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皇女出陣ですが、何か?

 ダーシーという男は、アイラやエリーシャが思っていたよりはるかに食えない男だったようだ。あの日、アイラが叩きつけて走り去った扇を、彼は皇宮に仕える侍女たちに渡すことなく持ち去っていた。

「うわあ、最悪」

 エリーシャは顔をしかめた。


「どうなさいました?」

 今は寝る支度を完全に終えたところだ。イリアとファナは、自分たちの部屋に引き下がっている。

 従って今エリーシャの部屋にいるのは、アイラとエリーシャだけだった。

「見てよ、この招待状」

 アイラの目の前に、美しいカードが差し出される。


「レヴァレンド侯爵家での茶会ですってよ。ふざけてるわ」

 エリーシャは顎をしゃくった。その一番下にある文にいらついたようだ。

『先日お預かりした扇も、その時お返しいたしたく』

 ふんと鼻を慣らして、エリーシャはアイラの手から招待状を取り上げた。

「どうなさるんですか――」

 問いかけてアイラは気づく。


 これは公式の招待状だ――ということは、アイラがエリーシャのふりをして赴くことになるだろう――と思ったのに。

「わたしが行く」

 アイラの予想に反して、エリーシャはさっさと結論を出した。

「無茶ですよ! ご自分がお命を狙われる立場だってわかってます?」

「――だから? だから何?」

 エリーシャは肩をすくめた。どうせレヴァレンド侯爵家には一度行かなければならないのだ。


「ベリンダとあなたを連れて行く――魔術師と護衛侍女連れて――ああ、あとはそうね」

 エリーシャの手の中で転がされたのは、後宮に潜り込んだアイラの父が残していった物だった。小さな青い石。

「あなたの父親にも協力をもとめようかしらね。使えるものは何だって使うのが、タラゴナ帝国家よ」

 エリーシャはにやりとして、手にした石に語りかける。


「聞いてるんでしょ? 出てきなさいよね」

「皇女様のご命令とあらば」

「――ベッドの上に転がり落ちるのはやめなさい!」

 姿を現したジェンセンが着地したのは、前回同様エリーシャのベッドの上だった。アイラのベッドよりはるかに柔らかいから、そちらを狙っているのではないかと疑いたくなる。


「いいこと? これでレヴァレンド侯爵家に乗り込む口実ができたでしょ。あなたに後を追わせるにはどうしたらいいの? この石を持って行けば大丈夫?」

「そうですなぁ、それだけでは不十分ですが。ベリンダをお連れになるのでしょう? 彼女に話をしておきますよ――ここから先は魔術師の領域になるので」

 すたすたと皇女の部屋から侍女の間へ出て行こうとする父親を、アイラは一瞬黙って見送りかけ――

「こら! 本来後宮に出入りしちゃいけない人間が、堂々とうろつくな!」

 ジェンセンの後頭部には、アイラとエリーシャ二人分のスリッパが命中したのだった。


□■□ ■□■ □■□


 招待状に書かれた日、エリーシャはアイラとベリンダを連れてレヴァレンド侯爵家を訪れた。

 馬車に乗っていたベリンダが嫌な顔をする。

「――なるほどね、これではジェンセンも手を打てないわけだ」

「どういうこと?」

「結界が張られている。これでは内部の状況を外から探索するのはなかなか難しい――外から破壊するのは労力がいる」


 ベリンダの言葉に、鼻の頭に皺を寄せたエリーシャは手にした扇で顔を仰ぐ。

「エリーシャ様、ジェンセンからは屋敷の内部に入ったならば、結界を破壊するようにと言われております」

「いいわよ、がんがんやっちゃってちょうだい。何なら屋敷ごとぶっとばしても」

 それはどうかとアイラは思う。屋敷ごとというのはいくらなんでもやりすぎ――いや、それより気になることがある。


「ねぇ、ベリンダさん。ひょっとして家の父が変なこと頼んだりしてません?」

「変なことってほどでもないけどね――アイラ。あいつは魔術師としては超一流だ。生まれ持った能力だけならな」

「生まれ持った能力だけって……」

「自分の面倒なことは、常に他人に押しつける。結界の破壊だってそうだ。あいつなら、外からだって破壊できるだけの能力を持ち合わせているのに面倒くさがってわたしに押しつけた」

 家の父がすみません、とアイラは頭を下げた。


 エリーシャ自ら乗り込むことにしたため、今日のアイラは素顔ではなくブスメイクだ。それにベリンダとお揃いの侍女のお仕着せを身につけて、スカートの下には短刀を二本忍ばせている。

「さーて、敵地に入るとしますかね」

 妙に好戦的な表情で、エリーシャがぽきりと指を鳴らす。むしろ、屋敷に入る前からヤる気満々ではないか。


 馬車は、屋敷の門をくぐった。

「気持ち悪い――何、この気配。よくこんな中で生活できるわね。この屋敷の住人は」

 エリーシャが不味いものでも食べた時のような表情になった。ベリンダも表情を険しくしている。

「アイラ、あなた何ともないの?」

「何とも。今日はいい天気だなーって」

 アイラには、目の前の二人が何を不愉快に思っているのかが理解できない。


「――ここまで術の影響に気づかないでいられるというのもある意味才能だな」

 ベリンダが嘆息する。

「確かにそうね」

 誉められているのかけなされているのかわからない。

「大丈夫、けなしているわけじゃないから」

 アイラの表情を読みとったようにエリーシャは言う。


「結界の破壊はいつ行いますか、エリーシャ様?」

「わたしが合図したらすぐに」

 かしこまりました、とベリンダが姿勢を正すのと同時に馬車は静かに停止した。



書き終えていたのがあったので投下。

ちょっとごたごたしてますので、しばらくの間、更新速度が限りなく低下します。


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