プロローグ
ヴァルラード王国の第一王女である私、アイラ・ロディスはメンタルが弱くて、すぐ病んでしまう王女として知られている。
メンタルが弱くてすぐ病んでしまうのは事実であるが、そういう風に周りから認知されていることに私は少なからず不満を感じていた。
「ねぇ、セリーヌ、私ってメンタルが弱いから些細なことですぐ病んでしまうけれど。私なりに色々頑張っているのよ……」
私は自室にある白いソファに座りながら、沈んだ声ですぐ側に立っている私の専属侍女であるセリーヌ・レディーゼにそう言えばセリーヌは私を見て優しく笑いかけてから口を開いた。
「はい、アイラ様がメンタルが弱いなりに色々頑張っていることはちゃんと私は知っていますよ」
「それならよかったわ……」
「アイラ様、周りの声や噂は気にしない方が良いと思います。アイラ様が頑張っていることを知っていてくれてる方々もちゃんといますから」
セリーヌのそんな言葉に私の胸の奥底にあった不満は少し晴れたような気がした。
私は自室の窓から見える青白い晴れた空を見つめながら2日前にあった出来事を思い出し始めた。
✴︎
2日前の昼過ぎ頃。
私は王都の街にある桜並木を見たくて、私の護衛騎士の一人であるダリス・ドルヴィアを連れて、お忍びで王都の街へと訪れていた。
「綺麗ね……」
「そうですね」
ダリスはいつもと変わらない落ち着いた声色でそう言うだけで、私との会話を広げようとはしない。
そんな些細なことでも気にし始めたら止まらなくなくなるのが私だ。
「ねえ、ダリス、貴方って私と話すのあんまり好きじゃなかったりする?」
「いやいや、そんなことはないですよ。もしかして何かご不快にさせてしまいましたでしょうか……?」
ダリスは私を見て不安げな声で問い掛けてくる。
私はそんなダリスに問いに対して首を横に振った。
「不快にはなってないわ。ただ、貴方は私と話してても会話を広げようとはしないから。私と話すのはあんまり好きじゃないのかしら……?と思ってしまっただけよ……」
桜並木を歩きながらそんな些細な不満を言葉にして伝えれば、私の隣を歩くダリスは急に足を止めた。
「ダリス……? どうしたの?」
立ち止まったダリスに気付いた私は足を止めてダリスを見ると、ダリスは私を見て頭を下げてきた。
「私は殿下の騎士でありながら、殿下との会話を広げようとしていませんでしたね。嫌な思いをさせてしまい申し訳ございません」
「あ、頭を上げてちょうだい……! こんな所で頭を下げられたら私が変な目で見られるわ……」
「そうですよね、配慮が欠けておりました。大変申し訳ございません」
ダリスから再び謝られた私は優しい声で『大丈夫よ』とダリスに言ってから、再び桜並木の道をダリスと共に歩き始めた。
穏やかな春の心地良い風を感じながら、私は桜色に染まる桜並木を見上げて柔らかい笑みを溢したのであった。