第45話:商売
俺と藤吉郎は今までの生活に戻り、あまり流行らない万屋を
しばらくは続けていたのだがとあることで商売変えを行い
今では大繁盛店を作り上げており長蛇の列をさばくことに日々追われていた。
勿論、万屋を完全にやめたと言う訳でもなく、くだらない相談から
俺達では明らかにどうにもならないであろう相談まで持ちかけられる
こともたまにはあった。
俺達が新しく始めた商売とは「お好み焼き屋」である。
とある日の晩飯に俺がお好み焼きを作ったのだが藤吉郎が
それを凄く気に入ったことで思い立ったが吉日とばかりに勢いで始めたのだが
コレが大ヒットとなった訳だ。
そのおかげでお金に困ることは完全になくなり、日々の忙しさから
何をすればいいのか?という悩みからも解放された。
俺達は毎日焼きまくった、体からソースの匂いがするのでは
なかろうかというくらいに。
他人からみればこれが大成功になるのかもしれないのだが
忙しさとは反比例し藤吉郎の顔は日々浮かないものになっていた。
実は、俺も似たような感覚を持っておりそれが
日増しに大きくなっていくのを感じていた。
完全にこの時代に染まってしまっていたのか、それとも
今までの戦場でのひりつくような感覚が忘れられなくなっていたのか
分らなかった。
その晩、俺はふいに切り出した。
「何か違うよな・・・」
「ああ」
やはり藤吉郎にも同じ気持ちが湧いていたようだった。
「このままってのもいかねぇ〜よな」
「ああ」
「全ての物を混ぜ合わせ一つに・・・」
「お好み焼きみたいだな」藤吉郎が呟いた。
「鉄板の上で作れる物ではなく、この世の上で作ってやりてぇ〜な」
「ああ」
また藤吉郎は短く呟いた。
今までの俺なら天下になど興味もなかったのだが、いや今も
本当は興味は無いのかもしれない。
ただ、戦場で命のやり取りをしている男達には何か特別なオーラを
感じることが多かった、そしてそれに触れているのが自分自身
楽しかったのかも知れないと思った。
「でどうする?」藤吉郎が訪ねる。
「思い立ったが吉日、取りあえず店は閉めようぜ」
「未練はないのか?あれほど流行っているのに」
「藤吉郎、お前はどうなんだよ」
「良が続けるならワシも付き合うよ」
「ははは優しいな、でも顔はそうは言ってないぞ」
「わかるのか?」
「まぁ、お前は特に分りやすいからな」
「あははは」
藤吉郎は小さく照れくさそうに笑った。
「店は藤次郎についでもらおうぜ、この前相談に来てたんだけどよ
台風の影響で畑が駄目になって困ってるって言ってたからな」
「ああそういえばこの前来た時妙に暗い顔してたから気になって
いたんだけど、そういうことだったのか」
「言いづらそうにしてたけどな、遠慮なんてしなくてもいーのにな
俺にとっては命の恩人ってもおかしくね〜からな
なんとかしなきゃとは思っていたんだけどよ丁度良かったわ」
「引き継いでくれるかの?」
「大丈夫だろ?あの不細工な娘が嫁に行くまではって言ってたから
なんでもすんだろ、多分・・・・」
「多分かよ!!」
「早速、明日にでも行って聞いてみるわ」
「ではそれは任せるとするかな、んでワシらはどうするんじゃ」
「実はなそれも考えていてな・・・」
ここで藤吉郎が話を遮るように割って入った。
「良も大人になったな、昔なら出たとこ勝負って感じで
これから考える、何とかなるだろが口癖だったのにな」
「っせーよ、俺は変わってない、昔から考えていたわ!」
「分った、分った、でどうするんだ?」
「分ったならいーけどよ、でな本題だけどよ、まず今川つぶそーぜ!」
「えっ!?」
藤吉郎は驚きの表情をみせた。
「だってよ偽物でクソって前に言ってたじゃん
なら手っ取り早く排除しとこーぜ!!」
「確かに偽物ではあるが家臣の数はそのままだぞ
それに三国同盟を組んでいる甲斐の武田、相模の北条どちらも
一筋縄ではいかんぞ、どうやって叩くのじゃ?」
「なにそれ?強え〜の?」
「えぇ〜〜〜やっぱりそれかよ!!
良は未来から来たんだよな?北条はともかく武田信玄の
名前くらい聞いたことがないのか?かなりの男だぞ」
「全然しらねぇ〜よ」
「あれほどの男でも歴史に名も残らないのか・・・
未来では今の時代で名の残ってる男はおらんのか?」
「そりゃ俺が知らないだけで結構いるだろうよ」
「良でも知ってる人物は?」
「俺の知ってる歴史上の人物かぁ〜
そうだな、遠山の金さんだろ、大岡越前だろ、水戸黄門だろ
暴れん坊将軍だろそれから長七郎、後は中村主水だな
ん!?どうした?」
「いや・・・全然聞いたことがない名ばっかりじゃ」
「なに落ち込んでんだよそんなこと気にすんなって
これから活躍してりゃ未来も変わるだろうよ」
「そ、そうじゃな」
「それより、なんでそのすげー男が偽物と同盟なんて組んでるんだよ?」
「同盟を組んだのは勿論本物のほうじゃ」
「あっ、そうか当時は二人いたんだな」
「そういうことじゃ」
「でも同盟ってもいつも一緒にいる訳じゃね〜んだろ?」
「確かに・・・」
「だったら援軍に来られる前にまずは偽今川をつぶそうぜ」
「二人でか?」
心配そうな顔を藤吉郎はしていたが俺はそこまで深くは考えていなかった。




