‐prologue. おとぎの国の不文律 4
『貴様の正義とは、悪を仕立てあげるためのものか?』
悪の総統の最期は、赫機関がみずからを全国に知らしめるデモンストレーションとして大々的に宣伝される中で、何度も報道がなされた。だがラキの遺したいくつかの言葉が、一部のネット上で激しい論争を巻き起こしたことはあまり知られていない。
『正義とは軽々しく大上段に掲げたり、ましてや、むやみやたらと振り下ろしたりできるものではない。ならば貴様の正義とはなんだ』
その後、赫機関の仕掛けた国中にはびこるアジトへの度重なる電撃作戦は大成功を収める。総統を失った秘密結社イグナイトは、それからたったの一年余りで壊滅したのだった。かつてイグナイトをまねて乱立した悪の組織も今では数えるほどとなっている。
かくて、『おとぎの国の不文律』と『正義の味方』は複雑に交じり合いながらこの国に定着していった。実際に誰もが目にできるものではなかったが、誰かが目にできる当たり前のものになっていったのだ。
赫機関がまた歴史の影に姿を消すと、代わりにセント・アーク・ローズ社が前面に躍り出た。包括的威力正義活動の実施主体として、セラフが真っ赤な衣装だったこともあってその名前からもじったサンタクロース社の愛称ですぐに知れ渡った。
この物語はそんな正義の味方の険しくも勇敢なる活躍を描いた、壮大なる抒情詩――
ではなくて。
未来兵装でガッツリ武装して比肩しうる敵のいなくなった正義の味方が、その強力無比ぶりを遺憾なく発揮し、悪党が醜態を繰りひろげる物語である。
「と言うワケで、あんたらを殲滅しに来たんだけど」
六畳一間の安アパートのドアを開け放ち、セラフは仁王立ちしていた。
「はいーーーーーーー!?」
ちゃぶ台を囲んで正座する三人は、インスタントのカップ麺を開けたところだった。片眼鏡をかけた青年は驚愕の表情で腰を浮かして固まっている。
この一大事を知ってか知らずか、残る大と小の二人――ワイルドな風貌の無表情の男となぜかネコミミをつけた執事は、気づいていないかのようにカップ麺をすすり始めた。
テレビでは相変わらず、ナゾに包まれた組織こと赫機関の特集が流れていた。
次は2月9日アップです。