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剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!  作者: 書き手さん
剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!
15/30

図書館の中がダンジョンなんて嫌すぎる!

 ログイン時の白い光が、視界から消え去り、落ち着いた色の天井に移り変わる。ブレンネさんの家の客室のベッドに

、あたしは寝そべっていた。


 死神のようなモンスターを倒した後、あたし達はそれぞれ別の客室に通された。そこに置いてあった、つまりこのベッドがあまりにも柔らかそうだったから、回線が切れる直前まで寝そべっていたんだよね。


 ログアウトした時の状況が、ここまで再現されるんだ……。

 上の空で考えていると、部屋のドアがドンドンと、乱暴にノックされる。


「開けるぞ!」


 あたしが答える前に扉は開かれた。デリカシーの欠片もない! そう抗議する前にイコールさんはまくし立てる。


「待ちくたびれたぜ。北の図書館に向かうぞ」


「え? あ、うん分かった」


 迫力に押されて抗議出来なかった!


 うぅ、言う機会を逃しちゃった気がするよ。まぁあたしが待たせていたみたいだし、ここは見逃してあげよう。

 

 あたしがベッドから起き上がるのを見届けずに、イコールさんは部屋の外へと走り出す。


「待って!」と、言っても聞きやしない。ちょっと急ぎすぎじゃない?


 イコールさんを追って、ブレンネさん宅を出たあたしは村の中を駆けていく。すれ違う人々から、昨日のような訝しむ目線を感じられない。


 どうしてだろう、と首をかしげたところをちょうどイコールさんが振り返って見た。


 彼は足を止めずに答える。


「ここの人達は昨日のモンスターに、大分悩まされてたらしくてな。あの男が倒すのに貢献してくれたって話したら、ころっと評価を変えやがった」


 どうやらあの死神を倒したことは、あたし達にとってかなりいい方向にころんだみたい。

 でも、それならここを急いで出る理由はどこに?


「じゃあ、なんでこんなに急いでるの?」


「一番の理由はお前だよ。ダンジョン1つ攻略しなきゃならないんだぜ? 時間が限られてるなら、急ぐしかないだろ」


「ダンジョン?」


 何の話かさっぱり分からない。あたし達がこれから向かう場所って、図書館でしょ?


 聞こえなかったのか、無視されたのか。イコールさんは答えずに走り続ける。まぁいいや、行く途中で聞かせてもらおう。


 村の出口が見えてきた。その近くにはブレンネさん――だけどブレンネさんじゃなくて、大きな白い山犬がいる。


 今は戦闘状態じゃないから、ブレンネさんはわざわざモンスターになってるってことだよね?


 なんで? と疑問に思う前に、イコールさんがその背に飛び乗った。なるほど、モンスター状態でなら、あたし達を乗せて移動できるってわけね。


 イコールさんがあたしの伸ばした手を握り、引き上げてくれる。白いふかふかの毛が気持ちいい。何時間乗ってても疲れなさそう。


 山犬の切れ長の瞳が、ちらりとあたし達をみる。あたしがきちんとまたがったのを確認して、山犬は走りだした。


 スピードだけなら、グリフィンにも勝るほど速い! 図書館は村の近くはずだから、すぐに着いてしまいそう。いやでも、目的地はどこかのダンジョンなのかな?


「イコールさん、さっきダンジョンを攻略しなきゃって言ってましたが、どういうことですか? 管理の魔女さんを助けに図書館に行くべきだと思うのですが?」


 あたしの前に座る彼は、手をヒラヒラと振って答える。


「別にその2つは相反することじゃねぇだろ?」


 あたしはその言葉に数秒間首を傾げ、そして驚きの答えに達する。


「え!? もしかして図書館の中がダンジョンなんですか!?」


 耳を手で覆いながら、イコールさんはこくこくと頷く。


「そうだが、そんなに驚くことじゃねぇだろ」


「本が置かれ、本を読むためにある神聖な場所を、モンスターが跋扈するダンジョンにしてしまうなんて許せません! 運営に文句を言わないと!」


「……いや、お前が運営に言わなきゃならないことは、それ以外にたくさんあるとおもうぞ?」


 わざわざ振り向いて「1度冷静になれよ」と、呆れ顔で言ってくるイコールさん。


 あたしは深呼吸をする。酷い状態にあるなら、まず自分でどうにかしようと思わなきゃ。他人に頼るのはその後!


「落ち着いたよ! もう大丈夫」


「本当に大丈夫か……? まぁいいけどよ」


 そう言って、前に向き直ったイコールさんに、あたしはさらなる疑問をぶつける。


「でも、1度ブレンネさんが魔女さんのところまで行っているんですよね? ルートが分かっていれば、そこまで時間はかからないと思うのですが」


「前回は機動力に任せて大幅にショートカットしたらしい。ほとんど参考にならないだろうな」


「え? 機動力に任せて? ということは、もしかしてブレンネさん本棚を踏み越えたり、本に爪をたてたりしてたん――」


 話している最中に突如、まるで首を振るかのように山犬の体が揺れる。振り落されそうになって、思わずイコールさんの体をぎゅっとしてしまった。


「んなぁ!?」


 イコールさんが変な声を上げた。あたしはすぐに手を離す。


「ごめんなさい。苦しくなかったですか?」


「……ダイジョウブダ。ゼンゼンクルシクハナカッタゼ」


「本当に大丈夫ですか?」


 日本語がうまく言えてないように聞こえるんだけど……。


 こちらに顔を見せないまま、イコールさんはコホンと咳払い。


「まぁとにかくだ。あれだけ体を振って否定してるんだから、お前が懸念するようなことは一切ないと思うぜ」


 何事もないかのように話を戻してきた。片言だったのも治ってるし、大丈夫そうではあるけれど。


「そうですよね。ブレンネさんがそんなこと、するわけないですよね」


 一瞬、山犬の体がビクッと痙攣したような。気のせいだよね?


 うーんでも、図書館の中がダンジョンかぁ。どういう経緯でなったんだろう? そしてその本は読むことが出来るのかな? 確認することは出来ないけど、すごく気になる。


 首をひねって下げていた目線を、イコールさんに意見を聞いてみようと上げた時、ついに目的地が目に入る。


 遠くからみただけで、かなりの大きさの建物だって分かる。図書館というより、巨大な教会のようだ。


「思ったより早くに着きそうだな。先にこれを渡しておくぜ」


 数日前のように、『equalからプレゼントが届きました。受けとりますか?』とポップアップが出てくる。


「え? すごい……」


 渡されたものの内容は、前と同じ回復アイテムの合成素材。ただ量も質も違う。特にMP回復アイテムの合成素材は、前回の数倍の量があるだけじゃなくて、wikiでしか見たことのない高ランクものまである。思わず声が出るくらい豪華だ。


「こんな量いったいどうやって?」


「村の人達がくれたんだよ。餞別にな。あの村、今の状態になる前は回復アイテム、特にMP回復アイテムの合成素材の生産地だったらしい」


「もしかして、ここが王都から切り離された理由ってそれなのでは……」


「ゲームが始まる前の話だからなんとも言えねぇけどな。それよりは、あの建物のすぐ近くにあるからってほうがありえるんじゃないか?」


「たしかにその通りですね」


 魔導書が大量に保管された図書館に行けないように、あるいはMP回復アイテムが手に入りにくくなるように。どちらにしろ魔法使いに不利なもの。


 アスミさん達じゃないけれど、このクエストが、ムカつく『教会』に一矢報いれるものにならないかなぁと思いながら、あたしは山犬に揺られるのだった。

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