第29話:郷に入っては郷に従いたくない
ここは一人でも味方がいると心強い
俺は信長の好意を受け取ることにした。
「そうと決まれば、大桑城に急ごうぜ!」
「何を言っておる?そのまま行くのか?」
「他に何があるんだよ??」
「戦になるのは分っておろう?
そもそも、その恰好で戦場にいくのか?」
「えっ!?なんかまずいの??」
「いくらなんでものぉ~・・・」
「じゃあどうすんだよ!!」
「取りあえず、尾張に来いそして準備をしてから
出陣じゃ・・・
・・・それにその怪我の手当てもいるじゃろ」
「確かに・・・」
殴り合っている時は、アドレナリンで痛みも感じにくく
なっているが冷静になると・・・痛い・・・
多分、熱もでるな。
俺は信長の言う通り尾張に立ち寄ることにした。
今まであれば、元の世界の話でもして・・・
くつろぐ所ではあったはずなのだが、この日は違った。
清州城へ入りくつろぐはずの俺の目に飛び込んできたのは
俺を袋叩きにした他の奴らの顔だった。
先程の柴田勝家もそこにはいた。
俺は一気に頭に血が上るのを感じた。
「おいっ!お前ら、俺のこと覚えてるよなぁ~」
「お主!まだやられ足りぬか?」
そう声をかけてきたのは柴田勝家
「さっきの髭じゃねぇ~か!
お前こそ、さっき負けたのもう忘れたか?」
周りの奴らがどよめいていた。
「柴田殿が負けたのか・・・?」
小声のひそひそ話が耳に入る。
顔を真っ赤にした柴田勝家が慌てて言い訳をする
「何をいっておる、この者の顔を見てみぃ
どっちが勝ったか明らかであろう!」
一生懸命、言い訳をしたものの、どっちの顔も同じくらい
腫れ上がっていた。
これではどっちが勝ったかは判断つかない所だった。
「まぁ、だいたいあれだよ
負けたヤツってのは騒いでごまかそうとするよな」
俺は冷静を装いそう話すと、周りにいた人たちも納得していた。
「もう、良いではないか・・・」
呆れたように信長が割って入る。
「いや、よくねーよ、俺はやられた恨みは忘れねーの!」
「いくら良三が素手の喧嘩が強いといえど・・・
その顔で更に殴り合うか?」
俺は自信満々に胸をはり
「余裕っ!!」
と答えた。
「今は、それどころではないのであろう・・・」
「・・・・・・・・・ん・・・確かに・・」
そうだ、確かにそれどころではなかったのに
目の前の喧嘩に我を忘れてしまっていた。
そして、信長が間に入り後日
<いつになるかわからないけど>
事が片付いたのち、各々とは一対一の勝負をすることで
話がまとまった。
勝家の顔を見て、俺との勝負を拒否するヤツもいたがそこは信長が
きちんと話をつけ正々堂々と勝負することを約束させていた。
その後、俺は部屋に通され看病をしてもらっていた。
「悪いねぇ~」
「いえ・・・信長様の大切なお客様ですので・・・」
「君、名前なんての?」
「帰蝶にございます。」
「あっ!?君が例のあれだ・・・道三の娘で
信長の奥さんのきっちょむさんだ!」
(なんだ、人妻かよぉ~)
「知っておられたのですか?」
「いやいや、初めましてだけど・・・
話には聞いてたよ
ってか道三のおっさんに全然似てねぇ~じゃん!」
「父上をご存じなのですか?」
「あぁ、よく知ってるよ!
これから君のおやっさん助けに行くからさ」
「それは真でございますか?」
帰蝶の顔が少し明るくなったのがわかった。
「うん、信長も手伝ってくれるってさ!」
「信長様が・・・・」
自分の親の為に旦那が・・・と思うと
中々複雑な心境であるだろう、俺はそれ以上の話は
せず話題を変えた。
「そうこれ、道三からもらった刀なんだけどさぁ
俺、刀使わないからあんた持ってなよ
まぁ、刀なんて女性に渡すもんではないけどさ・・・」
「父がこれを・・・・」
「うん、俺が持っててもしょうがねぇ~し
いらないなら誰かにあげりゃいいって言ってたよ」
同時刻、信長は今回、道三を助ける旨を家臣に話していた。
そうとうな反対にあったらしいが・・・
そんな様子は見せていなかった。
そして、翌々日に俺らは道三を助けるため出立した。
周りの気合い入ってる奴らをよそに俺だけが・・・
「何これ?めっちゃ重いじゃん!!」
早速わがままを言っていた。
それもそのはず初めて着けた甲冑は2、30Kgはあろうかと
いうものだった。
「仕方ないであろう!!」
「これ今から着ける必要あんの??」
俺の愚痴は止まらなかった。
いや、道中がほぼ愚痴と言っても過言ではない程だった。
俺は思った、この時代の人たちは馬鹿なのか?
こんな重い物をつけて動き回れるはずがない・・・
自らやられに行くようなもんではないのか?と。
現に、体力なさそうなヤツはすでに歩いているだけで
ヘロヘロであったのを俺は見ていた。
郷に入っては郷に従うというが
さすがに従えないなぁ~と思った。




