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魔術師たちのあれこれ

「ユージェニー……お前、めちゃくちゃやってくれたな」

 カーラを床に座らせて、ジェンセンはアイラに書かせた魔方陣に目を落とした。ユージェニーのかけた術が解けたのか、元のように床に魔方陣が描かれている。

「なかなかやるなって誉めてほしかったのに」

「あほう。呪文一つで魔方陣の飛び先冥界に変更するわ、地獄の番人呼び出すわ――見ろ、床が焦げてるじゃねーか。どんだけ負荷かけてるんだ」


「何よー、あなただって外への脱走ルートの確保と、陣内にいる人間の拘束と二つの魔術を一つの魔方陣に仕込んでたじゃないの!」

「それを勝手に書き換えるなっ!」

 顔を突き合わせるなり、ユージェニーとジェンセンは激しくやり合う。

「わたしはごめんだよ、こんなの。あんたらと同じ水準のことをやれって言われても無理だからね」

 ぐったりしたべリンダは、床に座って壁に頭を預けた。完全に疲れ切っているようで、そのまま目を閉じてしまう。


「エリーシャ様、ご無事で何よりです。申し訳ありませんでした」

 真面目な顔になったジェンセンは、エリーシャに向かって頭を下げた。

「わたしは大丈夫。それより、おじい様は? 皇帝宮は無事?」

「――はい」

「それならよかった。おばあ様とセルヴィスは?」

「無事です。セルヴィス様はお出かけになっていたので――」


 全員の無事を確認したところでエリーシャは立ち上がった。

「ダーシー」

 エリーシャの方から呼びかけられ、ダーシーは慌てて膝をつく。

「婚約を解消してもいいわよ。このままここにいれば、あなたも巻き込まれることになりかねない。ここを出て、どこか遠くへ――」

「いえ。わたしはここに。命をかけてお守りします――そう誓いました」

「あなたじゃ役に立たないけど?」

 それでも、いつもの彼の言葉に安心したようでエリーシャの表情が幾分晴れやかなものへと変化した。


「カーラの手当てをしてあげて。それから――そこを片付けて」

 どうやらこのままここで今後について話し合うつもりらしい。そう悟ったアイラは、壁際に寄せた敷物を黙々と戻し始めた。焦げた床については今できることはないから、後回しにする。

 それに気づいたべリンダが、テーブルを元に戻すのを手伝ってくれ、襲撃の前と同じようにクッションが並べられる。

 ジェンセンはダーシーに手伝わせて、吹き飛ばされた扉を壁に立てかけていた。この扉もまた修理が必要だ。


「とりあえず、見た目だけでも扉をつけておこうか」

 そうつぶやいたジェンセンは、幻の扉を作り上げて元の位置にはめ込む。知っていれば扉を素通りできるけれど、知らない者の目にはきちんと閉ざされているように見えるだろう。

「外の様子を確認してくるよ。被害の状況も」

 起き上がったべリンダが急ぎ足に部屋を出ていく。ユージェニーもジェンセンも本来ここに出入りできる身分ではないから、ここの侍女として働いているベリンダが動くのが一番早い。

 さほど立たないうちにべリンダは戻ってきた。何故かお茶道具と茶菓子の載せられたワゴンを押して。


「被害を受けたのはこの宮だけ。厨房は無事だった。こういう時には甘いものが一番だよ」

 感情を交えない声音で淡々と説明すると、ベリンダはお茶の用意を始める。アイラも急いで手伝い始めた。

 攻撃を受けたのはこの宮だけで、ファナとイリアも無事らしい。皇宮に仕える魔術師たちが結界を急いで修復しているという話だった。

 傷の手当てをしてもらったカーラは、並べたクッションに寄りかかるようにして眠りに落ちている。彼が一人で動けるようになるまでには数週間かかるだろう。


「ジェンセン、ベリンダ、ユージェニー。今のクリスティアンは、あなたたちの目から見てどう?」

 皆の前にお茶が配られるのを待って、エリーシャは口を開いた。

「恐るべき敵です。エリーシャ様。クリスティアン様は、タラゴナ皇室の血を引いている。この宮に施されている結界も、彼なら簡単に破壊することができる――現に破壊されましたが」

 ジェンセンは渋い顔をしていた。彼の結界が破られることなんてなかったのに。

「魔術師としての才能で言えば、わたしのはるか上だ。どうやって知識を溜め込んだのかまではわからないけれど」


「あら、それならそれほど難しくないでしょう。何故、セシリーが彼を生き返らせるまで二年かけたのだと思う? 恐らく、魂に直接叩き込んだのよ。セシリーの持つ全ての技術を」

 考え込んでいるベリンダにさらりと言ってのけると、ユージェニーはため息をついた。

「それにしても、厄介ねー。クリスティアンは、セシリーと同等ってことでしょ。中級魔術師くらいだと思っていたのに。光の精霊を閉じ込めた指輪まで借りたのに逃げられるんだもの」

「――壊れちゃったじゃない!」

 横からアイラが口を挟んだ。


「お黙り、小娘。光の魔法は不得手なんだからしょうがないでしょ!」

「……そうね、死体を操るくらいだから闇の方が得意?」

「言っとくけど、それはあなたの父親だって得意なんですからね!」

 不毛なやりとりを広げているアイラとユージェニーに室内にいる全員の目が注がれる。生暖かい視線に気が付いて、ようやく二人とも黙った。


 アイラはベリンダがいれてくれたお茶にたっぷりと砂糖を放り込んだ。これからどうすればいいのか――静かに紅茶をかき回してエリーシャの言葉を待つ。

「ユージェニー」

 エリーシャが口を開いた。

「あなたは、これから先もわたしに協力してくれるつもりなの?」

「精いっぱい務めさせていただきますわ――女帝の槍をお借りしなければなりませんもの」

 気取った口調でユージェニーは言う。八十過ぎてるならもう十分生きただろうになぁとアイラはとても失礼な感想を抱いたのだけれど、さすがにそれを口にするのは遠慮しておいた。


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