関教諭と弓塚君の妙ちきりんなアレコレ(例として関係など)
ギャルゲ的な設定で話を書いてみたかったんだ、許せウメコ……
「あぁ……極楽ぅー……」
「……」
ベッドの上。
仰向けに寝転ばされた私の上に覆いかぶさり、ほぼ全身で灰色をした毛の感触をまさぐるように堪能しているのであろう、一人の少年。
私より小柄で非力な彼を、然し私は跳ね除けたり投げ飛ばしたりしようとは思わない。ただ――
「なあ、弓塚」
「何です、関先生?」
「そろそろ下りろ。もう満足したろうが」
――文句ぐらい、言いはするがな。
―読者に向けた話―
私の名は関俊巳。ある中学に勤める国語教師の女だ。歳は今年で26。独身で恋人もいないが、それなりに充実した日々を送っている。
だが私には、普通の教師とは異なる点が幾つかある。
まず第一に、私には少々訳ありの同居人がいる。
その名は弓塚真人。つい先程から今に至るまで、私へ覆い被さるようにして体毛の感触を堪能していた少年である。容姿こそ微かに女性的に感じられるが、そこを除けば一見至って普通な男子中学生である。
だが弓塚は実際私の教え子であり、更に言えばそれなりに近い親戚同士にして一種の幼馴染みでもある。そしてまたこれらの(教師たる私とその教え子たる弓塚が同居中であり親戚かつ幼馴染み同士でもあるという)事実はごく一部の限られた者しか知らない。何故そんな事になっているのかというのは、中々ややこしい事情が絡んでくるためここでの説明は控えさせて頂きたい。
そして第二に、私は少々(というか、かなり)特異な一族の生まれである。古今東西様々な呼ばれ方をするそれは、所謂人狼と呼ばれるような奴である。ヒトの姿から獣の姿に化けるタイプの奴で、化けるとヒトめいた骨格に獣の皮を被せ頭や手足等のパーツも獣らしくしたような――所謂"獣人"然とした姿となる。
ともすれば月光や黄色い円もしくは球(或いは単なる円や球)を見てしまうと変身しそうなものであるが、幸いと言うべきか私の一族にそういった形質は含まれていなかったらしい。更に幸いなことに、変化は自らの意志によって行えるし、それで理性が崩壊したり肉体に余計な負荷がかかるというようなこともどうやらないようである。
断言していないのは、私(及び私の親類一同)が人狼というものについて殆ど何も知らず、発覚から二十年余り過ぎた現在でさえ未知の領域にあるが故である。というのも、私に通う人狼の血はどうやら外部から現れた私の母から齎されたらしいものであり(恐らく知らされていたであろう)私の父を除く関家の人間は、私が人生初の変化を見せた三歳のある日までその事を一切知らされていなかったのだ。更に私の両親は私を産んで直ぐにこの世を去ったため、私の正体について知る者は当時の関家に居なかったと言ってよい(それでもどうにかできたため今があるのだが、その辺りは割愛する)。
ともあれそんな訳で私・関俊巳は"年下の親類にして幼馴染みでもある教え子の異性と同居している人狼教師"という、実にややこしくよくわからない肩書きを持つに至ってしまったのであった。
―ここから本文―
そしてそんな"実にややこしくよくわからない肩書き"の持ち主である私は今現在――
「えー? もうですかぁ? まだ"もふり"足りないのにぃ……」
「これだけ同じ場所ばかり弄っておいて"まだ足りない"か……重症だな」
――教え子に腹の毛をまさぐられていた。当然ながら、変化した状態で。
もうかれこれ一時間になるだろうか。時計を見ていないので定かではないが、多分そのぐらいは経過しているだろう。
「重症って、そんな病気みたいに言わないで下さいよ」
「いや、病気だろ。病気以外何と言えと」
「んー……愛、とか?」
何故疑問形なんだそこで。愛なら愛でいいからはっきり答えろ。いや、それ以前に――
「それはどういう愛だ」
「えっと……」
「私を何と見做しての愛なのか聞いてるんだよ。担任教師としてか? 身内としてか? 幼馴染みとしてか? 同居人としてか? もふりに最適の獣としてか? それとも――」
女としてか?
その言葉を予測してか、或いはただの偶然か、彼は私の言葉を遮るように言う。
「俊巳さんとして、ですよ」
「……!」
予想だにせぬ思いがけない返答に、言葉が出なかった。いや、言葉が出なかったのは単に返答が予想外だったから、というだけではない。
表情だ。私に返答した彼は、普段ならまず見せないような、凛々しく真摯な表情をしていた。いや、表情というより態度からしてそうだったのかもしれない。またそれに加えて、同居を始めて以来聞くことのなかった"俊巳さん"という呼び名を久々に(かつ、若干不意打ち気味に)聞かされたというのもある。
そしてそんな私を尻目に、彼は尚も言葉を紡ぐ。
「僕は俊巳さんを俊巳さんとして愛してるんです、僕なりにね。ただそれだけですよ」
「……そう、か。私を、私として、か……」
「ええ。そんなもんですよ、僕の愛なんてもんは。担任教師としても、身内としても、幼馴染みとしても、同居人としても愛してますし、化ける前と後、どっちの姿も好きですし。そういうもんですよ」
「ほう、そうか……ならば"真人"、お前は――」
――私を"女として"も愛しているか?
そう問いかける言葉を、しかし私はすんでの所で吐き出さず飲み込んだ。
吐き出してしまえば楽だったかもしれない。
吐き出してしまえば何か面白い反応が見られたかもしれない。
「?」
だが同時に、吐き出してしまうのが怖くもあった。
「俊巳さん?」
何故なのか、理由は幾つか思い当たるが、そのどれもがどうにも若干しっくり来ない。
「俊巳さん、どうしたんですか?」
ただ一つ確かなのは――
「俊巳さ――」
「いや、何でもない。大丈夫だ」
――何がどうあれ、私も真人を真人として私なりに愛しているということだろう。
「? そうですか? 何か言いたげでしたけど」
「ああ、そうだ。言いたかったこともあった気がするが忘れてしまった。きっとどうでもいいことなのだろうよ」
「ならいいですけど……」
「それよりも弓塚」
「ふえ? 何ですか関先せ――わふっ!?」
起き上がりかけていた少年を、私は不意打ち気味に抱き寄せる。
「気が変わった。好きなだけ私の毛を弄って――いや、"もふって"いていいぞ」
「え? ほ、本当ですか?」
「ああ、本当だとも。寧ろこの状況で嘘なんて吐くと思うか? いいから"もふれ"。存分に、遠慮せず、気の住むまでな」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
かくして私はその後お互いに疲れて寝てしまうまで、凡そ三時間もの間弓塚に"もふられ"続けたのだった。
なに読者?
この小説は説明文が多い割にその内容がそれほど詳しくもないって?
読者、それは作者に説明を求めすぎるからだよ。
逆に考えるんだ。
「説明されていない所は自分の想像で補完するなり後で作者に聞けばいさや」と考えるんだ。