プロローグ
突然だが目覚めてまだ頭が正常に働いていないというのに自称神と名乗る光の玉が挨拶してきたらどう思うだろうか?
―あっ、眩しい。
俺は電気を消そうとスイッチを探したよ。
「ちょっ、寝ぼけてないで起きてよ! あと僕は神様だよ!
電球じゃないんだからスイッチなんてないから!」
「え、いや神様とかどうでもいいんでとりあえず電気消してくれます?」
「電気じゃないって言っているでしょ!!」
自称神様は電気を消してくれなかった。
何だよ、迷惑な電球だな…ZZZ。
「寝るなぁぁぁー!!」
やれやれ、うるさいな。
「全く、夢にしては鬱陶しい」
「くそう! 夜中に呼び出したのは失敗したよ!」
「…あれ? 夢じゃない?」
眠りからようやく意識を覚醒するとそこは白い空間でした。
やばい、何でこんなところに居るの?
「ようやく目を覚ましたようだね」
「…神様?」
「そうだよ。僕は神さ!」
「…」
突然のアクシデントにパニックになる者、逆に冷静になる者、俺は後者だったようだ。
今は脳がフル稼働して現状を把握しようとしている。
「君を僕のもとへ呼んだのは一つ提案があっての事なんだ」
「はあ」
「君、異世界に転生してみない?」
「…はい?」
何だろう…。意識はハッキリしていたから夢じゃないと思っていたのに、急に夢に思えてきた。
だってそうだろ、目が覚めたら白い空間にいて神に異世界転生を勧められるって…。
「夢ですね」
「夢じゃないよ」
「いやいやいや、異世界転生とか俺の願望でしょ! 30にもなって働きもせずネット小説ばっか読んでいたからついにこんな夢を…やべぇ、廃人だよ」
「何度も言うけれど夢じゃないよ。あんまり現実逃避ばかりしていると異世界行きの切符を逃しちゃうよ?」
「神様、俺を異世界へ転生させてください!!」
俺は即効で土下座して頼み込む。
夢だと思ってはいても神には負けたよ。
「素直でよろしい。今までの無礼は許してあげるよ」
「ははぁ! ありがたき幸せ!」
「それで本当に異世界に転生しても大丈夫?」
「はいっ! 大丈夫です! 異世界には自信があります! 精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
「う、うん。何か仕事の面接みたいになっているけどそうじゃなくて、君にも家族や友人とかいたりするでしょ?
別に君は死んでいるわけじゃないから普通に今までどおりの生活にも戻れるよ?」
「えっ、俺死んでないの?」
そっか、まだ生きているのか…どうでもいいや。
「異世界転生でお願いします!」
「本当にいいの?」
「はい」
だって俺の家族っていってもそんなに仲がいいわけじゃないし、30にもなっても無職の俺は見放され気味だからな。
友達も0で生きがいといえばアニメやラノベぐらいのもんだ。
見た目も地味で能力もない。そんな俺が地球でどうしろって言うのよ。
「それじゃあ君には特別な力を授けようと思う」
「チートですね!」
「うん、君には魔眼をプレゼントしてあげるから能力に要望があるのなら聞くけど?」
「魔眼ですか?」
魔眼か、戦闘系にするなら即死とか石化みたいなのが強力だな。
神様がくれるっていうぐらいだから相当チートもOKじゃないのか?
「質問してもよろしいでしょうか?」
「いいよ」
「俺の転生する異世界って魔法とかあるんですか?」
ここ重要。
地球とたいして違わないんじゃ絶望しかねぇよ。
「あるよ。君が転生する異世界は魔法やドラゴンが存在するファンタジー世界ってやつさ。文明は君の住んでいたところに比べると大分遅れているけどね」
「それは最高ですね!」
「はは、それで魔眼の能力はどうする?」
「…ちなみに異世界で最強の魔眼は何ですか?」
「うーん、異世界人で魔眼持ちはほとんどいないけれど有名なのは…」
神様は俺の目の前に目玉を出現させる。
目玉それぞれ瞳の色や形が違う。
俺が目玉を見るとその能力が脳内に流れ込む。
― 即死の魔眼:視線を合わせるだけで対象を即死させる。
― 石化の魔眼:視線を合わせることで対象を石化させる。
― 予知の魔眼:未来を予知できる。
― 癒しの魔眼:怪我や病気を治す。
「こんなものかな。異世界人で魔眼を持つ人は本当に少ないからね。
ここにあるのをそのまま選んでもいいけど僕はオリジナルをおすすめするよ」
「魔眼は発動するにはやはり魔力を消耗するのでしょうか?」
「いい質問だね。勿論魔眼は魔力を消費して発動するよ。
だから強力すぎる魔眼だと魔力が足らずに発動できないなんてこともある。
異世界人に魔眼持ちが少ないのはそれが理由でもあるからね」
「へぇー…」
それって転生した自分が魔力少なかったらどうしようもないんじゃ。
「はは、そんな心配しなくても大丈夫。
転生する君の肉体は最高の素質を持っているからね。魔力も何もしなくても常人の数倍はあるよ」
「ホッ」
てか普通に心読まれた?
「まあ、魔力を多く望むならそういった能力の魔眼を選ぶのも手だよ」
魔力チートか、それもいいけど既に常人の数倍あるのなら他のがいいな。
やっぱり戦闘系で俺TUEEEEEEしたいしな。
「相手のスキルを奪う魔眼とかできますか?」
「それは難しいな、スキルを奪うってことは相手の経験や技術、知識を自分のものにするってことだから、脳と精神にかかる負担が大きすぎるよ」
「そうですか、物を生み出すとかは?」
「それはできるよ。魔法で火や水を出すのと大差ないからね」
「聖剣とか魔道具も出せますか?」
「それは無理。そんなことができるなら最初からなんでもできる魔眼を君にプレゼントしているよ」
ですよねー。
そうなると制限きついな。神といえどそこまで万能な魔眼のプレゼントは無理らしい。魔眼の能力は攻撃特化ではなく補助系の方が使えるかもしれない。
転生する肉体が天才なら魔法を覚えて俺TUEEEEEEできるからな。
そうなると自分の身を守れる魔眼がいいか。
異世界は命の危険が多そうだからな。
防御系か…何がいいだろう?
「悩んでいるね。そんな君に僕から一つおすすめを紹介しよう」
「参考までにお願いします」
「僕がおすすめするのは【吸魔の魔眼】。魔力を吸収して自分へと変換する魔眼だよ」
「は、はあ」
「あれ、反応が薄い」
えー、だって地味すぎでしょ神様。
それって上級者向けの魔眼でしょ。
夢が足りないよ、夢が!
「失礼な事を考えているようだけどこれは名前以上に高性能な魔眼なんだよ」
うっ、心読まれた!
「いいかい? 魔力を吸収するということは魔法を無効化できるってことだよ。
魔法だけじゃなく生き物に対しても有効さ。異世界では魔力はほとんどの生き物に宿っているからね。魔力さえ奪ってしまえば簡単に相手を無力化できる。
考えてもご覧よ、自分は魔法使い放題で相手は魔力切れでヘロヘロ」
「おおっ!!」
それってチート過ぎだろ!
俺異世界最強になっちゃうよ!
「うんうん、この魔眼の凄さを理解してくれたみたいで嬉しいよ」
「はい! 【吸魔の魔眼】でお願いします!」
「分かったよ。それじゃあもう一つはどうする?」
「へ? もう一つ?」
「両目とも【吸魔の魔眼】でもいいけれど違う魔眼もあったほうが便利でしょ?」
「は、はあ、そりゃあ、勿論」
マジかよ! 【吸魔の魔眼】だけでもチートなのにもう一つ貰えるの!?
「ただし左右違う魔眼にすると両目の時より負担が大きくなるけどどうする?」
「あー、大丈夫です! 二つください!」
「分かった。それじゃあもう一つ僕のおすすめを言うね。
君はあまりこういうのを考えるのは得意じゃないみたいだから」
おお、神様に馬鹿のお墨付きをもらった。
やっぱ俺って馬鹿だったのか。
まあ、頭良かったらニートやってないわな。
「二つ目は【操魔の魔眼】、これは魔力を目視できて、魔力を精密操作できるようになるんだ」
「…」
「また地味だと思っているね」
ギクッ!
「いいかい? 魔力を完全にコントロールできるってことはとてもすごい事なんだよ。たとえどれほどの魔力があっても制御できなければ無駄でしかない。
だけど魔力を自在にコントロールすれば魔法の威力も習得速度も段違いになり、魔力を自分の周囲に展開すれば索敵も可能。その他にも…」
神様は興奮気味に魔力操作の魅力について説明してくれました。
その結果…。
「俺【操魔の魔眼】に決めました!」
俺はとてもいい笑顔で返事をした。決して洗脳ではない。
こうして俺は右目に吸魔、左目に操魔の魔眼を神様から授かった。
「うん。それじゃあそろそろ転生させるね。
記憶は不自然のないよう生まれてから徐々に戻るようになっているから安心してね」
「了解です! 神様本当にありがとうございます!
夢じゃなければ一生このご恩は忘れません!」
再土下座の俺。
「はは、夢じゃないよ。それにそこまで気にしなくてもいいよ。君を転生させることは僕にもメリットがあるからね」
「?」
「ああ、今のは忘れてくれて構わない。
それじゃあ、いってらっしゃい」
神の光に包まれる。
こうして俺、無職30歳は転生しました。