第1話 義手開発
― Side ラウス ―
ゴラウスの街を去り『魔法国家ウィザード』まで風魔法で飛んできて三日が過ぎた。ウィザードに入国するのに関所とかあったけど空飛んではいるから問題なし。
大丈夫ですか魔法国家さん? 密入国されていますよー。
俺は現在、宿屋にて失った腕をどうするか考えていた。
「土魔法で腕を作るのは燃費が悪すぎるな…」
宿屋で代金を払う際に土魔法で自分の腕を作ってみたが関節一つ動かすのにいちいち魔力で操作する必要が有り面倒だった。ミスリル剣の魔力はあれから500程度消費しただけでまだ89億はあるから大分余裕はある。
それでもいつかはなくなってしまうものだ。
今のうちに何か対策を考えないと。
「やっぱ魔道具で腕を作るしかないか?」
回復魔法を極めても失った腕を治すのは不可能だろう。魔道具による義手が一番有効な手立てと思える。
魔法国家ウィザードならそういった知識も手に入りそうだ。
それから二年、俺は義手の開発に取り組んだ。
色々な魔法を学び、材料を揃えて実験の毎日。
宿屋では実験しづらいので人気のない森に家を作り、そこで義手の開発をしながら暮らすことにした。ネズミや魔物で実験もしたが開発は中々進まずにいた。
何よりも魔道具の開発には常に魔力が必要で、この二年でミスリル剣に蓄えた魔力を半分の50億も消耗した。魔力1万のファイアーボールで村一つ消せる威力と考えると凄まじい消費量だ。
上級の魔術師の魔力量の平均は300ぐらい。俺の魔力量は500が限界なので現実的には1万の威力を持つ魔法は撃てないが。
俺はミスリル剣から魔力を自分に移せるのだからまた正常な体に戻せないか調べてみた。結果はお手上げだった。
義手開発の片手間では到底分かりそうにもなかったので魔力回復については後回しにすることにした。
義手の試作一号が完成したのは二年と半年が過ぎた頃だ。
普通の腕と同じ形、ちゃんと五本指で意思どおりに動く。生身の腕とはいかなかったけど他は完璧な義手が完成した。
義手の材料には特殊な鉱石を使用している。
それはスライムと水晶を融合させた魔法鉱石。俺はこれを『マテリアル』と呼ぶことにした。透き通った石で、色が濃いピンクというのが派手すぎるが…。
『マテリアル』は俺の二年の研究の結晶とも言えるので出来るだけ大量につくり【アイテムルーム】に保管した。
それからさらに半年をかけて生身の腕に見せる方法とその反対に義手の攻撃力を上げる開発をした。
生身の腕バージョンは見た目が普通だが戦闘向けではない。
その点戦闘用の義手は西洋の篭手のように少しゴツくなるがギミックを満載にできる。例えば代表的なのはロケットパンチ! …回収がとても大変だった。
ロケットパンチは失敗したが肘からジェット噴射で放つマッハパンチや、指先からレーザーを出したり、腕を剣に変形させたりと色々な機能を付けることができた。
これから一人で生きていく必要がある俺は見た目より性能重視を選んだ。腕が目立ってしまうが白い布を巻いて置けば少しは隠せるだろう。
「よっしゃー! 三年ぶりに街に行くか!」
三年も森の奥に引きこもることになるとはな!
俺10歳! 超人恋しい!!
「冒険者になりにいっきまーす!!」
ハイテンションのまま街に向かって駆けていく!
うっひょーい! ギルド超楽しみ!
三年ぶりにやってきた街。
そこの冒険者ギルドに登録に行くが…。
「あのね冒険者になれるのは12歳からなの」
「うっ、ひぐっ、でも、おれ…冒険者に…なりたく…て、ひぐっ」
「ごめんね。規則だから」
涙と鼻水が止まらない俺に微笑む受付嬢。
こんな仕打ちあんまりだ!
冒険者になるための年齢制限は12歳。俺はまだ十歳なので後二年待たないと登録できないのである。
諦めずこういう場所って賄賂でなんとかならないかと金貨を出してみせる、
「泣かないでお嬢ちゃん。それにこんな大金軽々しく見せてはダメよ」
ダメでした☆
あんたのせいで涙が止まらないよ!
「それにお嬢ちゃんはそんなに可愛いんだから男の子のフリをしてまで冒険者にならなくても…」
お嬢ちゃん? 確かに髪の毛は伸ばしっぱなしで俺は美少年だが…。
アイテムポーチから鏡を取り出して自分の顔を見る。
…うん。超美少女がおるで。
服が男物で俺口調だけど普通に女の子と勘違いするな。
隻眼なのを差し引いても超美少女!
「ね? お嬢ちゃんは冒険者よりも楽しいことがたくさんあるから」
「ううっ、それでも…冒険者になりたいんです~」
「ごめんね~」
「ううっ、うえ~ん!」
それから30分も粘ったのに冒険者になれなかった。
規則ぐらい目を瞑れやっ!!
後2年もどうしろと?
「まー、やることはあるといえばあるけど」
さっきも鏡で気になったように失った右目の代わりを作るか、それとも失った魔力を元に戻す術を探すか?
でもまた森で引きこもるのは嫌だしな~。
「それに眼の治療とか一人じゃ無理だしなっ!」
不満を叫びにする俺。
独り言の大きな痛い子です。
嫌だな~、ずっと一人でいると独り言ばかり喋るようになる。
「あー! いいこと考えた!」
手を鳴らす俺に通行人たちが注目する。
なんです? 道中で喋っちゃいけないんですか?
俺は道行く人に訪ねて奴隷商の店を探した。
今思えばもっと早く気づけばよかった。一人が寂しいなら奴隷を買えばいいじゃない!
奴隷なら主人の言うことは絶対服従だし、裏切ることもない。
それに綺麗なお姉さんを買えばおっぱい揉み放題やで、ぐへへ。
奴隷商に着くと脂ぎった豚オヤジが現れた。
オーク? いや、人間のような気もする。オークと人間のハーフかな?
「お嬢ちゃん、パパとママはどうしたんだい?」
「ママンは超放任主義でパパンには捨てられた!」
「可哀想に…それで自分を売りに来たんだね?」
太った茶髪天パの脂豚が俺に哀れみの目を向ける。
なんか勘違いしてね?
「心配しなくてもいい。お嬢ちゃんならきっと高く売れるから」
マジか!? 俺いくらぐらいになる?
隻眼に両腕義手だけど大丈夫? 返品されない?
おい、おっさん! 何首輪の用意してんだ!
身売りなんかするわけねぇだろ! 冗談だよ馬鹿!
いい加減客と分からせるか…。
「いいえ、売るのではなく買いにきました。ボインの姉ちゃんが欲しいです!」
俺は欲望に忠実な男だ。奴隷は一生モノだからちゃんと自分の要望は伝えないとね!
「はは、面白い冗談だね。きっとお客にも気に入られるよ」
この脂豚! 俺が客だって言ってんだろ! 唐揚げにすっぞ!
「それじゃこの首輪と契約書にサインしてね」
「おっさん俺客だから」
面倒なのでアイテムポーチから金貨を数枚取り出してみせる。チップとしていくらかおっさんの手に握らせた。
おっさんはようやく勘違いに気づいたのか接客スマイルになる。
「これは失礼しました。お客様、本日は何をお求めでしょうか?」
「ボインの姉ちゃんです!」




