詭弁
「これが……楽園?」
「そうとも!」
知也の言う楽園は森の中だった。
本当にただの森の中だった。
「こんなの楽園じゃないやい!」
トーマスは大声を出した。
知也はびっくりしてひっくり返った。自分のそっくりさんがこっくりさんをやってた時くらいびっくりした。
ひっくり返ったまま知也はトーマスをにらみつけた。
ギロリ。
「これは楽園だよ!」
トーマスも応酬する。
「どこが楽園だ!」
「ここが楽園だ!」
「お前の言う楽園ってなんだ!」
「俺が楽園と言ったら楽園だ!」
「そんなわけあるか!」
「俺はこの森を楽園と名付けた!」
「この森はヴァイスヴァルトという! 楽園などと言う名前ではない!」
「日本語では森を森と言い、英語ではフォレスト、ドイツ語ではヴァルトという! 僕の言語では楽園だ! 何がおかしい!」
「伝わる言葉を使いたまえ!」
「では貴様の言う楽園とは何か!」
「楽園とは、苦痛を味わうことのない、美しい、理想郷のことである」
「そんなものどこにある! 私の楽園はここにあり、貴様の楽園はどこにもない! 存在しないものを根拠とされてもこちらは困るだけだ!」
「言葉というものを何だと思っているのか! 貴様は”は”や”に”などの助詞を見たことがあるのか! それが示せるものだとでもいうつもりなのか!」
「くっ!」
知也は何も言えなくなりました。
「つまり、楽園は、見えなくても、あるのだ!」
「見えないものをどうやって知れと言うのだ!」
「霊的な目で見ればいい。
この世界の神は偽物である。真の神はプレーローマといわれる世界に存在しており、私たちの霊の起源はプレーローマである。
私たちの苦痛は肉――つまりは偽の神のせいである。
肉体という檻を脱出し、プレーローマへ到達すること、それが私たちの目的である。
どうすれば良いか。知を求めるのだ。知は私たちの精神を向上させる。
肉体を蔑視せよ。
さすれば汝に楽園が与えられん……」
なんかよくわからないけど楽園ってすげー、と思った知也は自身の楽園観念を捨て、トーマスの楽園観念を自身の辞書に採用することにした。楽園は肉体を蔑視し、知を探求すれば到達できる……なら、僕は勉強しよう。
こうして知也は勉強して、大学教授となった。




