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剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!  作者: 書き手さん
剣と魔法のRPGなのに魔法が弱すぎる!
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必須クエストなのにボスが強すぎる!

「そんじゃあよろしく頼んだよ。魔法使い、さん?」


 パーティーメンバーの嘲るような口調にくすくすと笑う声が聴こえる。もう慣れっこではあるけどやっぱりムカっとくる。


 ここはVRMMO、Gladius&Magicusの中の世界。


 このゲームは『剣と魔法』っていう名前に反して魔法職の冷遇が酷い。汎用スキル、武器スキル、生産スキルが簡単に手に入るのと正反対。魔法スキルは覚えるのがとっても面倒なのだ。


「しっかしなんだっけ? 灯りの魔法? そんなちゃっちいスキルのために、何時間も本を読むなんてホントすげぇよな。ある意味尊敬だわ」


 そう、魔法スキルの修得方法は魔導書を読むこと。しかも1つの魔法を覚えるのに数冊読まなくちゃいけないこともある。その間に他のクラスは、新しいスキルを覚えて修練度を上げてを、三回くらい繰り返せるかな。だから、あたしのように魔法スキル中心のジョブを選択する人を情弱と嘲るのも、分からないことではないんだよね……。


 と、まぁまるであたしが、それを分かった上で魔法使いを選んだように聞こえるかも知れないけど、そんなことはない。弱職だなんて知らずに選んだだけ。


「ま、それでもこうやって役目はあるわけだし、いいんじゃない?」


 だから本当に何も返す言葉はないのだ。例え、どれだけムカつこうとも。


「そんなに言ってやるなよ。どの職をやろうと人の勝手だ」


 パーティーリーダーさんがそうなだめる。まともなことを言う人がいてよかった。


「……っと、もうこんな時間かよ。そろそろ行こうぜ」


 パーティーメンバーの人たちの掛け声につられて小さくおーと言ってあたしは洞窟へと向かうことになった。



 皆で移動して洞窟に入ると、すぐにパーティーリーダーが喋り出す。


「このクエストはただの採取クエストだ。明かりさえあれば楽勝なはずだぜ」


 彼があたしをちらりと見てきたのでこくこくと首肯し、魔法の灯を灯す。すると暖かい光が、ゴツゴツとした洞窟の岩肌を照らしだした。

 

 不遇職のあたしがパーティーに参加できた理由。それはこれから行くダンジョンが深い真っ暗な洞窟で、しかもランタンのような火を用いた照明器具を使うと、洞窟内のガスに引火して爆発してしまうのだけれど、魔法使いが使う灯りの魔法なら、爆発せず周囲を照らすことが出来るから。言うならあたしは照明係なのだ。

 

 というわけで、あたしはひたすら灯りの魔法に徹し、戦闘はパーティーメンバーに任せて進む。軽薄な口調の割りに3人ともしっかりとレベルとスキルの修練度を上げて来ているようで、足手まといが1人居ようとなんの問題もなさそう。


 順調に進んでいき、早くも洞窟の半ば辺りまで来たところでパーティーメンバーの1人が言ってくる。


「その魔法思ったより便利なんだね~」


 誰だよさっきちゃちい魔法呼ばわりしたやつ! いやまぁこの人じゃないけど!


「そんなことないと思うけど?」


「自在に灯りの位置を変えられるのは確かに便利そうだねぇ。これくらいなら魔法職じゃなくても覚えられたりしない?」


 確かこの人だったよね、ちゃっちいって言ったの。手のひら返しすぎじゃない?


「お前らなぁ……」


 パーティーリーダーさんは仲間の変わり身の速さにため息をついていた。


「魔法はMP効率がすっごく悪いんです。DPM(MP当たりのダメージ)はそれなり何ですけど単体攻撃がほとんどでオーバーキル気味。この灯りの魔法も結構MP使っちゃうんです」


 1人で何度もこのダンジョンに潜ったけど、途中でMPが枯渇してクリアは出来なかった。おかげで灯りの魔法の修練度はかなり上がったけれど。

 

 あたしの言葉を聞いて、はぁ~んとパーティーメンバーは納得したが、リーダーは首を傾げてあたしに言う。


「そこまで分析できてるならなんで魔法使いを続けてるんだ? キャラデータをリセットすればいいだろ?」


 どの職選んでもいいと言った上で、分かっているのに変えない理由を聞いてくるんだ。きっとこの人は真面目にゲームをやっているんだろう。不審そうに見てくる目に、あたしは苦笑を返す。


「気付いた時のはそれなりに育てちゃったあとなので。もう色々言われるのは諦めちゃいました」


「ここはまだ全然序盤だと思うけどな……」


 リーダーは納得できなかったようだけど、それでもこの時間は無駄だと思ったらしく、それ以上は何も聞いてこなかって。



「お、もしかしてここが終点か?」


 目の前は壁で、周囲にも先へ進む道は見えない。洞窟に入ってから30分も経たずに目的地へと到着できたみたいだね。


「よっしゃ! 早く採掘して帰ろうぜ」


 各々自分のアイテムバックからピッケルを取り出し、岩肌に突き立てたその時、目の前にポップアップが現れた。


『トリガーミッション<知識求めし者への鉄槌>発生』


「え?」


 気の抜けた声にかぶせるように、後ろの方からドッガァァァァンと言う音が響く。そして、振り向いたあたしたちは度肝を抜かれた。

 

 こんなダンジョンに明らか格の違う身長4mはありそうな人型モンスターがいたら、誰だって驚くよ!


「……おいおいなんだ? こんなのが出てくるなんて聞いてないぞ?」


 ボロボロの法衣を着た人型モンスター、マリウス・インスティトーリスを見上げながらパーティーリーダーが呟く。


「しかもなんでポップアップが出ないのぉ?」


 え? もしかしてこのポップアップってあたしにしか出てないの?

 あたしの頭が疑問で一杯になる前にパーティーリーダーが叫んだ。


「んなこと言ってる場合じゃねぇ!! 早く武器を構えろ!」


 そしてあたしは、と言うか多分あたしたちは初めての大型モンスターとの戦いに突入したのである。



 とりあえず情報を、と考えてショートカットから情報開示(インフォル)を発動する。行動パターンは見ることが出来ず、弱点は……火? 嘘でしょ!?


「ぼやっとしてるとやられるぞ!」


 見上げればあたしに向かって、尋常じゃない大きさの鉄槌が振り下ろされようとしている。慌ててステップで避けて、パーティーメンバーに叫んだ。


「こいつの弱点は火! ここじゃあ弱点をつけない! 1回逃げよう!」


「この緩慢な攻撃なら、弱点つけなくても避けながら削りきれる!」


「そうそう、全然倒せるってぇ!」


 嫌な予感しかしないけれど、みんなが言うなら仕方ない。確かに動きが遅いのは事実だし。……一撃でも当たったらHPバーが吹っ飛びそうだけど。


「うぉおおおおおおおおおお!」


 女のメンバーの弓攻撃に気を引かれていた敵に向かって、リーダーが跳んだ。空中で大きく剣を振りかぶって、兜割りのような攻撃を繰り出す。


 ドォオオオオン!


 衝撃が音となってほとばしった。

 

 その攻撃によって法衣の男は一瞬硬直。そこに男のパーティーメンバーが重い大きなバトルアックスを横に薙ぐ。ズドン! とおよそ刃が肉を切る音とは思えない音がなるともに敵の体勢が崩れた。


「魔法使い!」


「言われなくても!」と言い返す代わりに、あたしは呪文を詠唱する。


雷力解放(フルメインクル)!》


 男の頭の上にジジジと雷が生まれ、瞬く間に敵の脳天に刺さった。それと同時にボロボロの法衣を電流が這う。麻痺のエフェクトだ。敵が動けないというチャンスに、パーティーメンバー達は各々うなりを上げて得物を振るう。

 

 確かにこのまま行けばハメ殺せるかもしれない。でも、なぜか嫌な予感がするのだ。あたしのこういう予感って大抵当たるんだよね……。

 

 と、そこで掛かっていた麻痺が切れる。モンスターはおよそ人間とは思えない雄叫びを上げ、再び空中を跳んでいたリーダーは吹き飛ばされた。雄叫びを終えた法衣の亡霊は、黒いオーラをまとっている。


うん、どう見ても覚醒しちゃったね、これ。


 三文小説のように、無謀に突っ込んでいく人はいない。あたしたちはリーダーを起き上がらせ、四方から少しずつ距離を詰めた。


 けれどモンスターはそんなあたしたちを嘲笑うかのように視界から消える。


「どこに――――」


 どこに行った? ってあたしは言いたかった。なのに、いつの間にか岩の壁に全身を打ち付けている。


 男は鉄槌を引きずりながら、他のメンバーには目もくれずに、あたしへ向かって近付いてくる。


『知識求めし愚者に鉄槌を……』


 そんな呟きを聞いて理解した。こいつの狙いはあたし。だってここに、知識求めし愚者(魔法使い)はあたししかいないもん。


 だからみんなに向かって叫んだ。


「みんな先に逃げてて!」


 さっきの動きを見て、倒すのは無理だと判断したのだろう。3人は音も立てずに逃げていく。


 薄情とは思わない。あたしだって、彼らの立場なら同じことをするはず。


 よろけながら場所を移動し、さっき使った雷の魔法を連打。MPをほぼ使い果たすまでに、何回か攻撃を貰ってHPバーはレッドゾーンまできた。対して敵のHPは後4割くらい。


 削りきる方法は…………ある! やりたくなかったけど仕方ない。あたしは覚悟を決めて奥の手を使うことにした。


最後の全魔法コンティノイタティス・マギカ!》


 魔法使いのスキル『連続魔法』。MP全消費の代わりに自分の覚えている攻撃魔法を1度ずつ使うことが出来る、というスキル。リキャストタイムがとっても長いから、ホントに最後の最後にしか使えない魔法。


 こんな場面でもなければ使うことはないだろうけど、これが奥の手っていうわけじゃない。


 ここからが本番、気合を入れる────舌を噛まないように!


 あたしは詠唱を始める。まず雷が敵をうち、地面から這い上がる雷撃が敵を縛る。けれど麻痺のエフェクトは出てこない。


 口は動かしたまま心のなかで舌打ち。とりあえず動けないようにしなきゃ!


 右手を前につきだし、そこから氷のつぶてが飛び出す。間髪入れずに次の魔法。ジャキーンと、小気味いい音とともに男の足下から氷の塊が生まれ、そのまま凍てつかせる。


 氷結によるバインド。これで少しの間相手は動けない! 後は覚えている魔法を放つだけ。


 色の薄いエフェクトが2回立て続けにうまれ、地面が凍りつき、衝撃波が放たれ、法衣の内側から黒いもやが敵を締め上げ、漆黒のナイフがささり、全方位から石つぶてが敵を狙って、岩が大地からせりあがり、木の根が地面を穿ち足を、手を、胴を締め上げ、木の葉が法衣を切り刻み、男の前後から見えない力が掛かって押し潰す。


 雷の魔法から重力の魔法まで、計16連続魔法。ここまでで敵のHPは1割を切った。残る魔法は火の魔法を除けば後2つ!


聖力解放(ルーメインクル)!》


 細いいくつもの白い光が敵を穿ち、敵のHPがドット単位で減る。


聖力創柱(ルーメインクルシ)!》


 そして、太い光の柱が敵を飲み込んだ。攻撃は多段ヒットして、HPは少しずつ減っていく。


 後もうちょっと、お願い! けれど祈り儚く、敵のHPは数ドット残る。

 

 敵は棒立ち、今火の魔法を使えば、確実に倒せる。その代わりあたしもガスの爆発で死亡だ。どうしよう。


 悩んでいる内に敵は動き出す。決断できないまま、裁きの鉄槌が振り上げられ────


「うぉおおおおおおおお!」


 あたしの後ろから矢が飛び、逃げたはずのパーティーリーダーが叫びながら走ってくる。


 ピコーン、と走るパーティーリーダーからスキル習得のシステム音が鳴った。

 

 魔法みたいな一部のスキル以外は、こんな風に、閃くように覚えられるのだ。えらい違い。


 彼はまた跳ぶ。今度は前に。そのまま空中でアシストがかかり、加速したパーティーリーダーの剣と、法衣の男の鉄槌が交差する。


 ズッバァアアアアアアン!


 ゴトリと鉄槌の頭が落ち、敵は左肩と右腰を結ぶ斬線からポリゴンとなって崩壊する。


 パッパカパンパンパンパーンと、自分が倒したわけでもないのに、多分自分だけになり響くミッションクリアのファンファーレを微妙な顔で聞いていると、格好つけて剣をしまい、こちらを振り向いたパーティーリーダーが言う。


「悪いな、とどめ差しちまって。でも、魔法と違って便利だろ?」


 こんな時なのに、あたしは笑ってしまった。



 彼らは逃げた訳じゃなくて、岩の背後でチャンスを窺っていたらしい。つまり非常においしいところを持っていって、しかも、あたしのあれを全て見ていたのだ。


 採掘を終えた今、質問攻めされるのも、まぁ仕方ないよね。


「それで、さっきのは……なんだ?」


「連続魔法。MPを全消費して覚えてる全ての魔法を1度ずつ使えるスキル」


「そんなこと出来るなんて聞いてねぇよ」


「知ってたら魔法使いになってたよぉ」


 だからお前ら手のひら返しすぎだって! と、そこでパーティーリーダーがツッコむ。


「お前らなぁ……連続魔法は使えないってことで有名なスキルだぜ?」


 そう言った後、あたしに向き直り首を傾げる。


「で、なんでここすらクリアしてない初心者があんなに魔法を覚えてるんだ? 古参の魔法使いだってこの量覚えてるかあやしいぜ?」


 そう、奥の手は覚えてる魔法の量。これだけは、他の誰より多いと密かに思っている。


 あたしは笑って、パーティーリーダーの問いに問いで返す。


「みんなはここまで進めるのにどれくらい掛かった?」


「2ヶ月ぐらいだったけ?」


「まぁ、それくらいだな」


 平均より少し早いペース。やっぱり固定パーティーは効率がいいのだろう。と、ステータス画面を開きながら思う。


「あたしはね、ここまで1年間かかってる。ほら、こ――――」


「はぁ!?」


 かなり驚かせてしまったみたい。いやまぁ大声のせいであたしも驚いたけど。


「このゲームってぇ、サービス開始からまだ1年ちょっとしか経ってないよねぇ!?」


「1年って……最古参じゃねぇか!」


 あたしは頷いて続ける。


「そうだね、この職じゃなければきっとここにはいなかった。でもこの街から行ける範囲内で、覚えられる魔法と魔法関連のスキルを全部覚えるのに1年かかったよ」


「全部って……」


「一体何冊読んでるのよぉ……」


 あたしは肩をすくめる。


「数えてないから分かんないけど……そこまでやってもソロじゃこの洞窟さえ抜けられない。魔法使いは本当に不遇職なんだよね」


 笑って冗談のように言ったつもりだったんだけど、PTメンバーの2人は絶句。そして、リーダーは納得いかなそうにまた口を開く。


「なぁ、そこまで不遇だって分かってる職を、どうしてお前は続けられるんだ?」


 さっきも同じような質問をされた気がするけど、それじゃあ納得いかないってことなんだろう。あたしは別の返答をする。

 

「本が読みたいから、かな?」


「は?」


「……冗談だよ、冗談。理由はさっき言ったとおりもう引き返せないから。1年間もこの職でやってきちゃったからね」


 3人から目を逸らしながらあたしは答える。我ながら苦しい答え。でも、追撃は飛んでこなかった。


「まぁ、言いたくないことまで言わせようとは思わねぇ。でも、話は聞かせてくれよ。ここから出た後に、な」


 さすがに断りづらい……。仕方ないや、ゲーム内であったことなら別に話したっていいし……。あたしは両手を上げて、ため息をつく。


「喜んでとは言えませんが、分か――――」


 と、そこでいきなり視界がブレて、目の前には『error:ネットワークに接続できません』の表示が。どうせ親が回線を引っこ抜いたんだろうけど……今日何かあったっけ?


 Gladius&Magicusからゲーム機のホームへと戻りながら、うーんと悩んで思い出す。


 あぁ、そう言ってみれば今日は、検診の日だったね。

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