予告 raise1: カクセイキョウ WAKE UP
妖精のような衣装の少女に微笑みかけられて、イェルは慌てて目をそらす。
「もう一つの現実、ヴァーチャル・リアリティの最高峰、オンラインゲーム『レイズ・ザ・ワールド』へようこそ!」
露出が多すぎだろうと、イェルは心の中で呟くに止めた。
「目を覚ませ、人々よ」
いかにも仙人や教祖を名乗るのに相応しい、ひからびた様な男のアバターが訴える。
ヒナタにすれば、あなたが目をさましなさいよ、と言いたいところだ。
「覚醒教……VR教とも呼ばれる連中が、厄介な事にゲーム内部で増えている。
信教は自でいいと思うが、そこでは電子ドラッグが横行しているらしい。
今はゲーム内部でPKが多発する程度だが、放っておけば現実でも、いずれ、いや――」
もう、被害が出ていてもおかしくない。
いかめしい顔をした竜人が怒りと合わせて飲み込んだ言葉に、ヒナタは心当たりがあった。
「私が潜入すれば、捜査はもっと確実に進められるよね」
「危険だっ、そんな事はさせられん」
「だからこそ、効果は高い。でしょ?」
「この世界の私に価値がなくなった分、せめてゲームでは誰かに必要にされたいんだよ」
ヒナタの呟く言葉は、誰にも届かない。
人にさらせない心の奥底に積もった言葉は、木枯らしだけが聞いていた。
「バッカじゃね、所詮ゲームだろ」
「ボクのような人間がちょっといじれば、形も価値も変る世界に、意味はあるのかな?」
「状況は最悪だ。今夜にでも、連中はしでかすぞ」
「もう一度言っておこう。
もう【ストレイライン・ラン】は使わない事だ。
デザイナーのオレが、存在も知らず、使用禁止の書き込みも出来ない『何か』だ。
脳に多大な負荷ももかかる。次も無事とは、限らない」
「それでも! もう一人の自分を殺されて、悲しくならないわけないでしょっ!」
「一生懸命で何が悪い! 必死になって何が悪い!!」
「私は、私の全てを賭けて戦うだけだっ!」
『世界を賭けろ ―― レイズ・ザ・ワールド』
raise1: カクセイキョウ WAKE UP
現実に劣らないバーチャル・リアリティが作れるけれど、法整備が行き届かない程度の未来。
二つの現実を舞台に、人々の思いが交錯する。
「私はただ、やっとできた居場所を守りたいの」
『……お前は、昔から危なっかしいな』
大きな手がヒナタの頭に乗せられて、優しく髪をかき回される。
もし見上げたら、涼介はいつもと同じように、心配そうに悲しくなるような笑顔をしているのかも知れない。
そんな顔を見たらきっと、自分の決心が鈍る。
だから日向は、この優しい手の温度だけに心を寄せる。今だけは、涼介の声が失われている事に感謝した。
そしてヒナタは思い出したように振り返って笑った。
「ゲーム、愉しんでね」
十一月四日から連載開始。