第32話:VS義龍
俺は、義龍の気合いの入ったいいパンチを何発ももらった。
本当にいいパンチをしていた。
が、しかし・・・残念な事に強くはなかった。
柴田よりも、信長よりもはるかに弱かった。
俺は義龍の右を躱し、リバーブローを打ち込んだ。
義龍は悶絶の表情をし、膝が落ちた。
それでも、立ち上がろうとしていた。
「負けないぃ・・・負けないぃ・・・」
信長もそうだった。
この時代の武将は皆こうなのか??
俺はそんな義龍を見ていると、どうしても弟を殺したなんてことは
思えなかった。
「お前・・・本当に弟を・・・」
「負けない!負けない」
どうやら俺の声は届いていない ようだった。
「義龍、お前の負けだよ・・・」
俺はそういうと、力一杯の右を叩き込んだ。
義龍の体が2回、3回と周りそのまま倒れこんだ。
「おお・・・いって~~」
2、3回手首をぶらぶらとさせ、義龍の傍まで歩きその場に
腰をおろし目を覚ますのを待つことにした。
どれくらい待っただろうか?
普通であれば・・・ここで一服なんて所だが
タバコはもうない・・・
俺は川の水をかけてみたが義龍は起きなかった。
「コイツ死んでんじゃねぇ~よな・・・
・・・・・・
・・・・・
何とか息はあるみたいだな・・・」
ペシッ!
「頼むぜぇ~」
俺は義龍の頭を軽く叩いた。
「義龍様ぁ~・・・・義龍様ぁ~・・・ 」
その時コイツを呼ぶ声が近づいているのに気が付いた。
この現場・・・どう見ても今見つかったら、俺が悪者だな
これはやばい・・・
さっきの17,000人が相手ともなるとどうにもならない
事は馬鹿な俺でもわかる。
焦った俺は義龍を担ぎ逃亡した。
ドラマや漫画では軽く人を担いでいるのを見たことがあるが
そんな甘いものではなかった。
気を失っている大人を担いで逃げるのがこれほど大変だとは・・・
おまけに何処を逃げてるかわからないのが更に始末が悪い。
「重めぇ~よぉ~おいっ起きろっ!」
逃げながら何度か声をかけてはみたものの
一向に起きる気配はない。
「お前ぇ~わざと楽するために寝てるんじゃねぇ~よ な!」
本当に捨ててやろうとも思ったが、それでは何のために
こんな危険を冒したのかすら意味をもたなくなってしまう。
「お前、起きたら、もう一回殴る!!」
そんな愚痴をたびたびこぼしながら必死に逃げた。
ソイツと出会った時はすでに担いでいた義龍は
でろ~んとしており、担いでるというより引きずっているのに
近かった。
「助かったぁ~・・・・さすがだな
俺には黒王号にみえたぞ!!」
フッ・・・フッ・・・と鬣をゆらしている。
そう、そこにいたのは天翔だった。
(結果オーラい!うまい事、義龍だけ確保できたじゃん!)
天翔がそう言ったように聞こえたが多分俺の願望だろうな。
俺は、 義龍を荷物のように天翔に括り付け
急いでこの場を離れた。
そして疲れからかなのか、天翔のうえで安心したのか
完全ではないものの半分記憶を失っていた。
半分というのは微妙な表現になるが・・・
俺が天翔を走らせていたのか、コイツが勝手に走って
いたのかが分らなかったのだ。
ただ流れる景色が心地よさを誘っていたのは
記憶に残っている。
はっきり意識が戻ったのは・・・
目の前に大勢の人間がいるのが目に入った時だった。
「どっちだ・・・!」
とっさに思った。
鶴山・・・そこに布陣をひいていたのは
道三の軍であった。
勿論、この時の俺はここがどこだかも分らない。
辺りをキョロキョロしている怪しさ満載の俺に道三の
家臣達はいち早く気付いた。
そしてその中には角内さんもいた。
「よく、ここが解りましたね」
驚いた表情をしていた。
「大桑城って城じゃなくて山なん?」
が俺の答えだった。




