なにより時間がなさすぎる!
図書館に入ってから、数日がたった。
ダンジョン攻略はいたって順調。敵はそこまで強くなってないし、安全地帯も1回目と同じ方法で探せてる。珍しく、ホントに順――――
「おい! 何やってんだ! 早く逃げるぞ!」
「ごめんなさいごめんなさい! 待ってくださいよ!」
「自業自得なんだからな!? 待ってとか言う前に早く追いつこうとしろ!」
「ごめんなさいってば!」
あたしが本を読んだために、安全地帯の中に呼び出されたモンスターから、必死に逃げる。この中なら絶対大丈夫だと思ったのに! 出てくるだけ出てきて、こっちは攻撃出来ないなんてなしだよ!
システム上出せる最高スピードでモンスターを振り切り、階段を駆け上がる。地上であたしを迎えた、苦笑いのブレンネさんと白い目のイコールさんから目を逸らし、ボロボロの法衣を着たモンスターを迎撃しようと、階段から出てくるのを待つ。……あれ? 出てこない。
「どうやら、大きすぎて出てこれないようだな」
ブレンネさんはため息をつく。そう、敵が出てこれないっていうのは、全然いい事じゃない。あたし達がここに入れないっていうのと、同じ意味なんだから。
「本当にごめんなさい……」
あたしは素直に頭を下げる。それしか出来ない。
そんなあたしに、イコールさんは大きなため息をついて言う。
「やっちまったことはどうしようもないからな。ただ3度目はねぇぞ」
「そうだな、こうしているより次の安全地帯を探した方がいい」
ブレンネさんもそう言ってくれた。正直まだ申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、自業自得のことで落ち込んでたら、また2人に迷惑かけちゃうね。
「分かりました……でも、ごめんなさい」
あたしはもう1度そう言って、歩き出した2人を追いかけた。
現在時刻は午後11時。早めに安全地帯に入っていたから、まだ時間には余裕がある。落ち着いて行くべきだね。
本棚の谷を歩きながら、あたしが小さく深呼吸していると、イコールさんがブレンネさんに「聞きたいことがあるんだが」と問いかけた。
「今俺達がどこまで来たかって、分かるか?」
「正確な位置は分からないが、多分もうかなり深いところまで来ているはずだ。明日、明後日中には最深部へ辿り着けるだろう」
「ボス部……じゃなくて管理の魔女様がいる部屋の前に安全地帯は?」
ボスって言った瞬間ブレンネさんの顔が怖くなった。あたしほどじゃないけど、イコールさんも迂闊だよ。
「ある。魔女様が一筋縄でいくわけがないから、何度も戻ることになるだろう」
「え? 戻れるのですか?」
それなら、少しずつHPを減らして行けば、誰にでも倒すことが出来てしまうけど……。
「私が戻って帰って来ているのだから当然じゃないか。大型モンスターが出現する場所とは違うのだぞ?」
違うのかぁ。そう言ってみれば、今回のクエストを受けるときも、ブレンネさんは「管理の魔女様を助けてくれ。無理なら、倒してくれ」って言ってたような。
もしかして、倒せば精神までモンスター化してるのが治るってわけじゃない?
一体どうしろって言うんだろう? ブレンネさんに再度質問しようとした時、邪魔が入る。
法衣を着た木偶人形と、ガーゴイルが目の前に出現。イコールさんとブレンネさんは互いに目配せして走っていってしまう。
時間もないし、今回だけはあたしもモブ戦に参加していいよね? あたしはイコールさんから1番離れたところにいる木偶人形に向かって魔法を放つ。
《雷力開放!》
呪文を唱えた瞬間に雷撃が敵を撃つ。敵のHPを半分削り、しかも麻痺がついた。周りの敵を片付けたイコールさんがその敵に向かったので、次はブレンネさんの方を――――
「こっちはもう片付く! イコールくんの方の援護をしてくれ」
「分かりました!」
イコールさんの方に向き直り、戦闘の邪魔にならないように魔法を使う。
《雷力開放!》
《炎力開放!》
《聖力開放!》
イコールさんを遠巻きに狙っていたモンスター達を倒し終わった時には、全てのモンスターがいなくなっていた。
「悪いな、助かったぜ」
「正直、余計なお世話だった気がしなくもないです」
「いやいや、お前のおかげ早く倒し終わったのは事実だぜ」
そう言って、彼はイコールさんの方を向く。
「モンスターが出てきたってことは、この近くに安全地帯があるんじゃねぇか?」
「そうだな、探してみようか」
あたし達は少し散らばって書棚から本を引き抜く。あたしは1番奥側。かなり鎖が長いなぁ。結構ここから遠いのかな?
あたしは本を胸に抱いて、奥へ奥へと走る。今いる通りを角まで行って、続く道を見ると、その先は行き止まり。
周りに気をつけながら、鎖を引きずり歩く。まだまだ長さに余裕があるから、安全地帯はこっちじゃなかったみたい。
でも、一応奥まで見ておこうかな。そう思って歩を進める。そしたら、大きな発見があった。
奥の本棚と、左の本棚の間。そこに、本棚のない、普通の通路があったのである。
「一応、手前に戻って調べてみたが、先程までいた安全地帯に戻ってしまったな」
ブレンネさんの言葉を受けて、あたしも通路を指さす。
「こっちには安全地帯がなくて、かわりにこれです」
勝手なことして酷い目にあったので、あたしは2人を呼びに戻って、それからここにみんなで来た。今は日付がかわる30分前。そろそろ急がなきゃいけない時間かも。
「ここは見覚えのある場所か?」
ブレンネさんに質問するイコールさんも少し焦り口調。12時こえたらあたしとブレンネさんは最初のPOP場所に戻るけど、イコールさんはここに1人取り残されるんだもん。
そうなったらあたしのせい。だから、絶対そんなことにはならないようにしたいけれど……。
「ここ自体に見覚えはないが、壁のデザインが管理の魔女様がいた場所に似ている……。そこに繋がっているのかもしれないな」
「その前に安全地帯があるんだろ? じゃあ行くしかねぇな」
ちょっと焦りすぎだと思うけど……正論だよね。あたしにはとめられない。
ブレンネさんも乗り気じゃない顔をしている。でも反論は出てこなそうだ。
「さ、行こうぜ」
あたし達に背中を向けて、イコールさんは通路をスタスタと歩き出す。はぐれないように追いつくけど……やっぱり不安だよ。自分の意見じゃないからかなぁ?
予想以上に長い通路を数分間歩き続ける。いくつかドアを見かけたけど、どれも鍵がかかっていて開かない。実質的には1本道のこの通路。やっぱり不安だよ。
「イコールさん、具体的な根拠はないんですけど……。なんかこのまま進んじゃいけない気がするのです」
「俺も同じ意見だ。が、何かしらの方法でログアウトできれば、今日のスタート地点に戻れるんだぜ? それなら前に進んでおくべきだろ」
「確かにそのとおりですね!」
イコールさんは焦っていてもきちんと考える人だった。あたしなんかとは全然違うね。
と、そこで、ブレンネさんが口を開く。
「あーそうか、私のあの魔法をイコール君はそういうものだと思っていたのか」
その顔はこころなしか青い。
「私の魔法は1度しか効果がなくてな……。永続的に留まれる場所を作るものではないのだ」
「「つまり?」」
「イコール君はあの村へ、私とソウ君はモンスターとして出現する場所に戻ることになる」
「「嘘でしょ(だろ)!?」」
ブレンネさんになにか言ってる暇も、歩いてる暇もない! 一刻も早く安全地帯にたどり着かないと! あたし達は通路の出口の扉に向かって、全速力で走る。
走った勢いのまま扉を蹴破り、円形の大きな部屋に入る。天井はドームになっていて、美しい彫刻が彫られていた。
「ここが……安全地帯?」
「いや、違う。しかし……まさかな」
なにがまさかなの? と疑問に思った瞬間に、あたし達が入ってきた扉が閉まる重苦しい音を聞いて、ブレンネさんが何を察したのかに気付いた。
「ボス部屋は、ボスを倒すまで出られないんだよな……」
目の前には、あのボロボロの法衣の男より更に巨大な人型モンスターが、宙に浮いている。さしづめ、ラスボス前の大ボス戦ってところかな?
でも、そこが1番まずいわけじゃない。
「これを後、20分で?」
そう、あたし達に残された時間はたったの20分しかないのだ。
絶体絶命にも、程がある。




