、トリガーミッションでお願いされちゃったからね……ないがしろにしたら何が起こるか、じゃなくてなにが起こらないか怖すぎる。それで、あたしはともかく、イコールさんは渋々本を読んでるってわけ。
「本を読むのは現実世界だけでいいぜ……」
「……………………」
これ以上ないくらい反応を返しづらいぼやきだね……。まぁでもみんながそう考えるから、このゲームには魔法使いはほとんどいないのか。あたしにしか需要がないね。
「それが魔法使いの少ない理由の1つなんですね……。よく分かりました」
「俺にはお前がここまで続けている理由が分らねぇよ。……あぁでもここの開放であの割合削りの魔法が表にでるのか。そうすると固定パーティが組める奴らは魔法使いへの転職を考えるかもな」
1人いるだけで大分楽になるもんね。誰もがそう考えると思うよ。表に出れば、ね。
「その割合削りなんですけど……無いんです」
「え? 無い?」
「多分、ですけど。これを見てくれませんか?」
あたしは本を読むミッションの詳細が書かれたメニューを開き、イコールさんに見られるようにする。
「このリストを上から読んでいってるんだな? で、読んだやつにはチェックがつく、と」
あたしは頷く。
「で、まぁ見ての通りなんですが、チェックが歯抜けになってますよね? ここの本がどうしても見当たらないんです」
ここまで順番に、炎氷雷闇光木地重力と来てたから多分最後は無属性の割合攻撃のはずなんだよね。でも、それがないの。
「まぁ仮にその本が割合攻撃を覚えるための本だったとして、お前が見間違えたとか、見当違いの場所に置かれてるとか、貸し出されてるとかそういう可能性だってあるだろ? 無いってのは言い過ぎじゃないか?」
あたしが本を見間違えるなんてありえない。現実じゃ見えないけど! でも、そんなことはおくびも出さずにイコールさんに言う。
「そう言われると強く否定しにくいですけど……魔法で並べ替えられているのですからあるべき場所にあるのが当然ですし、その場所にあるなら絶対あたしは見間違えません! それに借りられてたらその本のあるところにスペースが空くようになっているじゃないですか!」
「……俺もそう強く言われると納得せざるを得ないな」
あれ? いつの間にか身を乗り出してた? イコールさんがすっごく引いてるよ? なにか良い言い訳を考えて、考え付く前にイコールさんが本を閉じて立ち上がった。
「さて、1冊読み終わったしこれを返してもう1冊をかりてくるかぁ」
「よく喋りながら読めますね」
あたしはつい本に没頭しちゃうから、読みながら何かするのはなかなか難しい。逆に言えばこうやって喋っている時は本に集中できないんだよね。
「リアルでもいつもそうしてるからな。本の場所、案内頼めるか?」
「いいですよ。さっきも言った通り、あたしは本を絶対見間違えませんから!」
「それ、なんか見つけられないフラグみたいだな」
いやいや、そんなまさか。と思いながら、あたしはイコールさんと書棚の間を歩き始める。
「あぁああああああ! なんでないの!!」
「思いっきりフラグ回収したな」
ため息をつくイコールさんに何かを言うことすら出来ないくらいにはおかしい。ぜっっっったいおかしい!! だって本があるはずの場所の周辺、というか本棚1つ全部見たんだよ!? それなのに見つからないって、ある? と言うか魔法で……メタいこと言うならプログラムでやってるのにどうしてこんなことが起こるの!?
「ねぇイコールさん!」
「な、なんだよ?」
高い脚立の上からガバッと振り返るとイコールさんは数歩後ろに下がりながら答える。
「魔法で、プログラムで並べ替えてるのに場所が間違うなんてことあるんですか!?」
あたしが脚立を降りると共に「落ち着け落ち着け」と言いながら後退していくイコールさん。
……そうですね、ちょっと熱くなりすぎました。深呼吸をして、それからもう一度イコールさんに聞きましょう。
「で、どうなんですか?」
「落ち着いてもあんま変わりねぇな……大体、どうしてそれを俺に聞くんだよ?」
「ほらなんかイコールさんって理系っぽいから」
そう言うと決して嬉しそうではない、微妙な顔をされた。
「理系ならプログラムが出来るっつう考えはよくねぇと思うぞ……。まぁ答えられるから答えてはやるけど」
「理系なら出来て当然じゃないんですか?」
「理系って範囲がそれなりに広いんだよ。文系なら誰でも小説が書けるかって言われたらそんなことはないだろ?」
「それと一緒なのですか」
「それにプログラムを書くだけなら文系の方が遥かにいいって話もよく聞くぐらいなんだぜ? ……話が横に逸れたが、質問は、プログラムで並べ替えてるのに場所が間違うなんてことあるんですか!? だったか?」
「声真似うまいですね。そうですけど」
自分から話が逸れそうな話題を持ってこないで欲しいところです。
「答えは勿論、ある。プログラムにバグがあったり、本の登録名が違ったりしていればそれだけでソートが上手くいかなくなるからな。このゲーム、1度もきちんとメンテしてないからバグ修正とかしてるかもわからねぇ。まぁ、バグがあっても直せない仕様になってるなんてこと、流石にねぇと思うが……」
渋ったわりに難しいことをスラスラと言ってくるんですね……。えっと、ということは……。
「……要するに運営にメールすればいいってことですか」
「最終的にはそうなるだろうが、その前に出来ることがあるとおもうぜ?」
「出来ること、ですか?」
頷くイコールさん。
「そうだな、例えば――そこの2人に聞いてみるとか?」
イコールさんはあたしの後ろを指差す。そこには、意地悪そうな笑みを浮かべるキュラ様とその右後に控えるブレンネさんだった。
確かに……そうだね。プログラムとかメタいことを考える前に、図書館の管理者たるキュラ様に聞くべきだった。
あたしが振り向いたのを見て口を開きかけたキュラ様に近づき、ニコッと笑う。
「キュラ様、本を隠しやが――じゃなくて見当たらない本があるのですが、どうしてだか分かりますか?」
「……ブレンネから聞いておったが、お主は本が関わるとがらっと人が変わるんじゃなぁ」
ブレンネさんを右手で制しながら、呆れ声でキュラ様は言う。そうかな? 自覚はあまりないのだけれど。
「まぁもちろん分かっているのだが――待て待て待て、少しは話を聞け! こっちにも事情があるのじゃ!」
「ソウ、落ち着いて思い出せ。ここは戦闘禁止領域だ」
「ツッコむべきところはそこではないと思うのだが……」
「コイツ結構真剣に怒ってるから、こっちの方が効果的だと思うぜ?」
「管理の魔女様の考えに考え抜いた上での策に怒るとは……やれやれだ」
「まぁ、話くらいは聞くべきだと思うぜ? さすがに」
真顔でそんな話をする男性陣。全くもって酷い言われようです! でもこれは形勢不利ですね……仕方ありません。
「……分かりました。とりあえず事情を聞きます」
ふぅと安堵のため息を漏らすキュラ様。そして彼女は咳払いをして喋り出す。
「お主らも知っての通り、勢いでこの図書館を開放してしまったのじゃが、2つほど問題が生じておったのじゃ」
いきなりなんの話だろう? と思ったあたしの顔を見て、キュラ様は続ける。
「関係のある話だから安心せい。1つ目は禁書にするほどでは無いが、中途半端な実力の者には見せられない本があること。本来は実力を示さなければ読むことの出来ない本を開放していいのじゃろうか……と今更だが思ったわけじゃ」
「……もしかして、あたし達が読むよう言われた本の中にもそれが?」
「うむ、そういうことじゃ。そしてもう1つは思ったより来館者数が伸びないことじゃ。こんな場所が出来れば『王国』に潜んでおる魔法使いはこぞって訪れると思っていたのじゃが……」
「来館者から聞いた話をもとに考えると、そもそも魔法使いの数が少ないようです。『王国』によって迫害、排除が行われているのでしょう」
「…………」
王都についた瞬間に引いたトリガーイベントを思い出す。王都の人たちは魔女は簡単には倒せないから、魔女じゃない人が魔女狩りにあってるって言ってたけど……アスミさんやシリウスさんみたいな人がいて、更にキュラ様達を罠に嵌めるような人もいるんだから、普通に倒せそうな気がするよね。
「まぁそこに関してはこれから詳しく調べればよい。今はそれによって来館者が伸びないのが問題なんじゃよ。これではなんのために解放したか分からんからのう」
そもそも王国に対する嫌がらせが目的だもんね。人が来ないんじゃ意味が無いって言うのも分らなくないです。
でもこの2つ、どうつながるの?
「話の流れ的に、その2つを同時に解決する策を思いついたんだよな?」
「うむ、その通りじゃ」
前振りご苦労と言わんばかりの満足げな笑みを浮かべるキュラ様。
「魔法使いの実力を図れて、なおかつ人が呼べるもの……それはだな」
「ダンジョン、だ。別に書庫や閲覧スペースをそうするわけではないからな? ソウ君」
「け、警戒しすぎですよブレンネさん!」
「意外じゃの、てっきり、図書館内にそんなものあるなんておかしい! とか言い出すとばかり思っていたのだが」
「私も失敗したかと思ったのですが意外ですね」
意外と思われるのがなにより嫌だよ……そこまでのことしたっけ? と自問したあたしの肩に、イコールさんの手が乗る。
「自業自得だからな?」
「…………」
誰から見てもそうなんだ……。かなりショックだよ。
まぁ、だからといって改められることではないけれど。
「ダンジョンか。そういやこのゲームでは見たことがなかったな」
「だろう? やはり人を集めるには目新しいものが一番だと思うのじゃ」
失礼だけどドヤ顔としかいいようがない自慢気な顔のキュラ様。
「でもそれがさっき言っていた簡単には読ませられない本とどんな関係が?」
「よくぞ聞いてくれた。このダンジョンは5階層あって、攻略した回数が増えるごとにモンスターが強くなる。あぁもちろん地形は毎回変化するぞ。そして、1度攻略するたびに制限図書を2冊よむ権利を与えるのだ」
確かにそれなら実力をはかっていることになるけれども…………。
「この流れからするとまさか……その権利を何かと交換できたりもするのか?」
「まぁそうしなければ剣士たちを呼べぬからな。幸いここにはいい装備もたくさん残っておったからの、それと交換することになるだろう」
「えーと、じゃあ……ダンジョン自体はキュラ様だからなんとかなるとしても……モンスターは?」
「図書館が解放される以前にいたモンスターであれば、管理の魔女様は自由に生み出せる」
「あのモンスターたちは『王国』の奴らがここに置いていった生成装置から生み出されたものじゃからな。それの制御は今も変わらず儂の思うがまま、じゃ」
モンスターが図書館にいた理由ってそういう……だから聖人の名前のボスモンスターが多かったんですか。やっと納得がいきました。
……現実逃避気味に思考の方向を逸らしたけど、そんなことしてもどうにもならないしキュラ様達の話をまとめようかな。
ダンジョンを作った。
ダンジョン攻略の景品に本がある。
そして、その本を読まないとトリガーミッションが進まない。
なるほどなるほど、ということは…………。
「つまり、俺達に『ダンジョンを攻略しろ』と言うわけだな」
「うむ、そろそろリストの中にこの書庫にない本があるのにも気付く頃だと思ったからな。一般に公開する前にお前達にテストしてもらおうと思って呼びに来たのじゃ」
タイミングが良かったのお。と続けるキュラ様。……さて、どうやったら本を読んでられるかな。
「あの、あたしの実力じゃまだダンジョンとか難しいかなぁって」
「戦わずしてどう実力を身につけるのじゃ?」
「もっと本を読んで魔法を覚えて……」
「座学だけでは魔法は身に付かん。実践は大切じゃぞ」
「……………………」
魔法に関することでキュラ様に勝つとか、言葉でも無理だよね……。どうしよう……。
「どうしてあたしがこんなことを……」
ぼやくあたしの肩をイコールさんがぽんと叩く。振り返ればとっても意地の悪い表情が見えた。
「ぼやいてないでダンジョンに行こうぜ。キュラ様に言われたとおりに、な?」
「うぐぐぐぐ」
見事に意趣返しされたあたしは、半ば引きずられるようにダンジョンへ連れて行かれる。
まぁ、それでも新しい本が読めるようになるみたいだし……前に比べればずっといいか。と、なんとか自分を納得させて引きずられるに身を任せることにした。
ここで反抗すると更に読書キチだって思われそうだし、ね。
幕間なのでノリで行くと思います
多分続きます




