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剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!  作者: 書き手さん
剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!
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伝えたい事があるのならこの方法はひどすぎる!

 次の日、あたしは昨日の洞窟からほど近い村で、気難しそうな老人と向かい合っていた。


「ふむ……」


 NPCの馬飼が見つめるのは、テーブルの上に置かれた、なめし革の馬具と昨日採掘した鉄から作った蹄鉄だ。


「うーん」と低くうなりながら、1つ1つ物を手にとって見つめている馬飼。もうクエストクリアのポップアップは出ているのだけど、ちょっと緊張する。


「……仕方ねぇな。俺の育てた馬を持っていくといい。こいつらは俺がつけといてやる」


「あ、ありがとうございます!」


 ほっとひといき、思わずお礼の言葉が口から出る。


 まぁこういうのは、自分の気持ちに素直な方がいいから、ね?


 恥ずかしくって、自分に言い訳してしまった。



 念願の馬を手に入れて、行きたい場所はこのゲーム世界最大の都市、王都カプトマンディ。もちろん人も多いし情報も多いから、きっと本も探しやすい……はず!


 数ヶ月前からずっと行きたかったんだけれど、ここから王都への道には関所があって、馬を持っていないと通してもらえないようになっているせいで、ずっと足止めされていたのだ。


 ここを越えたら初心者卒業って言われてる。つまり、あたしは1年間初心者だったわけ。笑えないね。


 まぁとにかく、これであたしも王都へ行ける! あたしは貰った馬に早速乗って、関所へと走り始めた。



 ドヤ顔で馬を見せて関所を越え、そのまま走らせること数十分、あたしの前には象牙色の高い壁がある。こんなに高い建物を見たのは久しぶり。


 そんな高い壁が、遠くから見た感じ半径数キロの都市の周りを、ぐるーっと囲っているようだった。


 話には聞いてたけど、こんな大きいとは思わなかったなぁ。多くのプレイヤーとNPCが、馬に乗ったまま壁を見上げていたあたしの横を通り、壁に開いた門を出入りしている。


 あたしは馬を降りて、門へと歩き出す。周りの露店に目を奪われながら、王都の中へと一歩踏み出――――

 

『トリガーイベント<許されざる者への見せしめ>発生』


 ――――した瞬間にこれだよ。もう嫌になっちゃう。昨日のも、なんかトリガーって言ってたよね? 確か特定の条件をクリアして、決まった場所に行くと起こるらしいけど……。


 まぁでも、今回はイベントって言ってるから戦闘になることはない……はず。さてはてなにが起こるのやら。


 突然、カンカンカンカンとけたたましい鐘の音が鳴り響いた。それを聞いたNPC達が一斉に道の端へと移動する。プレイヤーも「なんだなんだ?」と騒ぎながら、それにつられて道の端へ。


 道の比較的中央にいたあたしは、人に押しつぶされることもなく、最前列に陣取ることが出来た。イベントを発生させた張本人だからかもしれない。


 そのまましばらく待っていると、門の外、都市の郊外の方から馬が走る音が聞こえてきた。馬に乗るは白銀の鎧をつけた騎士。鎧には黒い十字架があしらわれている。騎士様のお通りだ! というわけなのかな?


 ――――いや違う。馬は『何か』を引いている。その『何か』は引きづられ、既にボロきれのようになっていた。


 そして、馬は何食わぬ顔であたしの前を通り過ぎて行く。それはすなわち、『何か』もあたしの目の前を通るというわけで……


「――――――――――――――――っ!」


『何か』、いや、息絶えボロボロになった女性の亡骸と目が合ってしまう。あたしは反射的に目を逸らした。これがきっと『見せしめ』なんだろう。


 通りすぎていった馬が見えなくなった後、あたしはとなりにいたNPCに聞く。


「今のはなんなんですか?」


「これを見るのは始めてかい? 異端審問で魔女とされた人が、見せしめ引き回されているんだよ。これから中央の広場で火炙りの刑が始まるのさ」


 え? この世界魔女狩りがあるの? 初めて聞いたよそんなこと!


 でも、それにしては人々の盛り上がりが足りない。むしろ、テンションが低すぎるような……いや、あたしからしてみたら、それで全然いいんだけどね!


 そんな疑問をぶつけると、NPCはため息をついた。


「いくら修道騎士でも、魔女を倒すのは難しい……。ああやって処刑されるのは、だいたいなんの罪もない人なんだ」


 あの騎士は修道騎士って呼ぶのかな? 確かに、ここには魔法が存在するから、魔女は本当に魔法を使う。あったことないけど、多分使うよね? それがこんな影響を与えているなんて。


「最近は、神聖術を使える異邦人の聖職者が、本当に魔女を倒した、なんて噂もあるから分からないけどな」


 突然、彼と反対側にいたNPCが言ってくる。異邦人っていうのは、多分あたし達のこと。神聖術っていうのは、聖職者の使う技なんだろうけど……ちょっと引っかかる言い方をしてるなぁ。まるで、異邦人じゃない聖職者は神聖術を使えないみたいな。


 その言葉に対して、今まで話していたNPCは返す。


「あいつらが倒すと、魔女は跡形もなく消えちまうらしいぜ。もしかしたら、神聖術で倒すとそうなるのかもしれないけどな」


「まぁ、そこはこの国の聖職者が神聖術を使えるようにならんと分かんねぇや」


「そうなんですか。教えてくれてありがとうございます」


 あたしは、そう言ってその場から立ち去り、元通りになった道を進む。


 あの二人の話を聞いた限り、この国の聖職者は神聖術を使えないらしい。それなら、魔女狩りあるのも、まぁ分からないことじゃないよね。


 でも、自分がその被害に遭うのは絶対に嫌だ。一目で、つまりキャラクター頭上表示を見ることが出来ないNPCに、魔法使いだと見抜かれるような装備は控えないと。あたしは心に決めて、このことから一旦離れることにする。


 人の邪魔にならないようにわき道に逸れてから、あたしはマップを開いた。


 柔らかい暖色系の壁が続く街並みは、本当にヨーロッパの都市へ来てしまったのでは、と錯覚してしまうほどの出来。だけど、街の広さ、そして複雑さもまた本物と遜色ないらしいのだ。言い換えるなら、初めてここに来たあたしが、どこかに行くにはマップ見ながらじゃなきゃ、絶対無理ってわけ。


 あたしは昨日調べた、魔導書があるという場所の座標を思い出す。うわ、ここからかなり遠いじゃん。しかもかなり迂廻していかないと行けないみたい……。


 面倒だけど、1から探す方がずっと面倒だからね……頑張って歩こう。


 決意ともにわき道を歩き始めた、その瞬間。


『トリガーイベント<人無き伝言>発生』


 え? また……またなの? あたしは何が起こるのかと身構える。けれど、何も起こらない。


 いや、起きてた。でも、これは……。


 これはイベント。イベント戦闘というのは存在するかもしれないけれど、基本的にはこちらから何かする必要はないはずだよね。


 でも、今のあたしのUIユーザーインターフェイスには『9:58』と書かれている。これは何かを10分以内に――もう後9分50秒だけれど――やらなくちゃいけないってことなのかな? いやでも、何も起こってないし……。

 

 とりあえずそこらへんのNPCに聞いてみようか。


「あの~すみません」


 あたしが軽い感じで話しかけると、それに見合った気安い感じでNPCはこう答えた。


「北の図書館の魔女に会え」


 えーと、なにかな、これ。とりあえずあたしは聞き返してみる。


「あの、どうかされましたか?」


 NPCは、何も変なこと言ってないと思うんだけどな、と言いたげに首を傾げてこう答える。


「北の図書館の魔女に会え」


「ありがとうございました!」


 何事もないかのようにお礼をいい、NPCの声が聞こえる範囲から離れて、他のNPCを探す。今度はアイテム屋の店員に話しかけてみた。


「すみませ~ん、お邪魔します」


 アイテム屋の店員は、とてもいい笑顔で返してくれる。


「北の図書館の魔女に会え」


「失礼しました!」


 落ち着けあたし。これは多分イベントの効果だ。1回大通りに出て、他のプレイヤーの反応を見よう。


 深呼吸をして、冷静に考えたその後に、あたしは大通りに足を向ける。


 それが、一番の悪手だったのだけれど。


 大通りに近づくにつれ、街の喧騒も大きくなってきた。でも、その喧騒もおかしい。


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「もういいよ! そこに行くから! もうやめて!!」


 叫んでも人々は、こちらを気味悪そうに見て、「北の図書館の魔女に会え」と言うばかり。


 まさかこれが10分間も、後7分も続くって言うの…………?


 耐えられるわけがなかった。あたしはメニューを開き、一も二も無くゲームを終了。

 

「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会え」


「北の図書館の魔女に会――――」


 ゲームから離れる最後の瞬間まで、その言葉は響き続ける。こんなにゲームの終了までが長く感じることは、きっと二度とないと思う。


 そう、思いたかった。

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