第36話:長良川の戦い②
道三は静かに目を閉じ、じっと待っている。
だが肝心の義龍といえば・・・・
青い顔で震えている、今にも泣きだしそうなくらだ。
それもそのはずだ、この状況で親を殺すなんてことは並大抵のヤツに
出来ることではないだろう・・・勿論、俺に出来ることでもない。
義龍がビビるのもわかる。
俺は何も言うことは出来ずただ傍観するしかなかった。
ふと外に目をむけると、やはり数の差はなんともならない・・・
明らかに、道三の軍勢が劣勢なのはここからでも分った。
目を閉じたまま道三が俺を呼んだ。
「良三よ・・・」
「いやいや、無理だって・・・」
とっさに俺は両手をふり断 るそぶりをした。
「何を言っておるのじゃ?」
「だってあれだろ?義龍が駄目なら俺に・・・
って感じじゃね~の??」
「なんでお主にそんな事を頼む、これは親子の問題じゃ」
「あっそうなの・・・ビビったわ」
ホッと胸をなで下したのも束の間、道三は話を続けた。
「良三よ、義龍の背中を押してやってはくれぬか?」
「・・・・」
俺は返答に困った。
道三の覚悟は分った、見守るつもりでもいた・・・が親を殺す
後押しをしろというのは・・・やはり酷な話である。
「時間がないのじゃ・・・・」
しばらく考えた後
「・・・・・・・しゃーねーなぁ!俺を恨むなよ!」
俺も覚悟を決めなければならないと思った。
「なぜ恨む、むしろ感謝しておるぞ、お前との話は
本当に楽しかった」
「そうか・・・こんな話で良ければまた話にくるよ」
「そうかそれは楽しみじゃハハハ」
その刹那「ドカッ!!」
俺はボコボコの義龍をいきなり殴り飛ばした。
倒れた義龍は俺を睨み返している。
「おお、その目だよ!
確かに自分の親を殺すなんて簡単にできることじゃねーのは
わかる・・・・俺だってお前の立場なら同じ状況になってた
かもしれねーだが俺は部外者だ!
だから勝手な事を言わせてもうらことにする」
義龍は黙って俺の話を聞いている。
俺は一度深呼吸をし大きく息を吸い込んだ。
「自分のケツくらい自分でふけや!
道三のおっさんはその覚悟をとっくにしてんじゃん!
お前がやらねーなら俺がやる!!
そんかわし、俺が道三を殺した後はお前も殺すぞ!!
見ず知らずの未来人に美濃を乗っ取られ末代まで 恥をさらせや!」
俺は刀を抜き道三に切りかかった。
カキィン!
甲高い音が響く・・・・俺の刃を義龍が受け止めていた。
その力強さ、先程までの義龍の面影はどこにもなかった。
「たしかに・・・・お主みたいなうつけに
こんな大役を任せる訳にはいかんのぅ」
「ほぉ・・・・言うじゃん・・・
だったらこれやるよ、覚悟を見せてみろやっ」
俺は道三からもらった刀を義龍にやった。
「これは・・・父上の・・・・?」
「そうだよ、誰にやっても構わないって言って
たからな、お前にやるよ!文句ねーよな?」
道三はフッと笑い。
「ああ・・・」
と答えた。
「父上・・・・某があの世に行った際には必ず・・・」
義龍の 顔は涙でぐしぐしゃになっており涙声のせいか
その先はなんて言ったのか俺には聞き取れなかった。
多分、道三にも聞こえてなかったと思うが道三は
「ああ、分かった・・・」
そう言い笑っていた。
「御免、父上!!」
ゴキュ・・・・鈍い音とともに血しぶきが上がった。
そして道三の首が転げ落ちた。
「おぉぉぉぉぉぉ~~~~」
義龍はその首を大事そうに抱え雄叫びをあげた。
しばらくの間、義龍は泣きじゃくっていた。
「義龍・・・」
「いい・・・言うな分っておる」
義龍は涙を拭い俺がかけようとした言葉を
遮るように義龍は答えた。
「お主には世話になったの」
「まだ終わりじゃねぇ~だろ!!」
「それも分っておる、この戦いもしっかり
終わらせてくるわ!!」
「おう、きっちりけじめとってこいや
んで全て終わってもモヤモヤしてるんだったら
俺がいつでも相手になってやんよ!」
「もう大丈夫じゃ!それにお主と殴り合うのは御免じゃ」
そういうと義龍は戦場に駈け出して行った。
「すげぇな・・・・」
何がということではないのだが、俺はポツリとつぶやいていた。
「こんなやつらでも歴史に名を残せないのか・・・
元の世界に帰れたならば俺がしっかり伝えてやるからな」
俺の歴史知識が乏しいだけでしっかりと名が残っていることを
当然ながら俺は知らなかった。




