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同行者が増えました!

「お前についてこいと命じた覚えはないんだがな。何を勝手についてきている?」

 商家の女性を演じるならば非常にまずい恐ろしい形相で、イヴェリンは言った。

「勝手じゃないですよ……それに、あいつも一緒だし」

 フェランが指さした方向から、ゆっくりと歩いてくるのはライナスだった。

「何故、あいつまでいるんだ!」

 イヴェリンは額に手を当てる。アイラの口がぽかんとあいた。


 フェランの分まで荷物を持ったライナスが、仏頂面でこの場に到着しようというところだった。

「ライナス」

「ゴンゾルフ団長の命令ですよ、イヴェリン様」

 呼びかけたイヴェリンの言葉を、ライナスは右手を上げることで制した。


「何故、そうなる」

「心配だったのでしょう。影ながら護衛しろと」

「結婚後、一人で任務に出るのは初めてだったからではないですか?」

「馬鹿か、あいつは! 護衛くらい一人で大丈夫だ!」

 珍しくイヴェリンがきぃっとした表情になる。


「というわけで、手代とかそんな感じで連れて行ってくださいよ」

 こりないフェランが、口を挟んだ。

「……お前も馬鹿だな。こんなふざけた顔をした手代がどこにいる!」

 フェランの両頬を思いきりひねり上げながらイヴェリンが言う。まぁまぁ、とアイラは二人の会いだに割って入った。


「フェラン様もライナス様も手代には見えないですよ。あと、イヴェリン様とわたしの想定している店はそんなに大きくないです」

「じゃあ、護衛とか」

「乗り合い馬車の料金けちって歩いてるのに、護衛を雇う人はいませんよ。とにかく、ついてこないでください」

 フェランとアイラがやりあっている間に、イヴェリンとライナスの二人はおとなしく話をしていた。


「とにかく、お一人でアイラを護衛するのは危険です。俺たちも連れて行ってください」

「わたしが一人では任務を果たせないと? それに、アイラも自分の身くらい自分で守れるぞ」

 イヴェリンは首を振った。夫に信頼されていないと思えば、彼女のプライドが傷ついた。女性で初めて副騎士団長の地位にまで上り詰めたというのに。


「どっちにしても、フェラン様とライナス様とご一緒は厳しいでしょう。お二人とも、どう贔屓目に見たって身分を偽って遊びに出ている貴族の子弟ってとこです」

 フェランを振り切ったアイラが遠慮がちに申し出る。

「このまま帰れば、ゴンゾルフ様に叱られることになるでしょうし、一緒は無理としても――お二人にもダーレーンに入ってもらったらどうですか?」


「アイラ」

「イヴェリン様一人じゃ心細いとかそういう理由じゃないです。このまま追い返すと、帰ってから後面倒ですよ! ゴンゾルフ様、心配しすぎて泣いちゃうかも」

 アイラの名を呼びかけたイヴェリンだったが、夫の名を出されてつまった。あの男が、意外に泣き虫なのを彼女はよく知っていた。

「わたしとイヴェリン様の先に行くか後に行くかは別として、お二人にも同行してもらいましょうよ」

 さすがに、いつまでもここで押し問答しているのは「めんどくさい」などと本音を出すわけにもいかなかった。


「それじゃ、そういうことですから。さ、お姉さま! 行きましょう! では、お坊ちゃま方さようなら」

 まだ首を捻っているイヴェリンの腕を引くようにしてアイラは歩き始めた。

「お坊ちゃま方って俺たちのことか?」

 呆然としてライナスはつぶやく。彼らは身分を偽るような真似は思いつかなかったから、確かに貴族のお坊ちゃんズという認識で正しかったのだが。


「しかしだな、エリーシャ様の護衛はどうするんだ……」

 遅れてしまった分を取り戻そうと急ぎ足に歩きながらイヴェリンはつぶやいた。

「皇女宮にいらっしゃるのなら、問題ないでしょう。外出禁止になっているはずですしね」

 皇女宮に残ったエリーシャは、近頃の心労がたたって寝込んでいることになっている。いつもの思いつきで後宮を出ない限り、厳重に守られた場所にいるわけだから安全だろう。


「ジェンセン・ヨークはどうしている?」

「あー、基本的には皇女宮の中の図書室ですねぇ。こちらからの呼びかけには応じてくれますが、よっぽどの緊急事態じゃないなら連絡するな、と」

 アリアの手が首から下げた青い宝玉に服の上から触れた。出立前に父から持たされたものだ。貴重なサファイアを魔水晶でくるみこんだその品は、どれだけ遠く離れていようとアイラと父を結びつける力を秘めていると聞いた。

 父が、厳重に結界を施したタラゴナ皇宮にいたとしてもだ。


「そうか――しかし、あいつら怪しすぎるんじゃないか?」

 いえ、あなたも怪しいですよとはアイラには言えなかった。最初のうちは商人らしく、おとなしくしていたイヴェリンだったが、すっかり元の言葉遣いに戻ってしまっていた。

「イヴェリン様、地が出てます」

「――しまった。すまない――だが、お姉さまと呼べと言わなかったか?」

「お姉さま、今夜の宿はあの店でいいかしら?」


 アイラが指さしたのは、街道沿いにある小さな宿だった。フェランやライナスたちとやり合っている間にあたりはすっかり暗くなっている。その店からこぼれる光に吸い寄せられるように二人は入っていった。

 少しおいて、騎士たち二人も続いて店に入ったが、他人のふりをつらぬいたのである。


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