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婚約が成立しました!

 ダーシーは用意しておいた茶の席へと一同を誘った。ダーシーとエリーシャが向かい合って座り、アイラやベリンダやその他レヴァレンド侯爵家の使用人達が側に控える。

「あのね、ベリンダさん」

 アイラはひそひそと側にいるベリンダにささやいた。

「この屋敷に張り巡らせた結界とやらはどうなったんです?」

「ああ、あれ?」

 けろりとしてベリンダは言った。


「エリーシャ様が、あいつの頭を蹴り落とした瞬間に内側から破壊したよ」

 いつの間に! 少しも気が付かなかった。アイラは嘆息する。というか、踵落としが合図だったのか。

「で、今はどうなってるんです?」

「んー」


 ベリンダの視線の先では、ダーシーがエリーシャの手を握ろうとして、思いきり頭をはたかれていた。

「皇宮の魔術師は入ってない。あんたの親父がどこかにもぐりこんでいるはずだ」

「……あいつは役にたつんですかねぇ?」

 アイラは顔をしかめる。

「あんたの親父は天才だよ」

「天才じゃなくて天災じゃないんですか」

 アイラは、しかめっ面になって主の方を見やった。エリーシャはダーシーの手から自分の両手を引き抜いている。


「これ以上手を握ろうとするなら、両腕を椅子に縛り付けるけど?」

「わたしの屋敷でそんなことをされてはたまりませんな。ではおとなしくこの手は引いておきましょう。エリーシャ様、結界を破壊してくださってありがとうございました」

「ふん」

 エリーシャは鼻を鳴らした。行儀悪いことこの上ないが、ダーシーの前で皇女として振る舞うのは完全にやめたようだ。


「これって正式な招待よね? あなたのお父様――レヴァレンド侯爵はどうなったのかしら?」

「父ですか」

 ダーシーはため息をついた。

「父は完全に取り込まれています――セシリーに。今日も彼女に使わせている別邸の方に行っていますよ」

「セシリーっていう名前、あちこちで聞くわね。ちょっと、誰もお茶をいれてくれるつもりはないの?」

 ダーシーが手を上げて合図する。レヴァレンド侯爵家の執事が足音もたてずに近寄ると、茶器を手にした。


 ゆったりとした動作で、彼がお茶の準備を調えていくのをエリーシャは黙って眺めている。

 それからカップが目の前に置かれるのを待って、改めて口を開いた。

「あなたがわたしに結婚を申し込もうとしたのは、帝国を乗っ取るため? 女帝の夫の地位がそんなに欲しかったの?」

「――それが欲しかったのは、父ですな。女帝の夫の父となれば、ある程度の権力を握ることができますからね」

 すました顔で、ダーシーは薫り高いお茶の入ったカップを手に取った。


「父が、セシリーとかいう女と密接な関わりを持つようになったのはここ一年ほどのことです。あの女、気が付いたら我が家を乗っ取っていましたよ」

 ふぅ、とダーシーはため息をついた。

「最初はわたしも抵抗していた――ですが、彼女の力は強かった。自分の意志というものは完全に失われていましたよ」

「それで?」

「彼女の支配がゆるみ始めたのは、ここ一月くらいのことでしょうか――前回あなたにお会いした時は、彼女の支配がゆるんでいた。あの時は大変失礼いたしました」

「ああ、あれ」


 けろりとしてエリーシャは言った。前回顔を会わせたのはエリーシャではなくアイラなのだけれど、影武者のことまで口にする必要はない。

「あの時は驚いたわ。あなたの顔をひっぱたいてやろうと思ったけどね、でもまあ――あの時の扇を返してもらえないかしら。一応、気に入っているのよ、あれ」

「むろん、お返しいたしますとも」

 ダーシーの合図によって、しずしずと銀の盆に載せられた扇が運ばれてくる。それがテーブルに置かれると、エリーシャは静かに自分の手元に引き寄せた。


「今日、侯爵はどうしたのかしら? あなたが操られていたとすれば、招待してくださったのは侯爵でしょう?」

 エリーシャの問いに、ダーシーは首を振る。

「わたしが扇を持ち帰ったのを見て、エリーシャ様を招待することを思い付いたようですね。本来なら、この屋敷で、あなたをもセシリーの支配下におくための何かを行うつもりだったようです」

 ダーシーは考え込むように目を閉じた。


「しかしながらセシリーにとってもっと大事がダーレーン国内で起こったようです。わたしに対する支配も昨日あたりからさらにゆるんでおります。そうでなければ――」

「ベリンダではあなたを解放できなかった?」

「それはわかりません」

 ダーシーの答えは、真摯なものだったのでエリーシャもそれ以上追求するのはやめたようだった。ダーシーがにこりとする。


「友好を深めませんか、皇女殿下?」

「友好を深めるとはどういうことかしら?」

「……このまま、このお話を進めましょう」

 にこにことしながら、ダーシーは言った。セシリーの支配下から抜けた後の彼は、意外に人好きのする笑顔の持ち主だった。その人好きのする笑顔が逆に胡散臭いとアイラなどは思ってしまうのだが。

 それをしらっとした顔で見て、エリーシャはため息をつく。


「いいわ、進めましょう。その方がめんどくさくなくていいわ。誰かと婚約しておけば、おばあさまもこれ以上はうるさく言わないでしょうからね」

 でも、と彼に向かって指をつきつけ、エリーシャは宣言した。

「婚約したからって、絶対に結婚するとは限らないんですからね!」

「それ以前に片づけなければならないことがありますしね」

 ダーシーもそれに同意した。

新刊が発行されたり、年内の仕事を片付けたり、風邪をひいたりとばたばたしておりますー!


もう一回年内に更新できればと思っていますがどうかなー。

皆様よいお年を!


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