第5話:シャーロック半田
「何を黄昏れてるんだ?」
藤次郎のおっさんにポンと肩を叩かれた。
「いや、何でもねぇ〜」
俺はそう言い笑った。
「それより、リョはこれから行く所はあるのか?
それに、寝床はあるのか?」
昨日こっちの世界に飛ばされ山で野宿
当然、寝泊まりする所などない。
・・・がこの流れ、この台詞・・・もしかして・・・
「いや、ねぇんだけどさぁ・・・」
申し訳なさそうに返事をするとあっさりと
「そうか、それは大変だな」
と言われてしまった。
えっ!?えっ!?何か違うぞ!!
「おいっ!おっさんそこはあれだろ??
泊まる所ないんだったら家にくるか?
いいのか?
まぁ、狭い所だけどな
悪りぃな・・・・
まぁ、気にするな困った時はお互い様だ
って流れになるんじゃねぇのか!?」
「えっ!?なんでじゃ??」
不思議そうな顔をしている。
「いやいや、ドラマとかでよくあんじゃん!!
多分・・・・」
「ど・らま??よう分らんけど
家には嫁入り前の娘もおるしな」
「なに??娘??可愛いの??年は??」
一瞬にしてテンションが上がった。
やっぱタイムストリップにはヒロインが必要だよな!!
「可愛いにきまっとろうが!」
自信満々に藤次郎のおっさんは言う。
そうとなれば、なおさら泊めてもらわない訳にはいかない。
「おい、おっさん頼むよ、マジで行くとこないんだってよ
とりあえずなんでもするからよ、なんならそこの小屋
みたいな所でもいいからよ」
両手を合わせ一生懸命頼んだ。
おっさんはしばらく考えていた。
「ん〜なんでもするか?」
ぼそっと呟いた。
「する、する、畑仕事でも掃除でも・・・・」
「仕方ないのぉ〜じゃあそこの小屋を自由に使っていいから
わしの仕事を手伝ってもらうぞ」
「まじで??よっしゃ〜!」
「おっと、娘には手をだすなよ!!」
「分ってるよ、ださねぇ、ださねぇ」
よっしいい流れだ、寝床も確保した、可愛い娘もいるそうだ。
これは幸先いいな。
なんだかんだでこの先もやってけそうな気がしてきた。
「そろそろ娘が帰ってくる頃なんじゃが・・・」
(このおっさん娘の出迎えの為外に出てきたのか?
どんだけ過保護なんだよ)
「おぉ、帰ってきたか?」
手をふっているおっさんの先には若い女の子が歩いてくるのが見えた。
「おっ、娘さん?」
「そうじゃよ、何度も言うが手を出すなよ」
「分ってるって、しつけーな!」
心の中の声は
(手を出すなと言われてもなどうなるか分らんがなフフフ)
であった。
当然そんな事は言えないが俺はワクワクしていた。
・・・・がそんな思いは2秒で打ち砕かれた。
そこに立っていた若い娘は、自分の娘をという
ひいき目をさっ引いても・・・いや、はっきり言おう。
相当のブスである。それも中々お目にかかれないクラスのだ。
「おっさんって目悪いの??」
不思議に思って訪ねてみた。
「なんでじゃ??」
「いや・・・・なんでもねぇ〜・・・」
そうだ、きっと性格がいいんだ、きっとそうだ。
そう言い聞かせようと思いながら、ふと視線を上げると。
おっさんの娘は何か汚いようなものを見る目で俺をみている。
俺は慌てて、右手を差し出した。
「あ・・・初めまして、今日からお世話になることになった
半田って者です」
普段挨拶なんてろくにしてない俺には精一杯の挨拶であったが
その娘は一瞥をくれこう言い放った。
「変な噂がたっても困るんで、私には近づかないで」
そしてそのまま家の中に入っていった。
「性格も悪っ・・・・」
(ヒロインには絶対してはいけないタイプだな)
タッタタタタ・・・
その時、息をきらしながら一人の男が走ってきた。
「藤次郎、ついに捕まえたぞ」
おおっ!?何何??事件か?
その男はすぐに俺に気づくと
「藤次郎お前も怪しい奴を捕まえたのか?」
「いや、この男は違うんだが、話すと長くなるから
まずはその捕まえた奴の所にいくぞ」
「おぉ、おっさん張り切ってんな、何かあったのか?」
「畑荒らしじゃ」
藤次郎はそのおっさんの案内で慌てて駆けていった。
このままここに残っていても仕方ない。
俺も後を追うように走り出した。
息を切らしついた先には一人の男が縄で縛られていた。
遠目では小学生か中学生にも見えてしまうくらいの小さい
男だった。
周りは村人達が囲み罵声を浴びせていた。
どやら最近畑を荒らすという事件?が相次いで起きているらしい。
そして、荒らされた畑の直ぐ側にこの村では見かけないこの男が
いたってことらしい。
えっ!?それだけで??
俺は畑のことよりも何の証拠もなしに近くにいたと
いうだけで人を縛り罵声を浴びせている村人の方に違和感を感じた。
そして、縛られている男は自分はやっていないと主張していた。
しばらくはその様子を伺っていたが、ついに我慢出来なくなり
その男の目の前に立った。
「お前本当にやってないのか?」
「やってねぇ〜!」
返ってきた返事はその一言だけだったが、どうしても嘘をついている
目には見えなかった。
その間も、罵声を浴びせ続けられる。
「あぁぁ〜〜〜お前ら皆、うるせぇ!!!」
ついに俺は切れた。
「コイツもやってねぇ〜っていってんだろ!」
突然わけも分らない奴が叫んだことに皆が驚いたのか
その場は一瞬の間、静まりかえった。
(やべぇ〜やっちまった、まぁ手を出さなかっただけ良しと
するか・・・しかし・・・この後どうしよう)
落ち着け俺!胸ポケットからタバコ出しを火をつける。
「ふ〜〜」大きく煙りを吐き出す。
その光景を見た村人達はとたんにざわめきたった。
そして、その中には神の遣いか?なんて小声まで聞こえてくる。
その時の俺は何でか解らなかったが
そりゃそうだ、この時代にジッポなんて物は存在しないし
火をつける際、風よけの為、手を覆ってることで
村人達には手から火を出したように見えたらしい。
更に注目を集める俺。
やべぇ〜〜ココで決め台詞を吐かなければ・・・・
(じっちゃんの名にかけて??体は子供、頭脳は??
いやいや違うだろ!)
足りない頭をフル回転させるも、足りないものは足りない
イケテル台詞が直ぐに出てくる事はない。
「俺が犯人を見つけてやるよ!!このシャーロック半田が!」
情けないがこれが精一杯だった。
そもそも犯人を見つけれるかどうかなんて分らないどころか
ほぼ見つけれることはないだろうと後になって後悔した。
が羨望の眼差しの村人達の反応は違った。
「おおぉ〜〜〜はんろっくしゃー!!」
とわき上がっている。
「おいおい、そんな事言って大丈夫なのか?」
心配そうに藤次郎が声をかけてきた。
「大丈夫かどうかは後で考える!
とりあえずコイツつれて帰るわ」
俺はその男の縄をほどき、藤次郎の小屋に連れ帰った。
「さっきは大変な目にあったな」
そう声をかけるとその男は
「いや、かたじけない」と頭を下げた。
身なりは良いとは言えないし、立端もない男だったが
何やら内に秘めてるパワーというかオーラみたいなものが
溢れている奴だった。
「お前、名前は??」
「木下・・・・藤吉郎・・・」