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魔法チートのなれのはて  作者: ナベのフタ
幼少領主編
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第6話 この世界の魔法

 ― Side ラウス ―

 フィオナと兎肉を食べた次の日にはインが魔法の家庭教師を雇ってきた。

 赤髪のまあまあ美人な先生だ。

 胸が少し残念だけど。


 職業が冒険者だと聞いてこの村にもギルドがあるのかと驚いたが実際に魔法を見せてもらうとテンション駄々下がりです。


 何あの魔法!?

 魔法陣とか書いて中二病全快な呪文唱えているからどれだけすごい魔法を見せてくれるのかと期待していたら、ただのウォーターボールですよ!

 水の玉一つ飛ばすのにどれだけ時間かかってんだよ!


 しかも完成までのプロセスが水出す、集める、飛ばすって長いわ! 普通に手元から水の玉を飛ばすだけでいいじゃん!


 俺に説明してくれるためにわざとゆっくり魔法を使ったのかと思えば、その後の授業でそうじゃなかったと分かるし。異世界の魔法どんだけ遅れてんだよ!


 俺が異常なのか!? 【操魔の魔眼】があるからなのか?

 そう思って【操魔の魔眼】を発動せずに魔法を使ってみるが問題なく無詠唱でできる。不思議に思った俺はどうして魔法陣や呪文が必要なのか詳しく教えてもらうい面白いことがわかった。


「魔法陣に使う文字は『魔法文字』と呼ばれ、魔法の威力、効果、範囲を固定するために必要となります。

指先から火種を出す程度の魔法なら優れたイメージ力と魔力操作ができれば無詠唱でできますが、中級以上の魔法となると魔法陣をなくしては絶対に発動できません!」


 俺普通に無詠唱で中級を使っているんですけど。そうツッコもうかと考えたが黙っておいた。


 どうやらこの世界では『魔法を使うには魔法陣!』という概念で固定されてしまっているようだ。

 日本人で言うなら『カップ麺はお湯を入れて3分!』みたいな?

 魔法陣はお湯に該当すると思われる。

 お湯のないカップ麺は食べられない! 魔法陣のない魔法は発動しない!

 

 つまり思い込みというやつだな。


 魔法陣がないとダメという思い込みがイメージに影響しているのだろう。

 その証拠に『魔法文字』を教えてもらったがどれも複雑な割に実際は意味を持たないものばかりだった。


 ホーン先生に訪ねてみても「これはこういうものだから」と非常に曖昧なお答えをいただきました。

 先生、ちゃんと説明しろや!


「それにしてもラウス君は本当に頭がいいわね。私がラウス君ぐらいの年の頃は魔法なんて全然興味もなかったわ」

「そうなんですか? 魔法って面白そうなのに」

「そう思うのはいいことよ。普通は魔法なんて難しくて戦闘に必要な兵士や冒険者でもない限り学ぼうともしないからね」


 そう、この世界では魔法は難しいという概念まであるのだ。

 確かに魔法は発動するために魔力操作を覚える必要がある。

 魔力操作は習得するまでに個人差があるが時間をかければ難しいものではない。だが、そこでつまずく人が多いのだろう。


 そこで考えられたのが魔法陣だと俺は考える。

魔法陣が魔力操作の代わりをしてくれているのではないか?

 

 あれ、俺もう先生より魔法に詳しいんじゃない?

 知りたかった魔法の種類も聞いたし、後はもう自分で試行錯誤していくしかないよな?

 でも初日でクビにもできないからな~。


 ホーン先生いい人だし、まー、いずれ大魔道士と呼ばれる(予定)俺に魔法を教えた先生ということでもう少し付き合ってあげますか。


 その後、俺は糞つまらない魔法陣の暗記という苦行をさせられることに。

 なんか魔法がヘタになりそうだ。ホーン先生が家庭教師で来るのは周2日なので我慢するしかない。


 それ以外の日はインが礼儀作法や歴史の授業をするようになった。

 やばい、俺の自由時間が!



 数日が過ぎた。

 俺はお昼の時間に屋敷を抜け出してイリアに会いにいく。


「あっ! おにいちゃん!!」

「イリア!」


 俺は毎日イリアに会いに行っている。

 一度村に行かなかった日があるのだが、次の日にイリアに聞いてみると一日中俺を待っていたらしく物凄い罪悪感に襲われた。

 それ以来イリアとは欠かさずに会いに行くようにしている。

 もう半分脅迫だよ。


 イリアの母さんにも会った。

 フィネアさんといって、金髪美人のエルフで服は継ぎ接ぎで手は畑仕事で土だらけだったが笑顔の素敵な人だった。

 包丁や鍋を新品同然にしといたことに凄くお礼を言われて、いつでも遊びに来ていいとハグしてくれた。ぼ、ぼ、ボイン。

 母親似のイリアの将来が楽しみになった。


「おにいちゃん、今日もまほうをおしえてくれるの?」


 俺とイリアはいつものように森にいる。


「ああ、ちゃんとフィネアさんにも秘密にしているか?」

「うん! だっておにいちゃんとのやくそくだもん!」


 イリアが小指を差し出してくる。

 俺も小指を伸ばしてイリアと指切りをする。

イリアはこの指切りを気に入って必ず約束を守ってくれた。


「この前教えた水魔法で水球を作るのはできるようになったか?」

「うん! みてて!」

「おおっ」


 イリアは水魔法でサッカーボールサイズの水球を手に浮かべる。

 勿論魔法陣(・・・)呪文(・・)も使っていない。

 

「えらいぞ! よくできたな!」


 俺はイリアの頭を撫でてやる。


「えへへ、だってできるのがあたりまえなんでしょ?」

「ああ(・・)、そう(・・)だ(・)よ(・)」


 これは俺の実験だったのだが上手く成功した。

 この世界で魔法は魔法陣と呪文が必要と言われていたが実際はイメージの方が重要だったのだ。だから俺はまだ先入観のないイリアに無詠唱の魔法を見せてそれが普通だと思い込ませる。


 最初は魔力操作ができずに魔法は発動しなかったが、それも俺の【操魔の魔眼】により解決した。

【操魔の魔眼】は俺以外の人の魔力も少しなら操作できる。

 それで無理やりイリアの魔力を操作して魔法を発動できる準備を整える。するとイリアがイメージするだけで簡単に魔法は発動した。


 そこからは俺の手助けはもう必要なかった。


 イリアは一度で魔力操作のコツを無意識に掴んでしまい、教えた魔法を自在に使えるようになった。あまりのスポンジ脳に慌てて他の人に魔法のことは秘密にするよう口止めしたぐらいだ。


 今の段階で俺の使っている魔法が普通じゃないと他から教わるとイリアが魔法を使えなくなる可能性があるからな。


「それじゃあ今日は光魔法のヒールを教えようか」

「うん!」


 俺は近くの木をナイフで傷つけそこへ【ヒール】を使用する。手が光り、木についた傷はすぐに塞がって元通りになった。


「イリアもやってみて、イメージは暖かい光で痛いのを治してあげる、かな?」

「うん!」


 もう一度木に傷を作りそこへイリアが【ヒール】を使う。イリアの手が光り、木についた傷を癒していく。


「できたー!」

「ああ、上手だぞ!」

「えへへ、おにいちゃんだいすき!」


 イリアの頭を撫でてやると抱きついてきた。

 俺はそのまま嬉しそうにしているイリアの頭を撫で続ける。


 イリアのおかげで俺の理論は立証された。

 このことを論文に書けばイリア世代は全員無詠唱の使い手となるだろう。


 今の魔術師の反感を買いそうだが、今いる魔術師たちも努力次第では中級ぐらいまでなら無詠唱で魔法が使えるようになると思う。かなり苦労するだろうが習得は不可能ではない。

 ただ俺はまだ5歳のガキだからな、この事を公に発表するのも数年後だな。


「ねーおにいちゃん! つぎはあたたかいお水をだすまほうをおしえて!」

「…お湯か」


 お湯を作るには水魔法と火魔法を組み合わせる必要がある。

 イリアの魔力色は赤、適性は火属性なので発動に問題はないが…。


「それはまた今度な、それより遊ぼうか」

「うん! イリアおにごっこがしたい!」

「よしっ! それじゃあ、お兄ちゃんが鬼をしてやろう!」

「わーい!」


 流石に4歳児に火魔法を教えるのは危険すぎる。

 俺はイリアには攻撃魔法は一切教えず、代わりに毎日一回は水魔法を使うように指示した。水魔法を水球以外にも色々な形に変化させて魔力操作の訓練をさせているのだ。


 これで数年後にはイリアも魔法チートだろう。











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