第5話 魔法の講師
ラウスの部屋に一人の女性が入ってくる。
20代前半の女性で赤髪に赤眼のショートヘア、顔にそばかすのある細身の長身女性だ。
― Side ホーン ―
「は、初めまして、私はホーンといって冒険者をやっております。
今日から貴方様に魔法を教えるため家庭教師として雇われました」
「ラウス・ゴ・マッハンスです。よろしくお願いします先生」
「こ、こちらこそ」
き、緊張する。
敬語なんて普段は使わないからちゃんとできているか心配だわ。
いくら目の前の子が幼いからってあの『ゴ』の大貴族様だからね、失礼を働いた日には首が飛んじまうよ。
いくら依頼料が良かったからって借金さえなけりゃ引き受けなかったのに。
くそっ、あの狼! よくも私の杖を折りやがって!
「それじゃあラウス様、早速魔法のお勉強をお始めましょうか?」
「先生、生徒に様は必要ありませんよ。敬語も結構です。普段通り気軽に話して下さい」
「そういうわけには…」
「お願いしますよ。先生」
「わ、わかったわ。それじゃあ魔法の勉強を始めましょうかラウス君」
「はい」
貴族の子供だから生意気かと思っていたら意外と謙虚じゃない。
上品で5歳とは思えない言葉遣い、流石は貴族様かしら。
それによく見れば凄い美少年だわ、将来は女の子をたくさん泣かせることになりそうね。
「それで魔法の事なんですけど、先生の魔法を一度見せてもらっても構いませんか?」
「わ、私の? そうね、一度も魔法を見ずに教えてもらうというのも納得いかないでしょうから。いいわ、先生の実力を見せてあげる」
私ったら自分でも先生って、気持ちのいい響きね。
「それじゃあ説明しながら見せるわね。
ここは部屋の中だから魔法を使用するには危ないわね、庭へ行きましょう」
私の適正属性は土だけど庭を荒らしてしまうのも良くないわ。ここは水魔法が一番危なくなくていいかな。
まずは魔法陣を地面に木の棒を使って書いていく、次にそこへ魔力を流しイメージ、最後に呪文を唱えれば。
「海の王よ! 我に力をお貸しください!
水よ! 我が手元に集まりたまえ! ウォーターボール!!」
魔法陣が少しだけ輝き、水が集まる。
私は集まった水を手元に集めて庭に木に放つ、水球は木を少しだけ揺らして地面へと落ちていった。
「ふぅ、今のが水の初級魔法ウォーターボールよ! どうかしら?」
「……」
ラウス君は唖然としている。
余程今の魔法が衝撃的だったのね。
分かるわ。私も初めて魔法を見たときはとても驚いたもの。
「ラウス君も少しだけ魔法を使えるって聞いたけど何か見せてもらえる?」
「…い、いえ。僕の魔法なんてとても見せられたものじゃありません。それより今の魔法は魔法陣と呪文を使わないとできないのですか?」
「ええ、普通はそうね。魔法陣をいちいち書くのが面倒だと思うかもしれないけど、得意な魔法ができたらその魔法陣を武器やペンダントに刻んで使うから大丈夫よ」
「そ、そうですか」
ラウス君が少し気落ちしている。
ウォーターボールの刺激が強すぎたかしら?
「せ、先生。魔法がどういうものか大体わかったので今度は他にどんなことができるのか教えてください」
「わかったわ。大丈夫よ! 先生はラウス君がちゃんと魔法を使えるようになるまで教えてあげるから」
「はは、オネガイシマス」
こうして私、ホーンはラウス君に魔法を教えることになった。
ただあれ以来魔法の実践より、魔法の種類や組み合わせばかり質問してくるのよね。
もしかして魔法に苦手意識を持たれてないよね!?