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剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!  作者: 書き手さん
剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!
16/30

アタシの出来心で本を汚すなんてもうどう悔やめばいいのか分からない……

サブタイトルは間違っておりません。

 ギィイイイイ


 図書館の扉が、その見た目通りの重い音をたてて開いていく。少しかび臭いようで、どこか懐かしい古書の匂いが建物の中から溢れ出てくる。


「わぁ……すごい!」


 ずらりと並ぶ、人の背丈の2倍3倍はありそうな本棚。本がぎっしり埋まったそれは、平面的に並べられているだけではなく、遥か高くにある天井に付きそうなほど上と並べられている。あの本棚を調べるには、脇の細い通路へ上がる階段を探さないといけないのかな。


「なんだこれ、ブックカバーに鎖がついてるぞ?」


 本棚の近くでイコールさんが言う。全ての本から、長い長い鎖が垂れている。


「一昔前まで『教会』の連中が使っていた、本の盗難防止策だ。しかも、鎖に何らかの術がかかっているらしく、前に試した時は切ることが出来なかった」


 この盗難防止策は、現実でも中世に行われていた。そして今でも鎖付図書館は存在するはずだけど、こんな規模のは、もちろん現存してないだろうし、当時だってあったかどうか……。

 

「本当にここはダンジョンなんですか?」


「『教会』の奴らが作ったことを差し引いても、嘘だったらいいと思うぐらいに素晴らしい図書館だが……残念ながら本当にダンジョンだ」


 ブレンネさんが言うには、モンスターが出るだけじゃなくて、本棚の三次元迷路になっているらしい。本当に今日中の踏破なんて出来るのかな?


「私が確認していなかっただけで、各所に安全地帯が用意されてるはずだ。そこになら私の魔法で留まれる」


 モンスター化によるログイン場所固定を考えなくていいのは、やっぱり大きいなぁ。プレイヤーもそういう魔法を覚えられるのかな?


「なら今日はとりあえず、安全地帯まで辿り着かないとな。そろそろ出発しようぜ?」


 イコールさんの言葉に頷いて、あたし達は広い館内を歩き出した。



 中ボス、とまではいかなくても強力なモンスターや範囲魔法が必要なほど大量の敵が出てくるまではあたしを温存し、基本的にはイコールさんとブレンネさんが戦うことになった。正しい選択だと思うけど、ちょっと申し訳ない気分。


 今も数体のモンスターを相手に、2人は剣と爪を振るっている。


「前の戦いの時も思ったが……やはり筋がいいな。通常攻撃にセンスが現れている」


 聖職者の格好をした木偶人形を相手しながら、ブレンネさんが言う。


「なんの皮肉だ? 俺はお前の半分も倒せてねぇんだぞ? 本当に弱体化してるのか疑わしいレベルだぜ?」


 降り下ろされた杖を剣で受け、弾き飛ばすイコールさん。


 皮肉に聞こえるくらい強いのは確かだった。ここまで無傷どころか、イコールさんの窮地を何度か救っているもん。


 そんなブレンネさんは「皮肉じゃないさ」と笑う。


「経験はもちろん私の方が多い。弱体化したぐらいで、若者に遅れを取る訳にはいかないのだよ」


 赤い闘志をまとったブレンネさんが、2体の敵を1度に撃破する。


「ただ君には才能がある。弟子にとって直々に育てたいくらいだ」


「考えてやるよ。このダンジョンを攻略したら、な!」


 イコールさんも技を発動し、相手どる敵に2本の青い斬線が刻まれる。HPが一瞬にして消え去り、不気味な人形は光の粒子に変わった。


「なんというか2人とも余裕ですね……」


 ここまでずっとこんな戦いぶり。見ていてまったく不安を感じないもん。


「単調な攻撃パターンの敵ばかりだからな。とりあえずのところ、楽勝だぜ?」


「進む道も私が先行して見に行っているからペースは悪くないんだろうが、問題は安全地帯が見当たらないことだ」


「もう2時間くらい歩いてますよね? そろそろ見つかってもおかしくないと思うのですが……」


 時刻はそろそろ23時。あと1時間で見つけないと、今日やったことがパーになっちゃう。


「ソウ、図書館で安全地帯っていったら、何が思い浮かぶ?」


「難しい質問ですね……」


 あたしにとっては、図書館全体が安全地帯のようなものなのだけれど……。それじゃあ答えにならない。


「強いて言うなら、閲覧ゾーン? 今まで椅子と机をみていませんし」


「たしかに、書棚が続いてるだけの図書館というのはそうないな。閲覧室のようなものがあると考えるのが妥当だ」


「じゃあ閲覧室が安全地帯として、どうさがせばいいんだ? 館内表示なんて見当たらねぇぞ?」


 あたし達は再び首をひねる。そもそも鎖付図書があるとこって、書棚の近くに本を読む場所があるはずなんだけどなぁ。そうじゃないと鎖が届かないし。


 鎖が届かない? あたしは書棚の下に巻かれた長い鎖を見る。逆に言えば、鎖が届く範囲に閲覧室があるってことなんじゃ……。


「ブレンネさん、ここをまっすぐ行ったところから本を取り出して、鎖の長さを確認してください。イコールさんはあっちのを!」


 あたしのやりたいことを察したブレンネさんと、不思議そうな顔をしたイコールさんがそれぞれ駆け出す。あたしも近くにあった本をぬき、ブレンネさんのいる方へ、鎖を引きずり歩く。


 ブレンネさんと合流したところで、お互いの鎖の長さを確認。あたしのはほとんど余裕がないけれど、ブレンネさんの方はまだまだ長さが余っている。


「もっとあちらのようだな」


 あたしは頷く。イコールさんはもう限界まで鎖を引ききったようで、不思議そうな顔のまま立ち尽くしていた。


 走ってイコールさんと合流。鎖はあたしのもブレンネさんのもまだ余っている。


「何をしたいんだ?」


「鎖付図書は本来、書棚についた書見台で読むものです。でもここにそれは存在しません」


「立ち読みするにはこの本は重すぎる。別に本を読む場所があるのなら、そこまで届くような鎖の長さになっているはずだ」


 ちょうどみんなの余った鎖の長さが同じくらいになる場所にたどり着く。


「あぁ! だから、何ヵ所かから本を引っ張ってくれば、閲覧室の大体の場所が分かるってわけか! よく思いついたな!」


 辺りをよく見ると、持ち手のように欠けた部分のある床板があった。本を置いて床板を持ち上げると、階段が現れる。


 一応、周囲に気を付けながら階段を降りる。するとそこには閲覧台と椅子が並んだ空間が。うん、閲覧室で間違いないね。


「剣が抜けねぇ。お前の予想通り、閲覧室が安全地帯っぽいな」


 イコールさんの言葉を聞いて、あたしはぺたんと座り込んでしまった。閲覧室が安全地帯って言うのはあたしの勘だし、このゲームなら「それらしく見せかけたけど、実は罠でした!」とか、十分ありそうだもん。


「安全地帯を探す手段が見つかったのは大きいな。今日はここで休むことにしよう」


 ブレンネさんが早口になにか唱えると『ログイン場所が変更されました』と、ダイアログが現れた。


 今日は早めにログアウトするか……と思ったけれど、そう言ってみれば試してないことがあった。2人に「ちょっと外へ出てきます」と言って階段を駆けあがる。


「おい、ちょっと待てって」


 地上に出たところで、後ろからイコールさんに呼び止められる。


「遠くには行かないですよ?」


「お前が急になにか思い立ってやると、なにか悪いことが起こる気がした」


「酷い言いようですね! たしかにモンスター化トラップに掛かった時は、思い立っての行動でしたけど!」


「分かってんじゃねぇか」とイコールさんはあたしの前に。でも、その時だけだし! いつもそうなわけじゃあない。


「で、何をしようと思い立ったんだ?」


「この本、読めるのかなぁと思いまして」


 イコールさんは、なるほどなるほどと言う感じにこくこくと頷き、それからあたしを見据えて言う。


「お前はバカなのか? 運営に読めないって言われたんだろ?」


「バカじゃないです! ほ、ほら、こういう特殊な環境ならもしかしたら読めるかもしれないじゃないですか!」


「お前、絶対忘れてただろ……っておい! 無理だって!」


 イコールさんの制止を振り切り、あたしは書棚から1冊本を取り出して、開く。


 読める! 恥ずかしまぎれに開いてみたけど、読めるじゃん!


 イコールさんに目一杯のドヤ顔をしてやろうと振り向く。するとそこには、少々の驚きと、大量の呆れや脱力感が入り交じった顔のイコールさんがあたしの後方、頭の上を見ていた。


 それとほぼ同時に『戦闘中に本を読むことは出来ません』というダイアログが出現。あたしはゆっくり背後へと目を向ける。


 そこには、巨大な鉄槌を持つ、ボロボロの法衣の男がいた。つまり、今ここにあの洞窟に現れたボスがいる。


「お前、これから思いつきで行動するのは禁止な」


 あたしにはガクガクと首を振ることしか出来なかった。



 1度倒した敵だし、今のあたしは好き放題魔法を使えるし、今回は弱点の火属性の魔法が禁止されてなかったからすぐに倒してしまった。イコールさんは度肝を抜かれてたけど。


「……イコールさん、1度倒したらもうでてこないとか、あり得ると思いますか」


 イコールさんはガクッと体勢を崩す。そんな変なこと言ったかな?


「まだ懲りて無いのかよ! ……懲りて無さそうだな。これを見てもまだやる気になるならやってみればいいんじゃねぇか?」


 イコールさんの指差す先には、焼けてこそいないものの、煤で汚れた本の背表紙が。


「あぁあああぁああ!? 本の背表紙が汚れちゃってる!」


「まぁ、本を読みたかったら早くここをクリアして状態異常を治せってことだな。…………そんなマジ泣きするなって」


 イコールさんになぐさめられながら、あたしは今後本に気を付けながら魔法を使うことを心に決めた。

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