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魔法チートのなれのはて  作者: ナベのフタ
幼少領主編
14/37

第12話 旅立ち

 ― Side ラウス ―

 身一つで森の中に捨てられた俺。

 右目は全く見えないので失明したか潰れたかだ。両腕がないので確認のしようもない。


「両腕がないとか詰んだな」


 さっきから【操魔の魔眼】も試しているが発動しない。

 左目は視力が大分落ちたものの見えはする。魔眼が発動しないのは魔力不足か、それともこちらも効力を失ったのか…できれば魔力不足であって欲しい。


 とりあえず身一つというのも危険なので魔道具でも取り出そうと【アイテムルーム】を開こうとする。


「あれ、開かない?」


 やはり魔力切れか?

 けどずっと眠っていたわけだし全く回復していないというのもおかしい。

 うーん、想像以上にまずいことになったな。

 今魔物に襲われたら100%死ぬ。


「ガルァ!」

「早速キタァッ!!」


 狼のような鳴き声の兎の魔物。サイズも狼並みなんだよね。

 いつも瞬殺してイリアやフィネアさんと一緒に食べたっけ。肉がジューシーで美味しいんだよな~。随分懐かしい気がする。

 ああ、あの頃に戻りたいな。


「ガルァッ!」

「うるせぇぞデカ兎! 空気読めや!」

「ガルル!」


 俺はやけくそで魔物にドロップキックをおみまいするが分厚い毛皮でダメージは通らない。

 はい、俺の人生オワタ。

 兎が俺に襲ってくる。


「誰かぁぁぁぁぁ! ヘーーーーールプ!!」

「お坊ちゃまーーーーーーーーー!」

「ガルァッ!?」


 そこへ流星のごとくインのドロップキックが飛んできた。

 兎の魔物は数十メートル先へと吹き飛んでいく。ご愁傷様。


「イン!?」

「お坊ちゃまご無事ですか!」

「来るのが遅いよ、このバカ!」

「申し訳ありません!」


 インが素直に謝罪した?

 あれ? バカとか言ったから殴られるかと思ったのに。

 明日は嵐か?


「本当に申し訳ありません! ラウスお坊ちゃま」

「イン…」


 インは涙を流しながら俺に頭を下げる。

 なんだか釣られてか俺も泣きそうになる。


「本当に…遅いよ」

「申し訳ありません」

「イン……、あっ」


 俺はインに手を伸ばそうとして腕を失っていることを思い出す。

 肘の先から無くなっている腕を見て苦笑するとインはとても辛そうに泣きながら俺を抱きしめてくれた。


「インは、インはお坊ちゃまのメイド失格です! お坊ちゃまをお守りすることができず、今もこのような場所でお坊ちゃまをお一人にしてしまい!」

「イン」

「お坊ちゃま、お坊ちゃま、目が覚めて本当に良かった!

 インはずっと心配で、心配で!」

「…苦しいよイン」

「はっ、申し訳ありません!」


 インは慌てて俺を離した。

 全く、今は身体強化が使えないんだから気をつけてくれよ。

 背骨ミシミシだったよ。


 インの姿をよく見れば服はボロボロで靴も壊れている。余程慌てて追いかけて来てくれたのがわかる。


「イン、ありがとう」

「いえ、私はお坊ちゃまのメイドですから」

「ああ、そうだったな」


 インには本当に感謝だな。

マッハンス家から勘当された俺をこうして助けに来てくれたんだ。普通ならとっくに見放している。

本当に信用できる人がいるというのはいいものだな。


「それではお坊ちゃま、さぞ混乱していらっしゃるでしょうが現状の説明はお屋敷に戻ってから…」

「いや、いいよ。大体知っているから」

「知っている…ですか?」

「ああ。信じられないかもしれないが眠っている間のことを覚えているんだ」

「それは、本当ですか?」

「イリアがドラゴンキラーになって王都に呼ばれたこと、親父がきて俺を勘当したこと、全部覚えているよ」


 親父に関しては知りたくなかったがな。


「そ、そうですか。あ、あの他には?」

「ん? 他?」


 見ればインが青い顔で大量の汗を流している。

 何か怪しいぞ。


「イン、お前…寝ている俺に何かしただろ?」

「い、いえ! な、なんのことでしょうか? 具体的に言ってもらわないと分かりませんねぇ!」

「ほう、じゃあ何かしたことは認めるんだな?」

「い、いえ! そのっ」


 インのかつてない慌て様に俺はジト目で見つめる。

 

「答えろイン。何をした?」

「…そ、その私は…」


 じ~~~っ。


「その、お坊ちゃまがあまりにお目覚めにならないので…チャンスと思い…既成事実を作っておこうかと」

「おまわりさ~~~ん!!」


 俺は大声で叫んでやる。

 メイドの分際で眠っている主にいたずらなど許されはしない!

 それに俺の年齢と法を当てはめても奴は完全に変態だ!!

 俺が許しても法が許しはしない!


「だ、大丈夫です! お坊ちゃまに***はまだ早かったようで、そ、その、***できませんでしたので!」

「おまわりさ~~~ん!!!」


 こいつは信用できるとか、超撤回するわ。

 ただの行き遅れのド変態でした。



「…それで、これからどうなさるので?」

「どうって屋敷にはもう戻れないから俺は冒険者になって自由に生きようと思う」

「そんなっ! 今回のことはあまりにも横暴です。私が先代様に異議を申し上げグリバ様にお坊ちゃまの勘当を解くように頼みますのでお考えなおしください!」

「いや~、それは無理だと思うぞ。あの親父が一度言ったことを撤回するとも思えない。それに俺はこれで良かったとも思っているんだよ」

「良かった、ですか?」


 インの問いに俺は頷く。


「俺はいずれマッハンスの名を捨て、冒険者になって自由に生きようと思っていたんだ。だから俺の妻になって領主婦人になるっていうインの夢は悪いけど叶えられないよ。

 次に来る新領主がいい人物であることを祈って頑張ってくれ」


 俺はなるべく平然を装い笑ってみる。


「お坊ちゃま、そのようなことを言わないでください」

「それに貴族は面倒事だらけだしな。向こうから止めさせてくれるのなら願ってもないことだ」

「お坊ちゃま!」


 インが俺を抱きしめる。


「お坊ちゃまがいなくなってはゴラウスの街はどうするのです? 屋敷の皆もお坊ちゃまのお帰りをお待ちしているんですよ」

「イン…」

「どうか、どうかゴラウスにとどまってください。

 私がどんな事をしてもお坊ちゃまをお守りいたしますから」


 その言葉には確かな覚悟があった。

 今更領主に戻れるはずがないと思っていたがインならなんとかしてくれるのではないか?

そんな風に思えてしまった。それでも俺はもう領主に戻るつもりはない。


 この世界の自分の父親や兄弟を見て貴族というものは本当に嫌になった。もしも俺がこのまま領主の座に戻れたとしても暗殺者や政治で苦労するだけだ。そんなもので俺は人生を終えたくない。


 このままゴラウスを去ることが悲しいのも事実だが。

 本当はもう少し亜人達にいい暮らしができるようにしてやりたかったし、イリアのことも見守ってやりたかった。

 

「イン、俺は行くよ。でも、もしインがまだ俺について来てくれるというのなら一緒に行くか?」

「お坊ちゃま…それは、できません」

「どうして?」

「私はマッハンス家に大恩ある身、先代当主様の時に竜人の誓いを立てたのです」

「竜人の誓い?」

「はい。竜人が行う儀式の一つで、私が誓ったのはマッハンス家で従者として仕えることです。そして竜人の誓いは契約者が死ぬまで果たさねばならないのです」


 知らなかった。インにそんな制約があったなんて。


「それでインの契約者って?」

「はい。現在はご隠居なされている先代当主様です」

「それはなんとかできないの?」

「…」


 インは力なく首を横に振るう。

 そうか、俺の祖父と契約しているのか…。

 祖父ちゃん今年で何歳だっけ?


「先代様のお年でしたらまだ十年はご健在でしょう」


 心を読まれたな。俺そんなに分かりやすい顔をしていたか?

 でも十年か…インはまだ長い時間マッハンス家を離れられないんだな。

 行き遅れだとか思ってごめんよ。

 非は俺の祖父ちゃんにあった。


「じゃあ十年後にまた会いに来るよ」

「えっ?」

「竜人の誓いとやらが終わっているかは分からないけど、十年もすれば皆俺のことなんかも忘れてこの街に戻ってくることも難しくないでしょ」

「迎えに来てくださるのですか?」

「そうだね。インさえ嫌じゃなければ迎えに来るよ」


 そしたら一緒に冒険者でもやって自由に暮らすか。

 

「お坊ちゃま、インは待ちます! だから絶対に迎えに来てください!!」

「お、おう」


 すごい気迫、ちょっと引くわ~。


「そしてその時はお坊ちゃまの奥方にしてくださいね」

「お、おう」


 これは冗談だよな。

 どこの世界に7歳児に結婚を催促するバb…。


「絶対ですよ!」


 インの目がギラリと光る。

 怖いよー、マジだよ、このメイド。


「わ、分かった。約束する」


 俺はインの気迫に半ば強制で婚約させられた。

 まあ十年後なんて当分先だからいっか。

 そう思っていた俺の唇にインの唇が重なる。

 …えっ、ちゅー?


「約束しましたからね」


 インは口元を手で隠し、頬を赤く染めて微笑んだ。

 あっ、ちょっとグッとくる。

 奴はとんでものないものを盗んで行きました。


「それとお坊ちゃま、これを…」

「あっ、それ」


 インが自分のアイテムポーチから俺のアイテムポーチを取り出す。

 良かった。何も持っていないのは流石にきついからな。

 アイテムポーチ内には俺の財産や魔道具、食料が詰まっている。

 そしてミスリルの剣もインが入れてくれていた。


 インに頼んでミスリルの剣を口にくわえると、剣から魔力を受け取ることができた。元はエンシェントドラゴンの魔力だが、【吸魔の魔眼】で奪うと俺と同じ魔力に変換される。

 魔力を受け取ることで【操魔の魔眼】が使用できた。良かった。左目の魔眼は無事だったか。


「お坊ちゃま、本当に大丈夫ですか? 両腕を失って冒険者だなんて」

「心配するな。この剣には魔力をかなり蓄えている。俺は魔力を失ったが剣のおかげで当分は魔力の心配はないし、この腕のことだって対策は考えるさ」


 俺はインの目の前でミスリル剣を宙に浮かせて自在に操って見せる。

 初めて見せる無詠唱魔法にインは目を見開く。


「全く、お坊ちゃまは本当に規格外ですね。…グリバ様はこれほどの才を持つ自分の子供を勘当するなんて」


 インは呆れるようにため息を吐いた。

 それは俺にでもあったが、それ以上に親父の方への失望が大きかったのだろう。


「はは、それじゃあもう行くよ。ゴラウスの街を頼んぞ」

「はい。お任せ下さい」


 約束を忘れないでくださいね。

そうインが最後に呟いたのを聞いて頷く。

 俺はそのままインに背を向け歩きだす。後ろから啜り泣く声が聞こえたが振り返りはしない。


「お坊ちゃま~! 私が正妻でイリア様が側室ですからねー!

 側室は三人までですよ! それ以上増やすとお仕置きですからね!」

「ぶっ!」


 思わず吹いちまったじゃねぇか!

 側室が三人って、ちょっと興味はあるけど…。

ダメだ俺! 自分を強く持て! 俺は糞親父みたいにはならねぇ!


 大体どうしてイリアが数に入ってんだよ! イリアは俺にとって妹みたいなもんだぞ。それに、もう会うこともないだろう。


俺はこの国から出るつもりだ。国内だとどんな厄介事に巻き込まれるかわからないからな。だがイリアは『ドラゴンキラー』として王都で暮らすことになる。

 次に会う時が来たとしてもその時にはもうお互いどうなっているか分からないからな。どのみちマッハンス家を勘当された俺が『ドラゴンキラー』であるイリアと結婚できるわけがない。


 この世界では『ドラゴンキラー』はある意味貴族よりも地位が高いのだから。


「悪い女に騙されちゃダメですよ~! どうしても我慢できないときはインの事を思い出してすっきりして…」

「うるせぇよ! 黙って見送れや! この糞バb…」

「いけないっ!」

「がはっ!」


 超高速で投げ飛ばされた先程の兎の魔物の死体が俺にクリーンヒット。そのまま一緒に飛んでいく。


「お坊ちゃま! お達者で~!!」


 あのメイド許さん。

 俺は兎の魔物と数百m吹き飛ばされる。落下の瞬間は風魔法で無事着地した。

 ついでに兎の魔物をアイテムポーチに収納する。


「ふぅ、あの口うるさいインともこれでしばらくはお別れか」


 あれ? 目から汗が。

 感傷的になってしまったな。男の旅立ちに涙はいらねぇ。

 これからは自分の力だけで生きていくんだ。


「オラ、ワクワクしてきたぜ」


 腰に差したミスリル剣から魔力を満タンまで自分に流す。

 俺は魔力が回復しない体になってしまったから大事に使わないと。最もエンシェントドラゴンの魔力のほとんどが貯蓄されているのだから数年は心配する必要はないだろうけど。


「いくか!」


 風魔法で体を浮かし、空へ舞い上がる。

 目指すは『魔法国家ウィザード』だ!




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