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レヴァレンド侯爵邸にて

「やれやれ。この屋敷、死人の集まりですなーいやあ、楽しくてしかたない」

 にやにやしながら、アイラの父であるジェンセンが庭園へと出てくる。

「ベリンダ、二階の一番東側の部屋見てみろ。葬儀屋を開けそうだぞ」

「葬儀屋?」

「死体が一杯。それもぴっちぴちで繰るにはちょうどよさそうな鮮度だったぞ」

 ジェンセンはにやにやしながら、アイラの方を見た。


「パパ、思わず死体を操ってしまおうかと思ったよ」

「エリーシャ様、殴っていいですか?」

 思わず右手を握りしめたアイラを、エリーシャは手で制してベリンダの方へと目をやる。

「葬儀屋は死体を売る店じゃないだろうが」

 嘆息して、ベリンダはエリーシャとダーシーに一礼した。


「東の部屋を調べて参ります。ジェンセン、死体を繰るのはやめろ。お前にとっちゃいい研究材料だがな――行くぞ」

「あー、真面目に報告してから行くから、先に行っててくれ」

「おまえが真面目になるとろくなことがない」

 そう言いながらも、ベリンダは屋敷の中へと消えていく。


「レヴァレンド侯爵ですが――」

 真面目な口調で話し始めたジェンセンだったが、すぐにダーシーの方へ向き直ると一礼した。

「この屋敷から少し離れたところで、遺体で発見されました」

「まさか」

 ダーシーが腰を浮かせる。


「父は別邸の方に行っているはずだ。セシリーをたずねて――なぜ、屋敷に戻っている?」

 正気に戻ったダーシーは、どこか人をくったような表情を浮かべていたのだが、さすがに血の気を失っている。

「彼女はもういませんよ、ダーシー様。姿を消しました」

「後手後手ね!」

 ジェンセンの言葉にエリーシャが嘆息する。まさか侯爵が遺体で見つかるとは予想すらしていなかった。少なくとも、まだしばらくの間はセシリーも侯爵を利用することができたはずだ。


 エリーシャたち帝国側の人間が、セシリーの存在に気がついたのはつい最近のことだし、侯爵に対して直接的な行動に出るまではまだしばらくの猶予があるだろうと思っていた。

 ダーシーとの婚約話を進めようとしていたのは、なんとかしてレヴァレンド侯爵に近づこうという手段でしかなかったのだけれど。


「屋敷の使用人たちも多かれ少なかれセシリーの影響下にあったようですな。全員治療が必要でしょう。生き残っている連中に関してはということになりますが」

 珍しく険しい表情になったジェンセンは、アイラの方を振り返った。

「アイラ、頼むから口を閉じてくれないか。せっかくの美人がだいなしだぞ」

「今は不細工メイクなんだけどね」

 父に辛辣な口調で返したアイラだったが、慌てて口を閉じた。なんだか驚かされてばかりで、口が開いていたのに気づかなかったのは失態だ。


「それよりも」

 ジェンセンは皇女に視線を戻して、最初の話に戻った。

「生き残りの治療を始めましょう。ひとまず、洗脳を解いて――皇宮にしますか、エリーシャ様??」

「……そうね。皇宮の中の建物を一つ借りられるように手配しましょう。おばあ様がなんとおっしゃるかはわからないけれど。いえ、魔術研究所にするわ。その方が安心」

 皇后オクタヴィアは、表立っていないとはいえダーレーン寄りだ。何か手を打ってくるかもしれない可能性もある。


「魔術研究所ですかぁ。あそこは敷居が高いんだよなぁ」

 ジェンセンがぼやく。

「何言ってるのよ、皇女宮にだって堂々と入ってくるくせに」

 アイラはあきれた顔をして、父親を見やった。

「では、エリーシャ様、魔術研究所の方の手配はおまかせしてよろしいですか? それから、死体も魔術研究所に運び入れようと思いますがかまわないでしょうか」


「ええ、それでお願い」

 真面目な顔になった父親に、アイラは少し驚いた。父親がこんな風に真面目になった姿を見るのは久しぶりのことだったから。

 自宅にもうけた研究室にいる父は、たいてい扉に背中を向けていたから、アイラが食事を運んでも見えるのは背中だけだった。たまに振り返っても、「おう」とか「ああ」とか短い言葉を発するだけ。


 けれどそんな彼を、尊敬していたことをアイラは思い出した。だからこそ、父の研究していた本を処分することはできなかった。

 イヴェリンに処分するな、と言われたということもあったとしても。


「ダーシー、あなたはこれからどうするの?」

 エリーシャがたずねた。ダーシーは考え込む。

「さすがにこの屋敷にとどまるのは恐ろしい気がいたしますね。とはいえ、別邸の中で一番近いのはセシリーに使わせていたものですし……かまわなければ、城下に宿でもとろうかと思いますが」


「いえ」

 エリーシャはすぐに彼の言葉を否定した。

「どこか適当な屋敷を持っているのなら、と思ったけれど――そうでないのなら、皇宮にいらっしゃい。少なくとも、皇宮にいる間は、おばあ様も手を出せないだろうし――警護という点では一番安心だわ」

「皇女宮に入れていただけるのですか?」

「馬鹿なことを言わないで」

 エリーシャは、ダーシーの言葉をぴしゃりとはねつけた。


「皇宮には、宿泊施設だってあるのよ」

 皇宮には、晩餐会が開催された時などに貴族たちを泊めるための宿泊施設がもうけられている。地方から皇宮にやってくる貴族も多数いるからだ。

「身分の高い貴族にしか使わせない一画があるから、そこをあなたの宿泊場所にしましょう」

 離れのようになって、独立している建物がある。エリーシャはそこをダーシーのために準備させることにした。


今年一年ありがとうございました!

ブログからの転載ですが、来年の活動その他もろもろについては活動報告に書かせていただきました。

来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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