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剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!  作者: 書き手さん
剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!
21/30

闘剣士はやっぱり都合が良すぎる!

お久しぶりです。

予定より早くに新しい話を書くことが出来て良かったと、心から思います。

 決意も新たにしたその瞬間、影は黒い球体に包まれ、そこから闇色のナイフが大量に乱射される。


 ううん……乱射じゃない。びっくりするほどの量だから見誤ったけど、これ全部規則正しく並んでる。影からの距離からがあるから、簡単に避けられるけど……。


「初見で避けられるから最悪ではねぇ……が、こんなのばっかだときついな」


 影を中心にナイフが発射されてるから、影に近づけば近づく程、弾幕の密度が濃くなる。1本1本の威力がどれくらいかは分からないけど、あの数を喰らうのは避けたいなぁ。というかあの黒いのをまとった状態じゃ攻撃が通らなそうだね……。


 と、そこで黒い球がパリンと割れ、中から同色の影が現れ、両手を広げ浮かび上がった。攻撃のチャンス!? と、魔法詠唱を始めようとして、白い山犬が首を振る。これはブレンネさんだと思いながら見ると


「とりあえず様子を見るぞ。あまりこういうことを言いたくはないが……魔法一発程度では全く意味が無いだろう」


 っていう声が聞こえてきた。そう言えば最初にこの部屋に入ったとき、影に《雷力解放(フルメインクル)》直撃させたけどピンピンしてたね。おとなしくブレンネさんの意見に従っておこっと。


 空中に静止した影は広げた腕を閉じ、力を解放するようにその手を伸ばす。瞬間、黒い雨が──小さな黒い球が大量に──降り注ぐ。今度のは密度が高い! これは避けられな……


「ソウ、こっちだ!」


 呼んだイコールさんは部屋の隅のテーブルの上。確かにそこなら避けられるかも。全力でテーブルまで走って、間に合う? 間に合わない? と思ったその瞬間に、イコールさんが引き上げてくれた。


「イコールさん、ありがと」


「気にすんな。それよりどうする?」


 どうするって言われても……。魔法はほとんど効かないし、物理攻撃を与えられるほど近づこうとしたら、その前に死んじゃうよ……。


 そんなあたしの顔を見て、イコールさんは肩をすくめ苦笑い。


「やっぱりどうしようもねぇよな。とりあえず様子を見るしかねぇか」


 そう言い、真剣な顔で影を見る。あたしもつられて部屋の中心の方に目が行く。目の前には黒い雨が降り続けている。背後の書庫は半分より上の方しか見えない。


 数秒後、黒い雨がその元の方から消えていく。最後の球が放射線を描いて床に落ち、溶けるようになくなった。次の攻撃は? と身構える間も無く、影は自分よりずっと大きい両刃の大剣を3つ生み出す。


 投げてくるのかな? と思った次の瞬間、大剣は地面に突きたてられ、幾筋もの衝撃波を生んだ。その内の1本は、まっすぐあたし達の方へ向かってくる!


 テーブルから飛び降りたその次の瞬間、衝撃波が当たる。それなりに大きくて、上にもいろんなものが載っていたテーブルが軽々と宙に舞い、ものすごい音を立てて落ちる。破壊されないオブジェクトだったからああだったけど、もしあたし達があたっていたら……。


「なぁ、ソウ」


「な、な、なんですか!?」


 背後からいきなり肩を叩いてきたイコールさんは、珍しく心配そうな顔をしている。


「震えてたけど、大丈夫か?」


「イコールさんがいきなり肩を叩いてくるからいけないんです!」


「まぁ……そういうことにしておいてやるよ」


 うぅ、イコールさんが生暖かい目であたしを見てくる……。


「っと、今度はなんだ? 地面に手をついたまま動かねぇぞ?」


 イコールさんの言うとおり、影は膝をついて地面に手を伸ばして、それだけ。これは攻撃をキャンセルさせないと、とんでもないダメージを食らわせてくるやつとか? それとも――――


「ガウッ!」


 山犬が大きく吠えたのを聞いて、あたしは目を閉じ、ブレンネさんが喋っているのを想像する。


「君達、下だ!」


 声に従って下に目を向けると、足元の床が、墨汁で塗り潰したかのように真っ黒に染まっている。落とし穴だったら底無しだ。しかも、走っても歩いても、黒い床はついてくる。


「これは……攻撃してきた瞬間に避けなきゃいけないやつだな」


「反射で避けろってことですか!?」


 イコールさんは頷く。あたし、そういうのすごく苦手なんだけど……。


 とにかく足元に意識を集中させる。来る? 来ない? やっぱり来る? そんなことを考えていると、黒い床が水面のように揺れた……気がした。


「――――ッ!?」


 声にならない悲鳴を上げながら回避。恐る恐る振り返ると、闇色の火柱が立っていた。な、なんとか避けられた……。あたしは足の力が抜けてぺたりと座り込んでしまう。


「おい、何やってんだよ? 1つ避けたからって安心してんじゃねぇぞ!」


 あぁそうだ。これ終わりじゃないんだ……。でも、とてもじゃないけどこんなのずっとは続けられないよ……。


 早く、なにか策を考えないと。そう思いながらあたしは、なんとか立ち上がった。



「次は……黒い雨の攻撃だな」


 跳ね上げられ、ひっくり返ったテーブルの上へ、あたしはイコールさんと避難する。ここまで結構な時間避け続けてきたけど、策は思いつかない。こんな状況じゃ思いつけるものも思考の彼方に消えちゃうよ! あたしは、壁に寄りかかって、乱れるはずのない呼吸を整えていた。


 イコールさんはというと、降りだした雨をじーっと見ながら思案顔をしている。


「あの、イコールさん?」と話しかけようとした時、こちらを見ずにイコールさんが口を開く。


「なぁソウ。1つ頼みたいことがあるんだ」


「頼みたいこと、ですか?」


 あたしが首を傾げると、イコールさんはこちらに至極真面目な顔を向けてこう言うのだった。


「あぁ、久しぶりに空を飛んでみたくなったもんで、な。力を貸してくれるか?」


「えっと……一体全体、いきなりなんですか?」


 飛んでみたいって……。きっとこの城の近くの村で戦った時の、アレを言ってるんだろうけど……。


「ほら、さっきの衝撃波にしろ、この雨にしろ空中ががら空き(・・・・・・・)だろ? 上からならあいつに攻撃出来るんじゃねぇかって思うんだ」


「つまり……空中から攻撃するってことですか?」


「あぁ。まぁこの雨の方はほぼ真上からしか攻撃できないから難しいが……衝撃波の方ならあの死神と同じ方法が使えるだろうな」


「…………」


 危ない。絶対に危険だと思う。ううん、今回は思うだけじゃない。理由もちゃんと分かる。


「このゲーム、基本的に空中からの攻撃とか考えられてないから、多分攻撃は出来ると思います。でも、その後は?」


「どういうことだ?」


 イコールさんは冷静を装っているけれど、目がほんの一瞬泳いでいた。この人、危険だって分かってて言ってるよ!


「あの影、物理反射を使えるんですよ! 覚醒前に攻撃キャンセルもしてきたし、今だって………とにかく、危険すぎます!」


「……別に、一撃食らったらゲームオーバーってわけでもねぇだろう?」


「そういう問題じゃあ」と言おうとしたその直前に、イコールさんはあたしの口を人差指で閉じる。


 驚きのような、恥ずかしさのような、なんだかよく分からない衝撃にかられて、あたしはイコールさんを睨む。芝居っ気たっぷりの不敵な笑み。それをみてなぜか、少しだけ気持ちが落ち着く。


「……イコールさん、いきなりなんですか?」


 指を強引に外して、あたしはイコールさんに言う。


「どうせ、そういう問題じゃないとか言おうとしたんだろう? 分かってるさ。だがな、このまま待ってたって決定的な勝機はこない。お前だって分かるだろ? だから、俺は使える手があるなら使いたいんだ」


 微妙に答えになってないけど、欲しい答えじゃないけど、いいや。そこには突っ込まない。それ以上に言いたいことがある。


「だからって、そんな危険なことする必要ないです!」


「勝利に多少の危険は付き物だぜ? それに、こんな強敵前にして全く怯まず「一緒にクリアしよう」って言ったやつは誰だよ? お前が焚き付けたんだぜ?」


「む、言ってないですよそんなこと!」


 言ってないけど、反論出来ない……。イコールさんも言いたいことは言いきったみたいで、口を開かない。


「…………」


「…………」


 無言の睨み合いを破ったのはブレンネさんだった。背中の後ろでガウガウ言う山犬を、ブレンネさんだと思いながら振り返る。


「ふむ、口論も良いがもう次の攻撃が来るぞ」


 その言葉を聞いて部屋を見回す。とっくに雨は上がっていて、部屋の真ん中には黒い球体が現れていた。ナイフが大量に出てくるやつだっけ?


 避けるために壁際に移動したところで、ブレンネさんは続ける。


「で、さっきの話は聞かせてもらった。ソウ、私を飛ばすがいい」


「……どこから聞いてたんですか?」


「勿論あの角から、そして最初からだ。山犬の耳を舐めてもらっては困るな」


 その耳のせいで何回かダウンしてたくせに、どうしてこういう時に限って有効活用してくるんだろう? あたしは、出来るだけ恥ずかしさが顔と動作に出ないように善処した。……多分、善処しただけだっただろう。


 もっともイコールさんはあたしのところなんか見てない。ブレンネさんに首を傾げてる。


「お前が飛ぶのと俺が飛ぶの、どう違うってんだ?」


「基礎能力だ。そして踏んできた場数だ」


 直球すぎる物言いに、イコールさんもあたしも一瞬言葉を失う。


「万が一の時、私に対処できず、イコール君に対処できるということは、まぁないだろう」


「ひでぇいいようだな。事実ではあるんだろうがよ……」


「そして、私に決められず、イコール君には決める可能性はあるだろう」


「なんでだ? どっちだってお前の方がうまくやれんじゃねぇのか?」


「……私が山犬で、君が人間だからだ。私では出来ない手段を君なら取れる。対策を考えて、しかし私には出来ないというのは最悪だ」


 自虐的な物言いをする直前、ブレンネさんの目に一瞬迷いが生じた気がした。そういえば、この人にとって影――管理の魔女さんは大切な人なんだっけ? ホントは自分の手で救いたい。ってことかな?


 にもかかわらず、イコールさんに決めろというブレンネさん。きっとさっきのは本心なんだろうね。自分の手で決着をつけるより、確実性を優先することにしたんだ。やっぱりブレンネさんは、ブレンネさん自身が思ってるより、ずっとすごい人だよ。


「そういうことで私が先に飛ぼう。ソウ君、それでもやりたくないかい?」


「それでもってなんですか!?」と言いかけて、なんとか言葉を封じ込める。


「……その言い方なら、あんまりやってもいいとは言いたくないです」


「つまり、OKということだな」


「…………」


 ぷいっと横を向くあたしを、イコールさんは不思議そうに見ている。まぁ、そうだよね。全然気にしてなんかないけど。


「とにかく、俺の作戦を使うってことでいいんだよな? なら、衝撃波の攻撃を待とうぜ?」


 私はため息をついて、イコールさんに頷いた。



 大剣を使った衝撃波の攻撃は、影の攻撃のなかでも避けやすい方だった。威力は高そうだったけれど、確かめてみる気にはならない。だからかは分からないけど、影は中々衝撃波の攻撃をしてこない。他の攻撃は数度見てるのに、なんであの攻撃だけ……。


 焦らされてる。そんな気がしてきた。あたしたちがたった1つの攻撃を待っていることを分かっていて、苛立たせるために使ってこないのだ。ううんありえないと頭のなかで首を振るけど、本当の人間のようなブレンネさんを知っていて、影がもとは人だったことを考えたら、あたし達の様子を見て、どの攻撃かを待ってるかぐらい────


「ソウ! 来るぞ!」


 イコールさんの叫びで現実に引き戻される。影の周りには前より多い6本の剣が浮いていた。衝撃波の射線上から逃れて、山犬を見た。ぐいっと大きく頷いたのを見て、あたしは呪文を唱える。


重力解放(グラウアグレ)!》


 山犬が白の弾丸となって、影に射出される。弾の色は途中で白から赤に変わった。ブレンネさんがスキルを使ったのだ。


 赤い尾を引きながら、流星は肥大化した右の爪で影が無防備にもこちらに曝け出した背中、そこに張り付いた黒い箱を切り裂こうとする。


 後コンマ数秒で爪が箱にかかる……そんなタイミングで影が反応した。態勢を変えブレンネさんと正対、そして左腕を伸ばす。手の中には、影よりも更に濃い、漆黒の球体がいつの間にか生まれていた。


 山犬の右爪と影の左手が接触する。そうしたら、物理反射でブレンネさんは……今さらながら後悔の念を駆られかけたその時、


「経験の量が違うと言っただろう?」


 そんな声が聞こえた気がした。それとともに、山犬は唸り声を上げて短い腕を精一杯伸ばす。


 黒い球体と触ったのは山犬の右腕だった。物理反射は……起こらない。けれどブレンネさんは右腕と射出の勢いを抑えきれず、投げ飛ばされるかのように壁へと突進していく。一瞬ひやっとしたけど、山犬は書棚に見事4足で着地し、地面へと降りる。


 そして、あたし達に「ガウッ!」と一吠え。見れば、まだ影の攻撃は継続している。でも……。


「ブレンネさんのおかげで、物理反射の対策の仕方は分かったけど……」


「あれじゃあ結局黒い箱に攻撃できねぇな」


 イコールさんに頷く。あの感じじゃ影の背後を取るのは無理そうだ。一体どうすれば箱に攻撃できるの? あたしは、自分とイコールさんに出来ることを、そして持っているものを思い起こす。ここからどれとどれをどう使えば……。


「結局俺でも決められないとか……ふざけてんだろ!」


 イコールさんが毒突いた、その言葉で…………そうか、イコールさんなら。あたしは1つだけ策を思いついた。ブレンネさんはけっしてこういう意味で言ったんじゃないだろうけど……うん、人じゃなきゃ出来ないね、これは。


 あたしはメニューを開き、イコールさんにプレゼントを送る。


「一体このタイミングで何だよ?」


「前に回復薬をくれたお礼です」


 ?マークを頭上に浮かべたまま、内容を確認したイコールさんが「え?」と声を上げる。


「ちょっと待てよ、ソウ。なんだこれ、どこで――――」


「行きますよ!」


 イコールさんの言葉を遮り、あたしは呪文を詠唱する。


重力解放(グラウアグレ)


「ちょっと待て、準備が!」


 準備なんてしてたらバレちゃうでしょ? と脳内でいいながら呪文を言い切ると、イコールさんが影に向けて発射された。イコールさんはスキルを使わない。けれど一瞬、何かが消えた時の光の飛沫みたいなエフェクトが生じた。


「うぉおおおおおおおおお!」


 叫び声とともにイコールさんは、再び出現し、テクスチャが付く直前の白い光をまとった得物を振るう。声に反応した影はブレンネさんの時より数瞬早く、左手を上げた。


 得物は吸い込まれるように黒い球体に向けて振り下ろされ、そして、当たると同時に、得物はその姿を現す。


「なるほど」


「!?」


 イコールさんの声と同時に、初めて影が動揺した……気がした。でもまぁ、その気持ちも分かる。だって、イコールさんが持っていたのは、そら恐ろしいほど冷た(・・・・・・・・・・)く輝く刃のついた(・・・・・・・・)命を刈り取るための鎌(・・・・・・・・・・)だったんだから。そう、あの村を襲っていた死神の持っていたものと同じデザインの、あたしにドロップした大鎌。それをイコールさんは振るっている。


 ブレンネさんは爪ではなくて、ダメージ判定のない腕を黒い球体に当てることで、物理反射を回避した。今回も同じ。ゲームだから、いくら高速に鎌を振るおうとも、柄の部分にダメージは発生しない!


 そして、イコールさんがブレンネさんのように吹っ飛ぶ前に、あたしは呪文を叫ぶ。


重力誘導(グラウアグレシ)!》


 対象は……迷ったけどイコールさん。彼を、思いっきりこちらへたぐり寄せる。鎌なら、正対する相手の背後に攻撃できる。これで箱を……。


 勝ったと確信したその時、影は無理やり箱と刃の間に腕を捩じ込んだ。まるで余裕のない行動。けれど、腕はきっちりと刃を受け止めている。


 今は魔法が働いているから、イコールさんは空中で踏ん張れていられるけど、効果が終わった瞬間に吹き飛ばされる。もう一度同じ手は通用する……のかな?


 ブレンネさんが影の右腕に食らい付き、引き剥がそうとする。それでも、まるでそういう形の石像だったのだと言わんばかりに、影は腕を動かさない。


 影は左腕を鎌柄と体の間から引き抜き、ブレンネさんを払いのける。そして、次はお前だと言わんばかりにイコールさんに手を伸ばした。ううん、そんなことされなくたって、もう重力誘導(グラウアグレシ)の効果が切れてしまう。


 あと、もう少しだったのに……。もう少しでこの戦いを終わらせられたのに……。


 そういえば、イコールさんと初めてあった時もこんなんだった。後一撃で決められる。なのにMPは底をついて、あたしには自爆以外の選択肢がなかった。あの時は……。


 ピコーン。記憶の中と同じ音が、今実際に響いた。そして、鎌が青く輝き始める。


「イコールさん!」


 そうだった。このゲームは剣と魔法のRPGなのに、スキルの習得に大分格差があるんだった。


「いっけぇえええええええええええええええええええええええ!」


 彼のような闘剣士は、思いつくようにスキルを覚えられるんだ。イコールさんの叫びを聞きながら、そんなことを思い出す。


 数瞬か、数秒か、はたまた数十秒か。影が全身全霊で刃を押し返そうする力と、あたし達の刃を箱に届かせようという思いが拮抗し、そして、崩れる。


 結局、重力誘導(グラウアグレシ)の効果とスキルのアシストが重なっても、影の右腕には1つのヒビすら入れられなかった。


 けれど、刃は右腕を弾き出し、そして、次の瞬間には刃が影の手前にあった。


 カリッィィ……ィィィッッ……ンッッ……


 何かが壊れる高い音を聞いたと同時に……世界が白く染まる。


 そこで、前にイコールさんが言っていたことを思い出す。


「な? 魔法と違って便利だろ?」


 ……あれ? 思い出してることのはずなのに、前と言ってることが違うや。



 影から吹き出していた白い光は、数十秒間たってようやく消えた。


 なんとか目が慣れたあたしは、「目が、目がぁ~!」と叫んでいたイコールさんの肩を後ろから叩く。


「あ? なんだ?」


 驚きもせず、何事も無いかのように振り返るイコールさん。ツッコむのはやめよう。


「これで、終わりなんでしょうか?」


「さぁ? まだクエストクリアのポップアップは出てねぇし、思いっきり影、つまり魔女様をぶった斬っちまったし」


「そ、そういえば!」


 慌てて真ん中の方を見ると、倒れた人影の周りで、ブレンネさんがあたふたしてる。人影は少なくとも、真っ二つにはなってない。


 というか、あの人が魔女様? まさか……


「お、大丈夫そうだぜ。スキルの説明文に『悪だけを断ち切る』とか書いてある」


「もう、なんでもありですね…………」


 未だ慌てているブレンネさんにその事実を伝えようと近寄ると、手で制された。彼はやっと生死の確認方法を思い出したらしく、魔女様の脈をとって、ふぅとため息をつく。


「大丈夫ですか?」


「あぁ、気を失っていらっしゃるだけのようだ」


 視線を魔女様に向けたまま、ブレンネさんは言う。そして意を決した、とでも言うように立ち上がり、あたしの前に立つ。


 なんかいつもより一歩二歩近いような……しかも、威圧するためにわざとそうしているような……。


「応接室で休憩できるようにしよう。先に休んでいてくれ」


 とてもじゃないけど、断れない。イコールさんはというと、何も言われず首根っこをがしっと掴まれて、引きづられていた。


「いきなりどうしたんだこの人は!?」


 イコールさんが口の形だけで問いかけてきた。あたしはそんな器用なことは出来ないので、首を捻っておく。


 応接室まで行き、心ここにあらずの状態で呪文を唱えたブレンネさんは、「私はもう少し、魔女様の様子を見ていよう」と、ふらふらと戻っていってしまった。目はもうこの場の景色を写してない。


 ブレンネさん、大丈夫なんだろうか。心配にはなる、なるけれど、さ。


「……これ多分、追いかけた方がいいパターンのやつだよな?」


「……追いかける気に、なります?」


 ゆっくり首を振るイコールさん。あたしはブレンネさんのことを頭の隅に追いやり、無理矢理明るい声を出す。


「あたし達、ラスボスっぽいのに勝ったんだよ?」


「あぁ! そうだな! もっと喜んでいいな! まぁ、正式にクエストクリアになるのはあの魔女様とやらが起きてからだろう。まだまだ目が覚めるのには時間がかかるだろうし、ここは一旦ログアウトすべきじゃないかと、俺は思うんだ」


「私もイコールさんと同じ意見です! たまには早寝も必要ですね!」


 あたし達は全てをほっぽり出して、ログアウトのボタンを押した。

久しぶりだったせいかイコールさんが荒ぶってますね。すみません。

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