小惑星
児童文芸、といっていいのかはわかりませんが、童話的な描き方を目指してみました。アドバイス等頂ければ幸いです。
とっても短い作品ですが、この世界観に何か感じて頂ければ嬉しく思います。
ボクはずっと前からここにいた。いつからいたのかは覚えていない。でもきっと、それはそれは大昔からここにいるのだろう。
藍色を煮詰めてうんと濃くしたような暗いソラが、ボクの四方にどこまでも広がっていて、あちこちで無数の光の点が黙って瞬いていた。その光たちは赤や青や白や、様々な色をしていたけれども、どの点もボクからはひどく遠かった。ボクはそんな不規則な瞬きをじっと眺めるばかりで、ただポツリとここを漂っていたのだった。
しかしたまに思い出したかのように、ボクのもとを訪れるモノがあった。
ある時は、青い羽根の付いた銀色のひしゃげたモノが流れてきて、ボクにコツリと当たった。
「やあ、アナタはどこから来たの?」
銀色のモノは何も言わずにそのまま通り過ぎた。
ある時は、赤い炎を噴く白くて細長いモノが飛んで来て、ボクにドスンと乗っかった。
「やあ、アナタはどこから来たの?」
白色のモノは何も言わずに暫く寝そべっていた。時々管のような何かを振り回したり、縦長のごく小さなよく動くモノを吐いたり食べたりしていたが、気が済んだのかその内また来た時と同じに赤い炎を噴いて飛び去って行った。
その他にも色々なモノがボクの周りを通って行ったり、時にはボクにぶつかったり乗り上げたりしたが、どのモノもボクの呼びかけに答えてはくれなかった。
そんなある時、またボクの方へと漂って来るモノがあった。そのモノはなんだかヒラヒラと動きながら、ゆっくりとボクの近くまでやって来る。近付いてみると、薄くぼんやりと黄色く灯っているのだった。今まで本当にたくさんのモノが通り過ぎて行ったけれど、その内のどれとも似ているところがなかった。
「やあ、アナタはどこから来たの?」
ボクはいつものように呼びかけてみた。
「やあ、ワタシはずっと遠くから来たの」
その淡くぼんやりとした黄色のモノは、はっきりとそう答えた。
「ボクの声がわかるの?」
「うん、わかるよ」
黄色のモノはグルリとボクの周りを回って見せた。
「教えてよ。その、ずっと遠くのこと」
ボクがそう頼むと、黄色の光が嬉しそうにボワボワと揺れ動いた。
「ある所にはね、真っ赤でギラギラと輝く、とてつもなく大きくて丸いモノがいたの。所々には黒い点があって、太くうねった炎の柱が飛び出しては吸い込まれていったわ。そうでなくても絶えず炎が渦巻いていて、ものすごい風が吹き出していた」
「ある所にはね、とんでもなく大きな輪っかを抱えて回っているモノがいたの。遠くから見てもただの茶色なんだけれども、近寄ってよくよく見てみると、黄色やピンク色をした岩のかけらや、キラキラした氷の粒たちが数えきれないほど集まって輪になっていたわ」
アナタはボクの知らないモノの話をいくらでも知っているようだった。ずっと遠くのどこかの話は、いつまで聞いていても飽きないほどで、どんな話でもワクワクするような不思議などこかを想像させた。
「そろそろ、もっと遠くへ行かなくちゃ」
どれくらい経ったのだろう、アナタは唐突にそう告げた。すると突然、今までに感じたことのないくらいに、ボクの中で何かが波打ち出した。これからまたここで、何かが近付いて来ることを待ち続けるのかと考えたら、その波打った何かがさらに激しく、暴れるように動き出していた。
「ボクもその、もっと遠くに、行けるかな?」
気付いたらそう聞いていた。
「行けるよ。キミも、ワタシと同じモノになればいい」
同じモノ――そう聞いた途端、そうなりたい、と思った。その思いは湧き出るように強くなって、同じになりたい、同じになりたい、とその思いでズンズンとボクが塗り替えられていくようだった。そうしている内にボクは、ボクというモノのことも忘れて、ただなりたいという思い以外に何も無くなってしまった。
ソラの片隅でパッと黄色い光が弾けた。爆発するようなその光が収まると、灰色の土くれの真ん中にぼんやりと黄色く揺らめくモノがいた。そこへもう一つの黄色い明かりが寄り添うように泳いでくると、生まれたばかりの明かりは擦り寄るように土くれの間から泳ぎ出た。それから二つの柔らかな黄色い明かりたちは、まるでじゃれ合うようにクルクルと動きながら、ソラのどこかへと漂って行った。
久しぶりの投稿でしたが、いかがだったでしょうか?
ご意見・ご感想など随時お待ちしております。