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能力教室の号哭  作者: たるたるそーす
星を追う飛魚編
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焔風の支配者・十三

 ──午後1時30分・道路──



「私こそ私こそってなぁ、『俺』じゃないんだな」


「あの『私』はすごく可哀想だったからね。ちょっとだけ変わってもらったんだ」


考えれば考えるほど意味がわからねえ。なんなんだこいつは。なんでこの状況で、いや、この状況だからこそこんな事を!?


「……いつどこで俺に恨みを持った?」


「言いたくないなぁ〜。だってもう、わかってるんでしょ?」


「……俺に復讐するためだけに、ハナビを乗っ取ったのか!?」


「そんなおっきい声出さないでよ、お兄ちゃん?それに私は決して無理矢理乗っ取ったり、騙したりしたわけじゃないんだよ」


「なら尚更!!」


「もうさ、いいでしょ?お兄ちゃんはこのままいなくなった方がいいの」


恐ろしいほど冷たい言葉の後に感じた激痛はまたしても何かの破片が体を突いたものだった。今度は俺が壊した塀の一部だった。


「うっ、ゴフッ……」


とうとう耐えられなくなって口から血を吐くも、俺は偽ハナビを見る事をやめない。全身の至る所が炙られてるみたいに熱いが、それでも俺が今こいつに向ける視線にはただ一つ──敵意のみを露わにする。汗で視界が滲んで歪む俺の目と、余裕と敵意を剥き出しにするかのような笑みを浮かべるハナビ、そんな視線が俺たちの間で交錯する。


「お前……もう……俺を、兄と呼ぶな……気色…悪い」


「そう?じゃあ私はなんて呼べばいいのかなぁ?」


「引っ込んでろよ、パチモンが……ハナビは、どこだ?」


「はぁ、物分かりわる〜。だーかーらー、私は──」


「……退いて」


そんな言葉と共に風の斬撃 (らしき)ものが飛んでくる。新しい攻撃か?いや、狙っているのは偽ハナビだ。それに気付いた偽ハナビはその斬撃を一瞬見ると同時にそれを停止させ、さらに逆向きに打ち出す。元の攻撃者であるテイラーは直ぐにそれを避けると、一気に距離を詰め始める。


「あ、お父さんだ〜。お父さんは好きだよ、私!」


「なら尚更退いて!ヒバナに手を出さないで!」


「……ちぇーっ。仕方ないし、今は退くよ。じゃ、またね、お兄ちゃん?」


「……」


「待ちなさい!」


テイラーの叫びも聞かず、偽ハナビは当たり前のように空に浮き始め、何処かへ飛んで行ってしまった。










 ──午後6時・テイラー家──



「……………!」


気付けば俺は寝転がっていた。ゆっくりと目を開けてその天井を見る。ここが家であり、自分が今ベッドで寝ていることに気付いたのはそれから2分後だ。それまでずっとなんとも言えない気持ちで何もせず、ただ天井を見続けていた。穴の空いていない、傷ひとつない安全な天井を。


「起きた?」


首だけを動かしてその声をたどると、テイラーが車椅子から身を乗り出すようにして俺の顔をのぞいている。目に見えて心配している様子のテイラーに今の状況を聞いてみる。なんと質問したかは覚えていないが意図は伝わった様で知りたい情報は教えてくれた。


どうやら俺はあの後すぐに気絶する様に眠ったらしい。テイラーが言うに怪我と魔力切れと精神的な消耗が重なったためだと言う。そうして俺はミズキに運ばれてこの家に辿り着き、今の今まで寝ていたそう。──丸一日。


今日はもう9月29日、俺は30時間近く眠っていたのか。その実感と共にようやく上体を起こす。


ハナビは未だに行方不明。テイラー、ミサキ、チハヤの三人で捜索は続けていたらしいが、昨日の一件以降なんの手掛かりも掴めないらしい。その間ミズキは俺に治療を施してくれていたそうだ。腹を触ってみたが傷の触感がなかった。体は大丈夫だろう。


段々と頭がクリアになってきたしこっちも行動を始めようとしたが、テイラーに止められて渋々今日一日は動かないことにした。流石に自分の状態は自分が一番わかっているし、テイラーの必死の様子を見ると無理に動くのも気が引ける。よって俺は頭の中で情報整理を始める事にした。



さて、今の目標は「ハナビを取り返す」こと。そのために俺たちはまず偽ハナビを探す必要があるな。


偽ハナビ──あいつはほぼ確でハナビのふりをした他人だろう。とんだバケモンだな。あいつはハナビがいなくなったタイミングを見据えてわざわざあんな手口を使い、完全に油断させたところで俺を殺しにきた。「バイバイ」っていう言葉からもあいつは間違いなく殺すつもりだったんだろう。


逆に考えろ。あいつはハナビがいなくなったタイミングで、つまりハナビが消える事を知っていた?何故か、ハナビ失踪と偽ハナビにはなんらかの関係があるはずだ。あいつの正体も、ハナビの行方も、動機も何もかもあいつを捕らえて吐かせればいいだけだ。


だがそのための問題が二つ……一つ目は俺たちは必ず受け身の状態にならなきゃならないところだ。どんなに必死に探したとて人手が100人とかいるならまだしも、町から隠れている一人の人間を探すことなんてほぼ不可能だ。唯一確実に見つけられるタイミングとしては向こうが行動をすることだが、それだと間違いなく不利な戦いを強いられるだろう。


二つ目……奴の能力だ。あいつの能力はなんだ?変装、それも全くの違和感なくハナビになりきる能力と思ったが、それだと破片攻撃の説明がつかない。逆も然りだ。これがわからない以上下手に攻めても返り討ちに遭うだけだろう。俺でさえ認知すらできないスピードの攻撃だ。万全の状態で全力でやり合っても勝てる気がしない。


どちらにせよもっと情報がいる。偽ハナビの捜索は最重要と言っていいだろうな。幸い噴火のピークは過ぎたっぽいし、風壁も安定している。これで俺も本腰を入れて調査ができるってわけだ。



「ふぅ……」


誰もいなくなった部屋の片隅で一人溜息をつく。本当ならここにはハナビがいたんだろうな。

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