第7話 二年後
― Side ラウス ―
七歳になりました。
この二年で色々なことがあったぜ。イエーイ!
イリアやフィネアさんの暮らしが楽になるといいなー、みたいな気軽な感じで効率的な農法とかインに話したら採用されて大成功した。
野菜の生産量も増え、商売による収入もぐんと増えた。
水車とか肥料を作っただけで違うもんだな。
ちなみにこっそり屋敷を抜け出していた罪はきっちり清算したぜ。俺の尻が。
ホーン先生とインの授業も一年前に全て学び終わった。
魔法は元々使えたし、算術とかこの世界は足し算から割り算までしかないんだぜ。余裕すぎっしょ。
その頃から屋敷や村で俺が神童とか言われだした。
調子に乗った俺はどうせ神童とか呼ばれるなら好き勝手してやろうと爪切りやオセロにチェス等を作った。
そこまでは良かったのだが魔物の魔石から魔道具が作れると分かってからやりすぎた。
物を無限にしまえる【アイテムポーチ】や洋式トイレ【SUISEN】など、6歳の子供が発明するにはありえない代物を世に出してしまった。
さらに俺が領地内での亜人の待遇を改善したのも影響したのだろう。
亜人の迫害や差別を禁止したことで俺の領地には爆発的に他種族が増えた。
一体どこから聞きつけてきたのかというぐらい村に亜人が溢れた時は本当に驚いたぜ。
あの時は本当に忙しかった。
インと一緒に亜人達に仕事を与え、食料や住居の問題を解決せねばと奮闘しまくったからな。
おかげで村が街に発展しちまったよ!
本当にやばいときは俺の魔法チートという力技もこっそり使ったが。
俺が亜人待遇を改善しようとしたのはエルフも亜人に入っていたからだ。イリアのためにもあとに引くわけには行かなかった。
俺の発明で領地はかなり発展して街の名前が『ゴラウス』になった。
名前がストレートすぎると猛反対したがいつの間にかインが国に申請しており、住民にも浸透していて手遅れだった。
それは喜ばしいことだけではなく、俺は両親や兄弟から目をつけられることになった。
神童と呼ばれた俺を次の当主にしようと考える者や、その危険が出た俺を始末しようとする輩が現れ始めたのだ。
まあ暗殺者とか余裕で撃退できるので問題ないですけど。
やられたらやり返す! 倍返しだ!
そんなノリで倒した暗殺者は闇魔法で洗脳してから自分の雇い主を殺すよう命じといた。そしたら数ヵ月後には兄弟が半分ぐらいになったのには驚いたよ。
週3で暗殺者送り返していたらそうもなるか。
このままいくと俺以外の兄弟が全滅しそうだな。
あまり兄弟が減ると余計に俺が目立つから嫌なんだけど。
インも「次期当主はお坊ちゃまに! そして私は、むふふ」とか言ってるし、勘弁してくれよ。俺は将来冒険者になるって決めているんだ。
だから成人したら名を捨てて家族とは縁を切るつもりなのだが、インには言えないな。
まあ今のところ俺がいなくなるとゴラウスが回らなくなりそうだから離れはしないけど、貴族っていうのは本当に面倒だ。
唯一の救いは王都から招集されないことだな。
俺の発明した【アイテムポーチ】と【SUISEN】だけでも歴史に残る大発明らしいからな。両方まだ俺にしか作れないし。
普通なら王に呼ばれて報酬が貰えるらしいがそのへんは上手く親父達が情報操作をしているのだろう。
こういう時はせこい親と兄弟に感謝だな。
「お坊ちゃま、鍛冶屋のドワノフから連絡がありましたよ」
「なんだって?」
「はい、例のものが完成したので受け取りに来い、と」
「そうか、わかった」
俺は街の鍛冶屋ドワノフの店に向かう。
ドワノフの店はボロくて今にも崩れそうな木造りの建物だ。
鍛冶場を住居にしているので中には日用品も転がっている。店の中は汚れていて薄暗く、足元には無造作に武器が落ちている。
これはドワノフの作った武器ではなく、盗賊やゴブリンから奪った古びた武器だ。
「来たぞー、じいさん」
「おお、来たかラウス坊」
火事場の奥から上半身裸の筋肉男が現れる。
無造作に長く伸びきった白い髪と髭、体はスラリとしているのに背が低い。
亜人ドワーフの特徴だ。
老人の癖に細マッチョで十分格好いいと俺は思うのだが、同族から見るとヒョロヒョロで貧弱者と馬鹿にされるらしい。
「頼まれていたもの(・・)ができたぞ」
「おお! それをずっと待っていたんだ! 早く見せてくれ!」
「そう慌てるな、ほれ」
「…おおっ!!」
ドワノフからひと振りの剣を渡される。
それを見て俺は感動した。
剣は美しい銀色の刃でミスリルが使用されていて、柄もミスリルで造られている。完全に銀色の剣。
俺の身長に合わせて普通の剣よりも刃は短いがミスリルはとても高価かつ貴重なのでちょうどいい。
ミスリルの剣は美しくドワノフの腕が一流だとひと目でわかる。
だがそれ以上にすごいのが…。
「すげぇ、ここまで魔力が通るのか…」
ミスリル鉱石の特徴は魔力を通しやすいことで有名だ。
自分専用の武器に魔法剣が欲しくてドワノフに頼んだのだが、このミスリルの剣は予想以上だ。
【操魔の魔眼】で魔力を剣に流しているのだが一向に底が見えない。
剣が魔力を蓄えているのだ。
「じいさん、これ…」
「気づいたか、それは完全にミスリルのみで造った純剣じゃ」
「純剣!? でもそれって…」
「そうじゃ。ミスリルのみで造られた武器は柔らかく脆い」
「それじゃあこの剣は…」
「ああ、普通の剣と打ち合えば簡単に壊れてしまうじゃろう。だが、剣に魔力が内包されておる間は…」
ドワノフが剣を見る。
ミスリル剣は俺の魔力を内包して薄らと白く輝いている。
「ああ、分かるよ。魔力を込めたこの剣ならドラゴンでも斬れそうだ」
「がはは! それは言い過ぎじゃないかえラウス坊よ」
「そんなことねぇよ、この剣はそれぐらいやばい代物だ」
なんせ俺の本能が絶対にこの剣に斬られるなと叫んでいる。
試し切りをする気が起きないのも容易にこの剣を振らない方がいいと本能で感じているからだ。
「ふむ、ラウス坊やの目利きにはいつも驚かされるわい。 確かにその剣には【魔力貯蓄無限】と【放出魔力3倍】の魔法を付与しておる」
「何だよ! そのデタラメなスキルは!?」
【魔力貯蓄無限】と【放出魔力3倍】!?
それ完全にチート武器だよね!?
【吸魔の魔眼】で大気中の魔力を集められる魔力チートな俺と魔力を全て受け取る事ができる剣、それを3倍で放出とか最強の組み合わせだろ。本気でドラゴンを斬れるどころかひと振りで山も消し飛ばせるんじゃねぇか?
【操魔の魔眼】がないと怖くて扱える気がしないぜ。
「じいさん良く無名だったな」
「がはは! ラウス坊のように魔力操作に長けた剣士など滅多におらんからの。
いや、この村にはもう一人おったな」
「イリアか…、あいつにはこんなやばいもん造らないでくれよ」
「がはは、分かっておる」
「それじゃあ、これ報酬な」
俺は【アイテムルーム】から酒ダルを取り出してドワノフに渡す。
「おおっ、これで久しぶりに酒をたんまり飲めるわい!」
「本当にこれだけでいいのか? これほどの剣、金貨千枚でも足りないぐらいだろ?」
ちなみにこの国の通貨は、銅貨、大銅貨、半銀貨、銀貨、金貨、白金貨の6種類有り、銅貨=十円、銅貨十枚で大銅貨一枚と、十枚毎に通貨の価値が上がる。
つまり金貨千枚は一億円と同価値だ。
「いいんじゃよ。素材はラウス坊が用意したものじゃし、ワシは自分の造った剣を振るうに見合う男に出会えただけで鍛冶神トールに感謝じゃ。
ほれ、その剣の鞘に腰に付けられるよう専用のベルトじゃ」
そう言ってニッとドワノフは笑う。
薄暗い火事場の中では不気味なだけなのだが今の俺にはドワノフが超イケメンに見えた。
こうして俺専用の異世界のMy武器が手に入った。
「それにしても凄いな、本当に【魔力貯蓄無限】なのか?」
実際俺も【収納無限】のアイテムポーチを作ったのだが、どうも無限というのが自分でも理解していない。
【吸魔の魔眼】で大気中にある微量な魔力を集めて剣に流しこでいるのだが、満タンになるどころか欠片ほども溜まっていない気がする。
既に俺の数倍の魔力を込めているのに。
まあいいか、装備したまま継続的に魔力を流してどうなるか試してみよう。
「あっ!」
屋敷に帰ろうとしていると誰かが【ソナー】を発動した。
距離は大分離れているがイリアの感知魔法だな。
このまま屋敷に帰ってもいいがそうすると後で面倒だしな。完全に見つかったみたいだから諦めるか。
俺はのんびりその場に座り上空を眺める。
すると空から赤い火球が飛んできた。
「おっ、来たか」
「おにいちゃーん!!」
「ちょっ! 減速しろ、減速!」
風と火の複合魔法【ジェット】で手足から炎を噴射して飛んでいるイリアが俺に向かってきた。
直撃は免れないので風と水の複合魔法【バブル】で受け止める。粘着性を持った水の大玉にイリアは勢い良く突っ込んできた。
イリアの放つ熱で【バブル】は蒸発していくが無事に受け止めきる。
「おにいちゃん久しぶり! イリアすごく会いたかったよ!」
「二日前に会ったばかりだろ! お前絶対に他の人に突っ込むなよ!」
無邪気に笑いながら俺に抱きついてくるイリアを叱るが全く聞いていない。
【ジェット】で突撃されたら一般人なんて丸焦げで焼死体の出来上がりだ。
やはりイリアに火魔法を教えたのは失敗だったか…。