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剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!  作者: 書き手さん
剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!
14/30

珍しい状態異常だからってこんなことが出来るのはダメすぎる!

 モンスターが出現したのは、あたし達が入ってきたのと反対側の出入口。既に兵士が戦い始めているけれど……戦況は芳しくなさそう。


 ボロきれをまとった幽霊に翻弄される兵士を見て、ブレンネさんが言う。


「加勢するぞ」


 声が届いた瞬間、彼の姿がぶれた。


 彼がいた場所には、白い毛の、まるで不気味な土面を被った少女が乗っていそうな、大きな山犬がいる。


 山犬は「ワオォオオオオン」と遠吠えして、兵士の前に飛んだ。その爪の一振りで、その牙の一噛みで、幽霊は悲壮な声を上げ消滅していく。


 加勢する必要を感じさせない無双っぷり。あたしは一応イコールさんに聞く。


「あの山犬……ブレンネさんだよね?」


「どう考えてもそうだろ。あれはブレンネさんだ! って気合を入れて見てみろ」


 言われたとおり、あれはブレンネさんだあれはブレンネさんだ……と思いながら山犬を見てみる。すると確かにブレンネさんとして見える。爪が鋭くなっていたり、長い牙が生えていたりしてるけど。


「もしかして、今のあたしも気合を入れないと、汚いお婆さんに見えるの?」


 イコールさんは間を置かずに口を開いて、そのまま止まる。多分なんの考えもなしに発言しようとしたんだと思う。


 数秒たって、彼は言いづらそうに、あさっての方向を見る。


「まぁ、そういうことになるか、な?」


「………………」


 そう見えるんだね、やっぱり……。この状態異常を早く直さなきゃいけない理由が、また1つ増えてしまった。


「それよりもだ! これで「今の私」じゃ太刀打ち出来ない理由は分かったな!」


 あたしの沈黙に耐えかねたイコールさんが、大声で空気をかき消しにかかる。


「どういうことですか?」


「モンスターとしてのあいつは山犬。だから魔法が使えなくなって、弱くなった。ってことを言いたい

わけだ」


「なるほど……でも、あの動きですよ? 少なくとも物理攻撃は今のほうが強いと思うのですが」


 戦うブレンネさんを見て、あたしは言う。


「お前みたいな魔法の使うなら、わざわざ「攻撃補助の魔法」なんて言わないと思うぜ? 多分、俺らがまだ知らない、物理攻撃系の魔法使いだったんだろうな」


 物理攻撃と魔法って、相反する言葉だよね? あ、でもこれがある。


「魔導騎士……とか?」


「そんなところだろうな」


 そう言って、彼は前線へと向かってしまった。

 話をぶつ切りにしていくなんて! と思ったけど、周囲を見回せば、戦闘に参加しないあたしを訝しげに兵士が見ている。これは仕方ない状況だね……。


 あたしは視線に気付かない振りをして、呪文の詠唱を始めることにした。



 あたし達が戦闘に参加して数分後、あっという間に幽霊を倒しきり、戦闘状態が終わる。


 あたしを睨んでいた兵士達も、ホッとした表情を浮かべている。なのに、人間の姿に戻ったブレンネさんは怖い顔を浮かべたまま。


「どうしたんですか?」


 あたしが話しかけた一瞬後、少しだけ表情を柔らかくしたブレンネさんは答える。


「いつも現れる、ひときわ大きなモンスターが見当たらなくてね。どうしたんだろうかと思っていたんだ」


「まさか陽動か!?」


 あたしの後ろで話を聞いていたイコールさんが、村を囲う柵に沿って走っていってしまった。


 この幽霊達を囮にして、その大型モンスターは他のとこから攻めてくるってこと? 考えづらいけど、いつもいるのに今日だけいないっていうのは、確かにおかしい。


 それに、メタな話になっちゃうけど、ここにいたモンスターを倒したのに、ミッション完了のポップアップが出てない。これはつまり、まだ倒すべき敵がいるってことじゃない?


 あたしはブレンネさんの方を見る。


「あたしもイコールさんを追います!」


 そう言って、走り出────そうとしたら、腕を捕まれた。


「待て、私も行こう」


 そう言うと、ブレンネさんは兵士達に、このまま村に戻り、異常がないか確認するよう指示して、あたしを見る。


 決断が早い! 魔女様と比べて、自分は全然みたいなことを言っていたけれど、やっぱりこの人もすごい人なんだろうなぁ。


 そんなことを考えながら、あたしは頷いて、イコールさんが向かったのと逆方向に走り出した。



 村の外周を、多分4分の1ぐらい走ったところで、大きなモンスターが目に入った。ぼろきれのような服を着ているのは、さっきまでのモンスターと同じだけど、こちらは死神の大鎌(デスサイズ)を構えている。見ているだけで、魂を吸いとられてしまいそうな綺麗な刃。死神ってところかな? 今までのとは格が違う。


 その後方には、走ってこちらにやってくるイコールさんが見えた。こいつは1人で相手でできるモンスターじゃない。いちかばちかで逆方向に走って良かった。


  ある程度近づいたところで、あたしは歩みをとめる。とりあえず情報が必要だよね?


情報開示(インフォル)


 相手のステータスや特性、弱点が目の前に表示される。ほとんどの状態異常が無効化されちゃうけど、氷属性のバインドだけは効くみたい。弱点も氷属性。変な特性はないし、知らせないとまずそうな技も…………あるじゃん!


 2人に向かって叫んで伝えようとして、でも死神が山犬に向かって、大鎌が降り下ろそうとしてるから、あたしはかわりに呪文を叫ぶ。


氷力束縛(グラキインクルシ)!》


 死神の足元から氷がわき出る。弱点だったからかモンスターは怯み、振り下ろし攻撃はキャンセルされた。ついでにバインドもつく。


 ここぞとばかりに攻め込もうとしている2人に、あたしは再度、叫ぶ。


「周りから見えなくなる技を使ってくるみたい! 気を付けて!!」


 多分、暗殺者のハイディングのモンスター版。隠れた後の1撃目は、見えない状態のまま攻撃してくるはずだから、かなり危険だ。


 出来ることなら使われる前に倒したい。あたしは、氷属性の魔法でダメージを与える前に、唱えておきたい魔法があったのを思い出す。


削力解放(アグレインクル)! 削力減少(アグレインクルシ)!》


 灰色のエフェクトと共に、敵のHPが1割以上減る。やっぱりHP削りは強い!


 モンスターが動けなくなったところで、死神のすぐそばに赤と青のエフェクトが発生。イコールさんとブレンネさんは、隙だらけの巨体へと、大技を叩き込んでいく。


 残り体力は7割くらい。あたしが今度こそ氷属性の魔法を放とうとした時に、死神が叫ぶ。


「キィイイイィイイィイイ!」


 ガラスを引っ掻いたような悲鳴が、辺りに響きわたる。反射的に耳を両手で塞いで、座り込んでしまった。音がやんで顔を上げた時には、モンスターはどこにもいなくなっていた。いや多分、見えなくなっている。


 そして、モンスターがもといた場所の近くで、うずくまる山犬。あたしは慌てて駆け寄る。


「ブレンネさん、大丈夫ですか!?」


 山犬の姿がぶれて、人間に戻る。


「先程の悲鳴のせいで、頭が割れるように痛い……」


 もしかして山犬になっているせいで、聴覚が良くなってるのかも。だから、音の攻撃には弱いんだ。


「いつもはどうしてんだ?」


 イコールさんの問いに、彼はゆっくり首を振る。


「1人でここまで体力を減らせたことはなくてな……。いつもは日が登り、あいつが消滅するまで、注意引き付けている」


 注意を引き付ける……?


 あたしが首を傾げた瞬間、イコールさんが青い顔をになる。


「冗談じゃねぇ! ソウ、出来るだけ範囲の広い魔法を村の方に撃てってくれ!」


「え? うん、いいけど?」


 あまりの焦りように驚きながら、あたしは呪文を唱える。


凍てつく大地(ゲリダテラ)


 凍てつく地面は前方へと広がっていく。そして柵の直前で、氷が何かに触れる。


 攻撃が当たったことによって、死神の姿があらわになる。なんであたしたちに攻撃してこないの?


「あいつの目的は村を攻めることなんだろ? だから隙があればあっちにいくはずだ」


 イコールさんは苦々しく吐き捨てて、移動できなくなっている死神へと走る。


 そうだ、なんにせよ敵が見えている間に攻撃しないと!


氷力解放(グラキインクル)!》


 氷のつぶてが敵を襲う。そのいくつかはヒットしてHPを減らし、避けられたものは村の柵に当たった。


 そして、当たった木の板は凍りつき、パリーンという音ともに、消滅してしまった。


「嘘でしょ!?」


 いやだから、いくらあたしがモンスターだからって、出来て良いことといけないことがあるよ! 絶対調整間違えてるって!


 村を破壊してしまうことが分かった以上、この位置からじゃ攻撃が出来ない!


 村側から迎え撃つ体勢をとろうと、柵に向かって走る。けれど、たどり着く前に、死神はまた見えなくなってしまった。頻度が高い!


「さっきのをもう1回」と言いたげにあたしを見るイコールさんに、あたしは勢いよく首を振る。


「あたしが魔法使ったら、村が壊れちゃう!」


「このままにしておいたら、モンスターに壊されるんだ。一緒だろ!」


「でもさ!」


 あたしは、あたしを訝しげに見る村人達を思い出す。あたしが柵を壊したなんて知られたら、ここを追い出されかねない!


 そんなことを思っている間に、早くも柵が崩れた。イコールさんが間に合う場所じゃない! あたしは魔法を撃つか迷う。


 と、その場所に向かって赤い彗星が飛ぶ。音攻撃から復活したブレンネさんが、ぼろきれの一部を引き裂いた。そして、モンスターから落ちる前に、鋭い牙で食らい付く。


 死神は一瞬姿を消したけれど、すぐに実体が現れる。もしかして、噛みついてる間はずっとダメージがあるの? それなら、もしかしてこの方法が使えるのかな?


 イコールさんに駆け寄り、あたしの考えた作戦を伝える。


「マジで言ってるのか?」


「あたしは本気だよ」


 イコールさんは嫌そうな顔をしたけれど、「それしかないな」と、最終的には折れてくれた。さぁ後はタイミングしだい!


 死神は腕を振って、ブレンネさんを払い落とす。瞬時に透明になったけど、焦っちゃダメだ。あたしはイコールさんの背後で待機する。


 まだかな? いや、そろそろ!


重力解放(グラウアグレ)!》


 モンスターが見えていないから、そもそも重くて動かせないから不発……とはならない。だってあたしが対象にしたのは


「うわぁあああああああ」


 叫び声をあげながら、柵に沿って飛ばされていくイコールさん! 叫びながらもきちんと剣を前に構えているから、実は余裕があるのかも。


 ズドンッと重い音をたて、イコールさんはなにもない場所でなにかと衝突。一瞬後に死神が現れる。うまくいった! でも、当然イコールさんのHPが一気に減ってしまう。それに、痛みのフィードバックはないけれど、かなり恐ろしい体験をさせてしまった。後で謝らないと。


 イコールさんはモンスターに振り落とされる前に、自分から退避する。敵の体に、深々と刺さる剣を残して!


 骨すらない死神の腕に、ブレンネさんが噛みつけていたからいけると思ったんだ! どんなに暴れても、簡単には抜けないだろうね。


 暴れていたモンスターは再び透明化しようとしたけれど、刺さった剣によるダメージですぐに姿が現れる。あたしはだめ押しとばかりに呪文を唱える。


重力解放(グラウアグレシ)!》


 対象は刺さっている剣。それは見えない力によって、死神の体に押し込まれていく。死神はそこで始めてあたしの方を見た。無表情だけれど、ターゲットをあたしに決めたに違いない。


 音もなく近づいてくるモンスター。魔法を使ったら村に向かってしまう方向だけど、もう関係ない。


 ブレンネさんの噛みつき、イコールさんの捨て身の一撃、そして刺さった剣による継続ダメージで、死神のHPは残り1割近くまで減っていた。そして、モンスターの後ろには、3度目の赤い闘志のようなエフェクトが見える。


「ブレンネさん!」


 一瞬巨大化したようにも見えたその爪が、体ごとぼろきれを引き裂いた。


 死神の消滅と共に、ミッションクリアのファンファーレが鳴り響く。


 やっと終わった。と息を吐いた時、新たなダイアログが目の前に生まれる。なになに『「モルティフェル・トレーデキム」がドロップしました』……?


 もしかして、レアドロ!? メニューからアイテムを確認すると、死神の持っていた大鎌と、同デザインのものが手元にあるみたい!


 喜び勇んでイコールさんに報告しようと駆け寄ったら、そんなことをいう前に、言わなきゃいけないことがあるのを思い出した。


「イコールさんごめんなさい」


 そう言うと、彼はさして怒った様子もなく首を振る。


「勝つためには仕方ないことだったからな。謝る必要はねぇよ。男ならあれくらい度胸で出来ないといけないんだぜ?」


 もしホントにそうなら、男もなかなか大変だ。あたしは思わず笑みがこぼれてしまった。


 それを見ていたブレンネさんが話しかけてくる。


「そうだな。ソウ君の機転、そしてイコール君の勇気があったからこそ、あのモンスターを倒すことが出来たのだと、私は思うぞ」


「そんなことないです」と、謙遜する前にブレンネさんは続ける。


「君達2人にお願いしたい。北の図書館にいる管理の魔女を助けてくれ。それが無理なら、倒してくれ」


 唐突なお願いとともに、『トリガークエスト<管理と解放>を受注しますか?』とポップアップが現れる。


「今の戦いを見て、君達になら出来ると確信したのだ。お願いできないだろうか?」


 あたし達は顔を見合わせ、頷き、『はい』の選択肢を押す。


「分かりました。引き受けます」


「俺たちに任せておけってところだな」


 そんな返答を聞いて、ブレンネさんは「本当にありがとう」と言う。


 でも、お礼を言いたいのはこっち。これでやっと、やっとモンスター化という名の状態異常と、お別れできるかもしれないんだから!

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