焔風の支配者・十九
あと一話でサブタイの数字が20に……
あと二話で第100話に……
──午後3時・富士山町南部──
これまで俺はそこまで大きくないものしか使えないからあえて破片だけを使って攻撃をしていると思っていた。巨大な物は扱う上で不都合であるためあえて避けていると。よってこれは避けるだろうと思っていた。
しかし違う。ここまで来れば断言しても良いだろう。偽ハナビは全ての物体を触らずに自分の管理下に置けるような強大な力を持っている!ますますどうするかだな。うーむ、ちょっと退きたくなってきたかもしれない。
「どうする!?あれもう攻撃通んんねえぞ?」
建物を背後にずらして落としているハナビをよそにテイラーの元に戻って横でそう叫ぶ。万策あれど無限じゃねえ、いつかは尽きるはずだ。そしてこいつは……
「避けっ──」
「危ない!」
「うおおっ!」
確実に避けたと思ったが、きっと避けた先を見越されていたんだろう。俺たちの体にだんだんと切り傷が増えていく。どれも致命傷になるような物ではないが全身が痛むとその分動きが鈍くなる。
「……魔力は何割残ってる?」
「まだ7割はあるぜ。持久戦なら任せろ!」
「そう……2割残して一撃入れるよ」
「え、いやちょい待て、もうそんな作戦しか残ってないのか!?」
「いいから信用して!」
そう言ってテイラーは勝手に右手に魔力を貯め始め……と同時に目を開けていられないほどの風が吹いて来る。こいつマジでやる気かよ。
(だが確かにこのままじゃイタチごっこか……)
俺の能力は殺傷力が高いようでその実低い。これはより大きな爆発にしたい時その分黒球をより大きくしなければならない──つまりは爆発の「密度」を変えられないからだ。更に言えばその爆発を一点に「集中」させたりもできない。だからこそ能力に使う魔力はほぼないと言えるし、今もこんな魔力が残りまくっている。なら!
「デカい一発を頼むぞ」
「もちろん!」
テイラーに魔力を渡す。もう少しなんて言わない、俺の魔力のほとんど、言われた通り2割が残るように左手からテイラーの右手に魔力を流し込む。これによりより一層辺りの風が強く吹く。それに伴って辺りの瓦礫が地を這ってこちらに向かって来るがこれは攻撃じゃない、ただの余波だ。
この集まってきた風はこの音とエネルギーをテイラーの右手に入れていく。そうして右手の先に現れたこのまとまった風?のような物は見ると毛糸玉のような何かが高速で回転しているようだ。右手だけでは抑えきれないのか、テイラーは自身の左手を右手に添える。
テイラーの『風操』を大量の魔力で扱うとどうなるかは上の風壁を見れば明らかだろう。風を操り、意のままにする。俺とテイラーの二人でなら魔力量的にはあの風壁と同等だ。そして、
「今だ、打て!」
「了…解!」
テイラーなら膨大な魔力を一点に集中して打ち出すことができる。
打ち出された風球は偽ハナビを飲み込むくらいなら十分と言えるほどの大きさになり、打ち出された途端に速度を急速にあげる。先ほどとは逆に辺りの瓦礫を吹き飛ばし、道路を削って尚その瓦礫を撒き散らしながら、質量のように進んで行く。目標はただ一人、偽ハナビの元だ。
「…───!」
何かを言っているが風球の音でよく聞こえない。さて、何度目かの願掛けだが……これでどうだ!?
風球は勢いを落とすことなく偽ハナビに飛んで行き、進み、進んで……
今度は止まることはなかった。
ゴゴゴという音と共に風球が過ぎ去っていく。俺たちは偽ハナビがいたであろう場所を見るも、そこにはもう偽ハナビはいない。逃げられた?その可能性はある。どこかに隠れている?それもある。風球に吹き飛ばされた?それも……
「危なかった〜。ちょっとやりすぎじゃないの??」
「ハッ!お前がまだやれるんならやりすぎも何もねえだろ」
クソ、思い通りに行かねえ。
気付けば偽ハナビは今度空に浮かんでいる。そして適当なことを言いながらゆっくりと降りてきて、つま先から丁寧に着地までした。ノーダメージか?いや、さっきみたいに上空数十メートルってわけでもない、こいつは今攻撃を避けるためだけに動いたんだ。つまりはアレは当たれば効くな?
「さて、次はどう来るの?それとももうネタ切れかな?」
「いーや、こっちはまだあるぜ?少なくとも俺はまだ案を出し切ってねえ」
「へぇ、いいじゃんか!折角の機会だし全部見せてよ!」
「随分とまぁ、余裕なんだな」
「余裕?いや、多分私は今この中で一番焦ってるよ……折角なんだし早くもっと遊び尽くさないとってね!」
「そうかいそうかい、舐めプ乙っと。テイラー、後いくつ案ある?」
「そうね……次が最後かな?それも一番ビッグな奴」
「そうか、じゃあそれやったら俺の言うこと聞けよ」
「そんなこと出来ないと思うけどなー」
「それはやってみればわかるな!」
大丈夫だ、戦いのテンションを下げるな。今必要なのはパフォーマンスを上げる思考であって、正論であれど下げる思考は雑音だ。大丈夫、勝てるさ。
「じゃあ……今だ!」
……は?
何も言われていない状態、これまで俺は何かしらをテイラーに言われ、そこから結局何をさせたいのかを考えて行動していた。テイラーはもっと少ない言葉で行動できるにせよ、俺にとっては「今だ!」だけでは何をすればいいのかわからない。そのためかそう言われた直後、少しだけ、本当に一瞬だが、確かに俺は動きを静止した。
その刹那だった。
グサリ
と生々しい音が響いたのは。軟骨を噛み砕いたような音。決して硬くはないが柔らかくもない、そんな物を一気に切る時に出る音を聞いて俺は我に帰る。
「??、あれ、なんで、痛い……?」
痛いという情報で十分だ。苦しみの声が聞こえる。痛い、苦しい、何これ、ひどい、なんで。
偽ハナビが後ろを振り返ることでようやく理解する。偽ハナビの背中を見ることができたからだ。彼女は体を貫いてはいない。ただ短めのナイフで斬っただけ。それでも背中の大きく斬り跡は日常では見ることのない出血を始める。それをしたのは他の誰でもない。チハヤだった。
『風操』
文字通り、風を操る能力。ただし風を何と定義するかは本人のみ知る。




